表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
105/118

6

 これにもやはり返事を求めることはなかった。李凰は笑いながら夏朗の名を呼んだ。

「発つのは明け方でも良い。今夜は私の部屋に来なさい。一緒に寝ようね」

 そう言いつつゆったりと立ち上がり、少し歩を進めると夏朗のもとにかがみ込んだ。そうしてそっと手を伸ばすと夏朗の頬に触れた。

「可哀想に、ひどい顔だ。連日の寝不足がたたっている」

 それから柔らかく笑った。

「さあ行こう。あたたかい布団で一緒に寝ようね」

「私は罪人であります」

 李凰の顔から笑みが消える。夏朗の目をじっと見据えたのちに再び笑った。

「私が良いと言えば良いのだ。さあ行こうね」

 李凰が夏朗の手首を掴む。李凰のその手を夏朗はもう片方の手で掴み、自身の手首から離した。

「いいえ」

 夏朗は言うのだった。

「行きません」

 至近距離だ、すぐ目の前には李凰の顔がある。

 李凰は笑っている、しかしその目は笑わない。夏朗、と言った。

「私はおまえの無礼さえも許してやろうとしているのだよ。すべてを水に流してやるのだ。だから、ほら、いい子だから」

 再び李凰の手が夏朗の手首のもとへやって来て、瞬時に夏朗はそれを引っ込めた。


 それから言った。李凰の目を正面から見据えて。

「私は罪人としてこの国で散るのです」

 宣言であった。そして李凰は片頬だけで笑うのだった。

「碧と同じになりたいか」

 夏朗は答えない。


 李凰の手が伸びた。今度は夏朗の唇に触れた。親指で、それをなぞった。

「おまえが真に愛している者の名前だ。言ってみなさい」



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ