ポテチとコーラと異世界転生
頑張ります
エコバッグとスマホを持ち、玄関のドアを開ける。
一歩外に出ると、ビューと、冷たい風が吹いた。
真冬の深夜2時。
無くなったお菓子とコーラを買うため、コンビニに向かう。
俺、田中春樹は、元大学1年生。留年は3回。
少し前に退学処分を受けて、今は、バリバリのヒッキーだ。
コンビニでポテチとコーラを買うと、家に帰るため、国道に架かった歩道橋を登る。
運動していないから、これが足腰にこたえる。
ピローん。
通知音がしてので、スマホをチェックする。
異世界冒険譚、アニメ化決定!!
「おー!!」
大人気ライトノベルのアニメ化決定。
1巻が発売された時から追っている作品だったので、声を出してしまった。
誰かとこの話をしたいな。
まあ、話すような友達はいないんだけどね…
そういえば、異世界冒険譚にジャンプして攻撃する技あったよな。
階段が下りに変わった時、ふとそんなことを思った。
俺は、踊り場まであと6段ほどのところで止まった。
踊り場に、敵を想像する。
その敵ー想像上ではあるがーに向かってジャンプした。
「炎燃拳ーファイヤーナックルー!!」
右手のエコバッグを腕にまくようにして持ち、俺は、渾身の右ストレートを敵にお見舞した。
右ストレートが敵の腹部を貫くと、敵は灰のように消滅した。
(全部想像上です)
俺は、そのまま踊り場に着地してーーズルっ。
凍っていた地面で滑り、後方に転倒した。
頭を階段に強くぶつける。
その瞬間に、意識は無くなった。
田中春樹は、滑って転び、頭をぶつけて死んだ。
*******
ーーさん。
声が聞こえる。
ー中春樹さん。
優しい声。
ここは…天国…?
俺みたいな引きこもりでも天国に来れーーっ痛た!
俺は、目を開いた。
そこにいたのは、綺麗な女の人。
手にはハリセンを持っている。
「女神に面倒をかけるな!!」
何言っているんだ?
頭でもぶつけたのか?
っあ、それは俺でした。てへぺろ♪
ーーってか俺、生きてるのか?
「俺は死んだんじゃ…それに、女神って何だよ…」
「女神は女神だ」
いきなり人の頭をハリセンで叩いてくる女神がいて
たまるか。
その女神は、コホンと咳をすると、真剣な表情になった。
「田中春樹さん。もう一度生きてみませんか?」
ーーはい?
いきなり何言ってるんだ?
死んだはずの俺が生きていることと、この精神と時の部屋みたいな空間から、女神ということはいいとして…
もちろん、そんなの答えは決まっている。
「嫌だね。早く天国に行かせてくれ」
そう言うと、女神は困ったように首を傾げた。
「何言っているんだ。お前みたいなヒッキーが天国に行けるわけないだろ。もう一度生きる気が無いのならお前は地獄行き決定だ。ちなみに、地獄はめっちゃきついらしいぞ。針の山とかマグマ風呂とか…」
「生きます!!生きたいです!!いや、生きさせてください!!」
なんなんだよ、くそ!!
半強制的じゃねえか!!
「うんうん。寛大な心を持ったアリサ様がその願い叶えてやろう」
女神ーアリサ様は、満足そうに頷く。
最悪だ。またあのクソみたいな生活が待っているのか…
いや、待てよ。
もしかしたらイケメンになってるかも…
「あの、顔が変わったりは…」
「変わらない。今の姿のまま転生する訳だからね」
最悪だよ…
「だけど、職業は選べるぞ」
職業?
「好きな職業につけるってことですか?」
「ああ。職業は、勇者に魔法使い、魔法学者などがある」
なるほどー。アリサ様は、完全に俺をバカにしているな。
「じゃあ、勇者ですかね」
「分かった。勇者でいいんだな」
「ところで、勇者ってなんの例えですか?警察官ですか?消防士?」
警察官や消防士なら俺には絶対に無理だ。
なんか大変そうだし。
「何か勘違いしているようだが、転生先の世界は今までお前がいた世界ではない」
今までと違う世界?
「その世界は今、魔王に支配されていてな。我々神々が世界の事に手出しするのは禁忌とされていため、お前に転生してもらうというわけだ」
魔王に支配?
おいおい。それって異世界冒険譚のストーリーと同じじゃないか!!
「魔王討伐。これがこの世界でのお前の役目だ」
「はい」
断る理由なんかない。
ずっと憧れてきた世界に行けるんだから。
「よし。職業は選んだか?」
「勇者です」
「分かった。勇者だな」
まさか夢にも見なかった。
こんなことがあるなんて。
実際に俺の身に起こるなんて。
「魔王の支配から、世界を解放してくれ」
「はい!!」
アリサ様が手をかざすと、俺は下半身から消えていく。
「頑張って」
「頑張ります!!」
俺の身体が全て消えると同時に、目の前には新たな光景が広がった。
木で造られた建物。
石造りの噴水。
想像した通りの世界。
俺、田中春樹は異世界に転生した。
片手に、ポテチとコーラの入ったエコバッグを持って。