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これにもやはり返事を求めることはなかった。李凰は笑いながら夏朗の名を呼んだ。
「発つのは明け方でも良い。今夜は私の部屋に来なさい。一緒に寝ようね」
そう言いつつゆったりと立ち上がり、少し歩を進めると夏朗のもとにかがみ込んだ。そうしてそっと手を伸ばすと夏朗の頬に触れた。
「可哀想に、ひどい顔だ。連日の寝不足がたたっている」
それから柔らかく笑った。
「さあ行こう。あたたかい布団で一緒に寝ようね」
「私は罪人であります」
李凰の顔から笑みが消える。夏朗の目をじっと見据えたのちに再び笑った。
「私が良いと言えば良いのだ。さあ行こうね」
李凰が夏朗の手首を掴む。李凰のその手を夏朗はもう片方の手で掴み、自身の手首から離した。
「いいえ」
夏朗は言うのだった。
「行きません」
至近距離だ、すぐ目の前には李凰の顔がある。
李凰は笑っている、しかしその目は笑わない。夏朗、と言った。
「私はおまえの無礼さえも許してやろうとしているのだよ。すべてを水に流してやるのだ。だから、ほら、いい子だから」
再び李凰の手が夏朗の手首のもとへやって来て、瞬時に夏朗はそれを引っ込めた。
それから言った。李凰の目を正面から見据えて。
「私は罪人としてこの国で散るのです」
宣言であった。そして李凰は片頬だけで笑うのだった。
「碧と同じになりたいか」
夏朗は答えない。
李凰の手が伸びた。今度は夏朗の唇に触れた。親指で、それをなぞった。
「おまえが真に愛している者の名前だ。言ってみなさい」