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側近の足が止まっていた。夏朗のそばで、まさにぴたりと。
慎也の背後で人々の足も止まった。そして誰もが絶句した。誰も何も言えない――当たり前の光景であった。
畳に仰向けになった李凰の上に夏朗が覆いかぶさり、李凰の髪や頬をまさぐるように撫でながら、何も言わない唇を割るようにして自身の舌をその中に侵入させて、まるでなぶるように、とりつかれたかのように、まさに一心不乱に絡みついているのだった。
いつしか梨子の奇声はやんでいた。この場にあるものは静けさと、それから夏朗の舌が李凰の舌に激しく絡む音のみであった。
そのまま一体どれほどの時間が過ぎたのか。夏朗様。誰かが言った。ようやく夏朗が一方通行の口づけを終了し、李凰の唇から唇を離した。そのまま崩れ落ちるように李凰の胸元に顔を乗せた。血が自身の頬にべっとりと付くことなどまるで構わぬようであった。むしろその血を自身の肌に染み込ませているかに思えた。
夏朗の唇は唾液に濡れ、腕は李凰の身をしっかりと抱き、皆のいるほうを見るその目はまるで李凰が自分の所有物であるかのように語っていた――まるで幼子がぬいぐるみを抱きしめながらこれは自分のものだと他人を睨みつけるかのような。
表情のないその目から一筋の涙が流れた。それは李凰のもとに向かって流れてゆき、その血まみれの胸に落ちた。
この世界には自分と李凰しかいないと、夏朗の目は語っていた。