四月 二十三日
とりあえず、主要な部分です。
いつもなら、この後に肉付けして投稿してます。
ごめんなさいリアルが忙しいです。
落ち着いたら改稿するかもです。
価値観って、なんなのだろうかと、最近思う。
何のために、俺達は、強情なまでに価値観を掻き抱いて、自分の世界だけに生きようと努力するのか。
分からなくなってきたと、そういう自覚がある。
価値観を裏切ることってのは、どんなに傲慢なことなのか、不安に思う。
何処までも、何処へ行っても、人間は孤独だ。どんなにヒトが群れても、人間は、心の中じゃ天涯孤独。
だけど、孤独な奴なりに、精一杯考え抜いた結果が、価値観なのだと思うのだ。
だから、価値観を語ることは罪じゃない。人間らしさだ。
だから、俺は、あいつを変えたい。否。戻してやりたい。
だから、俺は今日、闘ってくるのだ。
朝早く、まだ教室に誰もいない様な時間に、祐樹は登校した。下駄箱を開け、下靴を仕舞う。
木村と、朝のうちに、ゆっくり話したかったからだ。もちろん、祐樹が早く来たところで、木村の来る時間は変わらない。対話できる時間も、長くはならない。しかし、それでも、祐樹は、自分の部屋で、決意を確かめながら時間を過ごすのは、無為である様な気がして耐えられなかった。だから、早くに登校した。不安だったのだろう。家にいることが、見えない問題への恐怖を抱かせた。階段を上って行く。
自転車を漕いで、学校に向かっている間は、気が楽に思えていた。自分が、目的へと邁進しているような気分に浸れた。だから、俺は、努力家を演じ続けるのだ。演じ切れていないと、他の誰もがそう気づこうとも。
教室のドアに手を掛けた。古いので、がたがたと煩い音を立てはしたが、すんなりと開いた。昨日の乱暴で、ドアが壊れていなかったことが、少し、不安に対する救いになった。
教室の中は静かだった。教室の中へと、一歩踏み出す。神妙な教室を見る、というのは、なんだか不思議な気がした。早起きの特権だ。祐樹は静かにドアを閉めた。が、
「祐樹君?」
一つの声が、教室の静寂を割った。
「なんで?」
祐樹は、間の抜けたような声を発した。
「私も、今登校してきたところ。」
「なんで?日向。」
いつもであれば、もっと遅くに登校してくる日向が、一体何故この早い時間に、学校にいるのか。
「なんかね...うん。佐々木君と昨日、喧嘩になってたじゃない?」
昨日、祐樹が除き見た口論のことだろう。
「あのことで...佐々木君が学校に来るんだったら、ゆっくりと、今度は、落ち着いて話したいと思って...」
「でも、なんでこんなに早く?」
「それは...そういえば、祐樹君こそ、なんでこんなに早く来たの?」
痛い質問だ。しかし答えねばならない。
「木村と、ちゃんと話さなきゃいけないと思って。なんか、なんていうか、登校時間待って、家でじっとしてるのは、嫌だったから。」
「私も。」
日向は微笑んだ。
祐樹は黙す。何か話さなければいけない、と感じた。きっと、この状況は二度と来ることのない好機であるのだと、肌に感じた。
「ね、木村君と何があったの?」
日向が尋ねた。しかし、応えられない。木村は、日向の言葉を気にして変わろうともがいているのだ。そして祐樹はそれを過ちだとして正そうとしている。だから、祐樹は日向にそのことを伝えたいとは感じえなかった。伝えるのならば、まずは日向と仲直りをするのが先決だ、と。
「なあ、日向。」
「なあに?」
「こないだは、ごめん。」
今度は日向が黙した。
「こないだは、日向の気持ちを考えてやれなくて、それでも仲間を気取ってて、なんていうか、自分勝手で。その...なんだろう、結局は、自己欺瞞だったのかな、って。」
「自己欺瞞。」
感情を交えず、日向は復唱する。
「そう。俺は、日向や木村、佐々木と協力して、乗り越えられるぞ、っていう、なんだろう、うつろな自信を身に着ける為だけに、日向や佐々木、木村までも、利用してて、だから、その...」
「自己欺瞞。」
日向はまたその言葉を復唱した。その言葉を下す様に、ゆっくりと。
「だから、その...本当にごめん。」
祐樹は目を伏せ、頭を下げた。
「うん...分かった。いいよ。でもね、」
その言葉に祐樹は心底安心した。しかし日向はまだ言葉を続ける。
「友達としてなら、私は利用されてもいい。」
「え?」
その言葉の真意を、祐樹はにわかには解し得なかった。
「友達として、友達の力になれるなら、いくらだって利用されてもいいの。でも、それは友達としての話。あの時みたいに、仲間を無視して、そのくせ仲間を利用しようなんてことしたら、それは怒るけどね。」
心にすっと穴をあけられたような感じがした。
救われた、ような気がした。
「だから、気にしないで。」
日向がにっこりと笑った。明るい笑みだ。優しく、可憐な、女性の笑みだ。
教室ががやがやとし始める。他人が集まって来た。木村も佐々木も未だ来ない。
日向とはあれ以来言葉を交わしていない。少し恥ずかしい様な気がしていた。
「おはよう。」
ふと、望んでいた声が聞こえた。すぐに後ろを振り向くと、こちらへと歩いてくる木村の姿が見えた。
祐樹は直ぐに声を掛けようとしたが、木村は窓の外へ視線を送り、祐樹とは目を合わせようとしなかった。
「おい、木村。」
祐樹が話しかけた。木村は、逡巡してから祐樹に向き合う。
「なに。」
不愛想だ。不機嫌な感情がじかに伝わってくる。
「三人で、ゆっくりはなそう。」
そう言って、祐樹は後ろ指で教室の出口を指した。
その時、佐々木が教室へ入って来た。ベストタイミングだ。
「佐々木。」
向き合う祐樹達の方へと歩いてくる佐々木に、祐樹は声を掛けた。
「四人で、話そう。」
しかし佐々木の反応はない。どころか、その言葉を無視して、自分の席へと歩を進めようとまでした。
「おい、佐々木。」
祐樹は、少し強い口調で言った。少し声が震えたかもしれない。そう思うと、耳が熱くなる感覚がした。
「なに。」
今度は佐々木も反応を示した。が、無愛想で、嫌悪感を丸出しにした声色だ。
「四人で話そうって。」
木村が後ろから言った。祐樹が振り向くと、木村は佐々木を真っ直ぐに見据えていた。意識はしなかったが、彼の後ろに日向が見えた。
「わかった。」
心底不服そうに、佐々木は言った。
祐樹が教室を出る。バッグを机上に置いた佐々木は、すぐにその後を追った。
「で、なんだよ。」
部室へ着くと、佐々木が口を開いた。
なぜ呼ばれたかは、本人も分かっている筈であるので、なんだよ、という言葉は、恐らく虚勢であろうと祐樹は思った。
「まずさ、なんで、俺らがこんなに仲悪くなってるのか、はっきりさせようぜ。」
祐樹はそう言って、佐々木を見据えた。佐々木は目を細めて視線を返した。喜びで目を細めたのでないことは、自明だった。
「まず、こないだの、通り魔だよな。」
祐樹が言った。他の三人が俯く。
「そこで、俺達は、佐々木の心の傷もなにも、気遣ってやれなかった。」
「気遣ってやる?!ふざけんなよ。俺は、俺の行いに嫌気がさした。お前らが何と言おうと、俺は変わらねえんだよ。何様だ?!」
佐々木が逆上した。佐々木の罵声を浴びるのは、祐樹にとっては初めてだ。昨日の日向も、こんな言葉を浴びせられていたのかもしれない、と、祐樹は冷や水を浴びせた様な脳のどこかで考えた。
「気を遣うのは、友達なら当然だろう。それとも何か。俺とお前は友達でもなんでもないので気は遣わないでください~ってか?」
祐樹が煽る様に言う。
「友達?よくもそんなことが言えた...」
佐々木はさも呆れたという口調だ。
「お前は、じゃあ、俺達のこと、友達でもなんでもないと思ってるんだな?」
祐樹は、冷たく言った。
「俺はさ、お前と、結果はどうあれ、言っちまえば死線をくぐった仲じゃないか?確かに、付き合いは短い
でも、俺とお前は、これからの部活仲間で、一緒に戦った経験を持つ戦友だと思う。だからこそ言いたいんだ。」
祐樹は息を吸った。
「ごめん。佐々木。お前が苦しんでる最中、俺は、何も声を掛けれなかった。内心じゃ、友達だなんて思っておいて、行動には、俺の独りよがりばかりが出てたんだ。ごめん。佐々木。俺と、友達になってくれないか?」
佐々木は面食らった様な顔をした。当然だ。面食らわす為に、ここまで本心をぶちまけたのだ。『友達になってくれ』なんて、言う奴はいないと思う。けど、だからこそ、心が乗ると、乗ってほしいと思って祐樹は言った。
佐々木はしばらく固まっていた。様々な感情が渦巻いているのだと思う。しかしそれも、ものの数秒のことだった。
「そうだな...うん。なんだろう、してやられたり、って感じだな。」
「どういう意味だよ。」
「毒気抜かれて怒るに怒れない。なんか逆上してた自分が恥ずかしく思えるじゃねえか。」
二人は声を上げて笑った。
「うん。友達として、仲良くしてくれ。」
佐々木がそう言った。祐樹は満面の笑みで、頷いた。
頷くと、祐樹はそのまま後ろを振り返った。日向が立っている。祐樹は昨日、この場所で、どんな言葉が飛び交ったかを知らない。知りたくもなかった。だってこの場で彼らは仲直りをするのだから。自分の口で、日向や木村に思い出させるのも違うと思った。
「あの、佐々木君。」
迷ったような口調だ。されど強い意思が覗いている。日向らしい声音だ。
「昨日の言葉は、許せないかも知れない。」
佐々木は唇を噛んだ。
「佐々木君は、私に、『お前なんかが何したって、俺の心には響かないし、何やったって無駄だ』って言ったね。私なんか、っていう言葉は、すごく心に辛かった。」
佐々木は俯いている。
「私は、ずっと、中学校では虐められてた。」
佐々木が驚いたように顔を上げた。実際、祐樹も木村も初耳だ。しかし佐々木には、二人よりも辛いものがあった。
「中学校でのいじめは辛くって、何度も死のうとして、やっと乗り越えたの。」
祐樹は、事件中に垣間見た日向の強さの理由が、わかった気がした。
「そして高校ではうまくやるぞと思ってた。そこに、吉田刑事や安藤さんが、いじめのはなしをし出したの。」
日向は息を吸った。その息は震えている。
「怖かった。またいじめられて、苦しくなるのかって、不安だった。」
木村は俯いたまま黙していた。
「でも、今は仲間がいるんだ、って、思ってた。祐樹君に、木村君、そして佐々木君。」
日向はそういって見回した。
「だけど、祐樹君たちにはハブられて、佐々木君には罵声を浴びせられた。」
その場の男子全員が息をのんだのが分かった。
「また孤独か、って、思った。」
「だから...本当に...ごめ」
「いいの。」
佐々木が謝罪を言い切る前に、日向は言った。
「祐樹君とは仲直りしたし、木村君にはあとで、私の考えを伝える積り。佐々木君はね、さっきの祐樹君とのやり取り見てたら、私まで毒気抜かれちゃった。だから、もういいよ。大丈夫。」
虚勢でもなんでもない。ただ、無邪気にそう言った。
始業の、チャイムが鳴った。
チャイムが鳴ってしまったので、祐樹達はすぐに教室へ戻ることにした。森合は勘づいてくれるだろうが、他のクラスメイトにまで勘づかれてしまっては面倒だからだ。
祐樹の隣には、不安そうにした木村がいた。祐樹は、
「大丈夫。許してくれてるから。」
とだけ耳打ちした。
ついさっき、日向は佐々木の謝罪の言葉を切った。そして今は、木村を不安で一杯にしている。存外に、淑やかで強かな意趣返しが行われているのだな、と、祐樹は戦慄した。
廊下の窓から、光が差していた。当然だ。今は朝だ。
昨日までは鬱陶しかった春の日差しが、なんだか美しく見えていた。
時間ないときは、掌編や韻文を、たまに別シリーズで投稿してます。小説、全然投稿されないなと思われましたら、是非掌編の方もお読み頂ければと思います。
掌編と詩は本当に下手なので、寛容な心と温かい目で読んでください。特に詩。詩の定義ってなによ。




