ニュース
こんにちは、ナコです! ってああ! こんな黒い塊が挨拶してきたら怖いですよね、ごめんなさい! すぐに仮初の姿になりますね!
あー、あー、私はナコ、私はナコ⋯⋯よし! こんにちは、ナコです! 今日は成り代わってまだ日も浅いので、お家で過ごそうと思います!
『ただいま大ニュースが入りました。大きなトロンボーンを持った大きな顔の男性が大きな車と大きな事故を起こしました。えー、続いてのニュースです⋯⋯』
「物騒ねぇ」
父の長辺 良夫が呟いた。本物のナコの脳から吸い取った情報によると、こいつの口癖は「女王様とお呼び!」だそうだ。先程の言葉遣いもその延長だろう。
いやちょっと待てよ? 大きなトロンボーンを持った大きな顔の男性ってもしかして⋯⋯
私は事故の詳細を調べた。やはりそうだ。大型トラックに轢かれたのは三村 良夫と書いてある。彼は高校生時代の同級生で、私の初恋の人だった。彼の顔は肩幅と同じ大きさで、高校時代は吹奏楽部だった。その情報から私はこの事故の被害者が三村くんであると直感したのだ。
三村くんは8年前に高校の近くの公園で爆発事故に巻き込まれ、火星まで吹っ飛んで火星人として暮らしていた。当時は戻ってくる手段がないとの事でクラスの皆はとても悲しんだが、こうやってニュースに出ているということは地球に帰ってきてるということだ。
私はすぐに三村くんに会いに行った。私の知る三村くんであれば、大型トラックに轢かれたくらいで死ぬことは絶対に有り得ない、なので今どこかに入院していることだろう。
私は三村くんの家に電話して、三村くんがどこに入院しているのか聞くことにした。電話に出たのは三村くんのお母さんだった。本来なら私のお義母さんになってた人⋯⋯
「⋯⋯⋯⋯」
あ、そうだ、私声出ないんだった。皆からはナコに見えているが、実はただの髪の集合体なので、相手と会話する時は相手の頭に髪を刺して意思を伝えている。
仕方がない、直接三村くんの家に行こう。私は前作で手に入れたウルトラスーパーミラクルすごいすごい超頭脳を駆使し、三村くんの家まで辿り着くことが出来た。
「あら、あなたは確か⋯⋯」
『高校の頃三村くんと同じクラスだった、長辺 奈子です!』
私は三村くんのニュースを見て心配になり、入院している病院へ行きたいと伝えた。
「いやいや、今家にいるわよ。トラックは粉々だったけど、良夫は無傷だったからね」
さすがマッチョは違うなぁ。高校の頃でもすでにマッチョだったけど、さらにマッチョになっているんだろうか。
家に上げてもらった私は、三村くんの部屋へ向かった。緊張する。初恋の人の部屋に今私は向かっている。実は三村くんとは1度しか話したことがないので、上手く話せるか心配だ。そう思いながらも、私はドアを開けた。
「おはよう、長辺さん」
三村くんだ。本物の三村くんだ! 顔がめっちゃ成長して3倍くらいの大きさになってる! でもかっこいい!
『三村くん、どうやって火星から帰ってきたの?』
1番気になっていたことを聞いてみた。
「火星で爆発事故が起きて、それに巻き込まれて隕石として戻って来たんだ」
行きと同じじゃん。そうか、この前の隕石騒ぎは三村くんのことだったのか。
「それにしても、今日はどうしてここに?」
ずっと好きだったから⋯⋯なんて言えない! まだ私には勇気がない! なにか他の話題を探したい⋯⋯! あ、猫じゃらしとダンボールの爪とぎがある!
『三村くん、猫飼ってるの?』
「飼ってないよ。今朝捨ててきた」
三村くん、マジで言ってるの? 家の中で育った猫は外では生きていけないんじゃないの? すぐに死んじゃうかもしれないよ?
『どこに?』
「あそこを曲がってあそこのところのあそこ」
私は三村くんの家を飛び出し、彼の言った場所へ向かった。ゴミ捨て場じゃないか。猫の姿は見当たらない、もうどこかに行ってしまったのだろうか⋯⋯
「にゃー」
黄色い袋の1つがうごめいているのに気が付いた。そして猫のような声。
私は恐る恐る袋を開けてみた。すると中には、首輪のついた猫がいた。首輪には三村と書いてある。本当に捨ててたなんて。しかもゴミ袋に入れてここに捨てるなんて⋯⋯
この猫は返すわけにはいかないわね。三村くんに返したらまた何かされてしまう。私が自信を持って育てよう。私は自分の家に向かった。
ずっと片想いしてた初恋の人があんなやつだったなんて⋯⋯なんなんだよ本当に。最悪だよ。
家に着いた途端、さっきまで大人しかった猫が暴れだした。玄関のドアを引っ掻きながら鳴いている。
そんなに入りたいのね。もう懐かれてるのかな。私はドアを開けた。臭い。家の中から嗅いだことのない臭いがしている。
怖いけど、入ってみるしかないよね⋯⋯
私は意を決して家の中に入り、全ての部屋を調べようとした。が、答えはリビングにあった。そこには、妹の奈子二が腹から血を流し倒れていた。