降りた先は
こんばんは、ナコです! 前回駅から見える公園で髪の長い女の人が手招きしてたから来ちゃいました!
ここは地上なのか地下なのか分からないが、上に上がった覚えはないので恐らくまだ地下だろう。私は手招きする女性の方へ歩いた。こんな夜の公園に1人でいるなんて絶対何かあるよね。
「ちょ⋯⋯う⋯⋯だい」
女性が何か言っているがまだ遠いのでよく聞こえない。それにしてもこの公園、コンビニ3つほどの広さがあるのに遊具が滑り台しかない。
「ちょ⋯⋯う⋯⋯だい」
近づいても耳に入ってくる情報は同じだった。ちょうだいと言っているのだろうか。ピン留めでも欲しいのかな? めっちゃ長いし。
「私の顔をミロ」
女性はいきなり流暢に喋り始めた。なんか腹立つ。仕方が無いので顔を見てやることにした。女性の顔があるべき場所に顔がない。目と鼻と口がなく、ただただ平たい。そして、顔があるはずの面が真っ黒だ。
「私は怪異⋯⋯黒のっぺらぼう」
「そのまんまやないか!」
つい突っ込んでしまった。正直周りも真っ暗なので顔があってもなくてもそんなに変わらない。ほとんど見えてないもん。
「コワクナイノカ」
怖くないのかだって? 私なんか髪の集合体なんだよ? のっぺらぼうより私の方がよっぽど怖いだろうがよ。しかし、私のことが怖くないどころか、私を脅かそうとしてくるなんて、面白い奴だ。
「気に入ったよ。私と友達になろう」
「イーヨ!」
黒のっぺらぼうは快く承諾してくれた。今日から私たちはお友達!
しかしどうしたものか、早く家に帰らないと。地上にはどうしたら行けるのだろうか。
「あんたもしかして地上人かい?」
黒のっぺらぼうが質問した。
「おうよ、おいら生粋の地上っ子でい!」
ナコが答えた。
「なら、あそこから行こう。私も地上に行く用事があるしね」
黒のっぺらぼうは地上と地下を行き来しているようだ。あそことは。私には土管くらいしか思い付けないが、本当にそんな便利な場所があるのだろうか。
3kmくらいは歩いただろうか、足が疲れてきた。
「けっこう遠いね、あとどれくらい?」
「そうだね、もう少し歩くかな」
またしばらく歩くと、1本の糸が垂れているのを見つけた。よく見ると糸に屈強な男たちがしがみついている。1番上の男は下から来る者達を蹴落としながら登っている。
「お前は自分この事しか考えていないのですね」
上の方から声が聞こえる。もしや、この糸は地上に繋がっているのでは? うん、そうに違いない。
「チョピ」
と地上から聞こえたと同時に糸が切れた。こういう謎の光景をよく見るんだけど、地下ってなんなんだろね。結構歩いてるのに全然着かないよ。
「んで、どこまで歩けば地上に出られるの? 黒ちゃん」
歩きながら話しているうちに仲良くなってお互いちゃん付けで呼ぶようになっていた。
「そうだね、もう少し歩くかな」
こいつさっきから同じことしか言わねぇな。本当に地上に行けるのか? でも、お友達と過ごすなんて人間だった頃以来だな。あの時は意識もなかったけど、なぜか懐かしい。⋯⋯あの頃は楽しかったなぁ。
私は素晴らしいことを思いついた。タイムマシンを作って高校生だった頃に戻ろう! 私の頭脳があれば可能なはずだ。黒ちゃんも連れて行こう。
「てなわけで黒ちゃん、手伝って!」
「イーヨ!」
2人で廃材を集め、私が書いた設計図通りに組み立てる。2時間後、某青だぬきのものにそっくりなタイムマシンが完成した。
「行くよ黒太くん!」
「イーヨ、ナコえもん!」
私たちは時空を超え、9年前の世界に戻った。高校2年生だった頃だ。私は黒ちゃんを連れて真っ先に自宅へ向かった。この時代の私に会いに行くのだ。
家に着いた私はチャイムを鳴らし、高2ナコを呼び出した。しばらくして玄関のドアが開いた。
「え、なに!? 黒い顔ののっぺらぼうと、黒い髪の塊が家に訪ねてきたってことでいいの!? 私の脳にそう説明していいのね? ⋯⋯ほげーん。ぱ〜」
どうしよう、高校2年の私が驚きのあまり壊れてしまった。ちょっと髪を刺して脳の状態を見てみよう。
⋯⋯完全に死んでる。私たちの存在が理解出来なくて脳がショートしたようね。こうなったら、私が高2の私と同化して復活させるしかない! パイルダーオン!
私は高2ナコの頭に飛び乗り、髪を数本頭に刺した。こことここを繋いで、これとこれを繋げれば⋯⋯よし、完全体高2ナコ完成! これから私は完全体高2ナコの髪として生きていこう。
「さ、上がって上がって⋯⋯ってあれ、黒ちゃんどこ?」
せっかく2人でお茶でもしようと思ったのに。用事でもあったのかな。まぁいいか、完全に怪異でやばいやつだったしな。