8年振りの登校
こんにちは、ナコです! 今日はひっっっさしぶりに学校に行くよ! 昨日まで26歳だったから、じつに8年振りか!楽しみ〜!
私は両親に挨拶をし、家を出た。妹は基本9時まで寝ていて遅刻するので、一緒に家を出ることはない。
「ナコちゃんおはよ〜!」
駅で同じクラスのケンジくんに会った。せっかくなのでそのまま一緒に電車に乗っていくことになった。ケンジくんはいつも警察に捕まっている。
「はくしょい!」
ケンジくんは基本裸だから基本風邪を引いている。私まで変態だと思われたら嫌だなぁ。ちょっと離れておくか。
おそらく彼はただの変態ではなく、天から授かった使命かなにかでこうしているのだろう。でなければやばすぎる。多分来世は服を着たまま生まれて、服を着たままお風呂に入るような人間になるのだろう。極端な男だ。
「僕さぁ、豆乳がどうしても好きになれないんだよねぇ!」
私が離れたせいかケンジくんが大声を出している。こいつなんで普通に話し始めたんだろ。私が離れた意味分かってないのかな。
「そんでさ、僕考えたんだけど! プリンみたいに固めたら美味しそうじゃない? 豆乳は豆だから、同じ豆製品の醤油をかけたら美味しくなりそうだよね!」
それ豆腐やん。なんでそんな大声で頭悪そうな話をするんだ。話しかけられてる私も同類だと思われてるよ。
「きゃああ!」
乗客の1人が悲鳴を上げた。ケンジくんの方をまじまじと見ている様子だ。また警察呼ばれて逮捕される流れだな、こりゃ。
「見てください、これ!」
その乗客は私にスマホの画面を見せてきた。ケンジくんの写真だ。写っているものを見る限り、今撮った写真で間違いないだろう。人の裸を盗撮するなんて、とんでもないやつだなお前。
「画面の真ん中らへん、見てください!」
画面の中央には、ちょうどケンジくんのジャングルが写っていた。
「拡大します」
すんなよ。⋯⋯ん? なんだこれ。人の顔のようなものが写っている。写真がブレたことや光の加減により、ジャングルの一部が顔に見えたのだろう。
「この顔、亡くなったおじいちゃんにそっくりなんです!」
そっくりっていっても、点が3つあってそれが顔に見えるかな、くらいの感じだぞ? これがおじいちゃんって、思い込みが激しいだけじゃないの?
「たまたま撮れた変な写真が過去に思い当たることと合致するのも、これだけ世界が広ければよく起こることだと思いますよ」
そう、今この瞬間にも世界のどこかでは同じようなことが起こっていることだろう。いちいちそんなのを気にしていたら精神がいくつあっても足りないと思うのだ。
そもそもお前のおじいさんがケンジくんのジャングルに住みついてるわけないだろ。完全な偶然だ。それとさっき悲鳴を上げていたけど、腕とか膝とかに顔があったら怖いのは分かるよ? ジャングルに顔があったら怖がるどころか笑うだろ。
心の中で全て吐き出した頃に、目的の駅に着いた。ケンジくんと別々の扉から降りた私は、彼に追いつかれないよう全力で走った。
せっかくだし、このまま私の学校である悪餓鬼屯高校まで走っていこう。この地域の電柱にはヤンキーの幽霊が3人ずつたむろしているのだが、私はこいつらが嫌いだ。前にブスと言われたからだ。
まあこいつらは電柱から1m以上は離れられない地縛霊なので、いないものと思えばそれまでなのだが。
「パンパパンでも食べられないパパンは!」
早速ヤンキー幽霊のターゲットになってしまった。なんなんだそのクイズ。絶妙にキモいんだよ。
あ、前から焼きおじさんが歩いて来る。こいつと目を合わせると仲間にされるので、私は下を向いて歩いた。
「なぜ俺が焼きおじさんと呼ばれているか知っているか」
話しかけられても絶対にヤツを見てはいけない。連れていかれる。
「あ、ナコちゃん! おはよう!」
隣のクラスのイケメン金持ちの羽野羽くんだ。
「うちにいい感じの生首コレクションがあるんだけど、今度見に来ない?」
自分で言うのもなんだが、私は友達のあさひちゃんと並んで学校一の美少女といわれている。だからこういう誘いが多いのだ。
「ごめんね、私生首はあんまり好きじゃないの」
本当は好きだけど、羽野羽くんがそもそも好きじゃないから嘘をついた。
学校に着いた私は、2年1組の教室へ向かった。下駄箱を見る限り、私が一番乗りだ! フハハ! 教室に入ると、黒板にでかでかと書かれている文字が目に入った。
『味噌汁』
赤のチョークでとんでもない大きさで書かれた味噌汁。これは何かの事件の解決のヒントなのだろうか。考えすぎ?
「お、長辺が一番乗りか!」
担任の大角先生が教室に入ってきた。一番乗りか! じゃなくて、まず挨拶をしろよ。最近挨拶出来ない人多すぎだよ。そうだ、黒板の文字のことを先生に聞いてみよう。
「先生、こんなものが⋯⋯」
私は黒板を指さして言った。黒板を見た先生はハッとした顔をしている。
「しまった、今日水筒に味噌汁を入れてこようと思って、昨日黒板に大きな字でメモしたんだった! ウイスキー入れてきちゃったよ!」
水筒に味噌汁ってなんか気持ち悪いな。そもそも水筒って水分補給のために持ってくるものだと思うんだけど、味噌汁で喉潤うの?
「今日は転校生が来るからな、楽しみにしとけよ!」
そう言うと先生は手に持っていた書類を教卓に置き、教室から出ていった。はて、高校2年生の時に転校生なんていただろうか。私の記憶が確かなら、高校3年間誰も転校して来なかったはずだ。
それから私は本を読んで30分ほど時間を潰した。基本的に私は余裕を持って行動するので、待ち時間が発生することが多いのだ。なので、こういう時は読書をして過ごす。
今日はこの猫大長老七宝先生の『狂い昔話』シリーズを読んだ。超泣けた。切ない恋の物語を書くことにおいて、この作者の右に出るものはいないと思わされるような作品だった。もう1度言う。このお話、超泣ける。
読み終わって余韻に浸っていたら、べろべろに酔っ払った大角先生が入ってきた。ウイスキー飲んでたのかな。
キーンコーンカーンコーン
時間になった。教室を見渡したが、転校生らしき人物は見当たらない。あの頭のおかしい先生のことだ、どうせ適当なことを言っていたのだろう。そう思った瞬間、教室の戸を叩く音が聞こえた。
「先生、もう入っても良いですか!」
外から声がした。先生は眠っている。状況から察するに、この子が転校生だろう。
「入りますね!」
見覚えのある女性が教室に入ってきた。この学校の制服を着た、髪の長い女性。顔には目も鼻も口もなく、ただただ黒い。
「転校生の黒野ペラと申します! よろしくお願いします!」
さすがにそのまま黒のっぺらぼうという名前は使わないのか。名乗らなかったところで誰が見ても黒のっぺらぼうだけどな、お前は。
「⋯⋯⋯⋯」
クラスの皆はシーンとしていて、引きつった顔をしている。そりゃそうだよね。黒のっぺらぼうが転校生で来たんだもんな。
「席ねぇからとりあえず教卓使ってくれ!」
目を覚ました先生はそう言うと、また眠りについた。黒野ペラは教卓を使うことになった。私、1番前の席でめちゃくちゃペラと目が合うんだけど、いや、目は無いんだけど、こっち向いてるのは分かるのよ。超怖い。地下にいた頃は怖くなかったのに、なんでだろう。
「昨日急に帰っちゃうから心配したよ!」
私はペラに少し強い口調で言った。
「ごめんごめん、準備があったから」
準備とはこの転校に関することだろうか。そういえばその服どうしたんだ。誰かから奪ったのか。
「ちーっす号令頼むわー」
英語担当の中林先生が教室の戸を開けながら言った。
「あ、君が転校生? よろしくねー」
教卓にいたペラに先生が話しかけた。
「はい、よろしくお願いします!」
ペラは先生の方を振り向いて挨拶を返した。
「ひ、ひえぇ!」
そう言って先生はぶっ倒れた。どうやら気を失っているようで、授業どころではないので、ちょうど教卓にいたペラが授業をすることになった。