妹について
その日も授業終わりの私を付け回してきた椎菜と一緒に学食で昼食を取っていた。
話好きの椎菜が話題を振ってくることが多いのだが、今日は「ところで」と、
「巴先輩、きょうだいって居ますか?」
こう切り出してきた。
「居るよ。妹が一人」
へえっ、と椎菜は身を乗り出して食いついてくる。椎菜にまだ話していなかったのか、と我ながら少し意外に思った。
「どんな子なんです? 可愛いですか? いや、どう可愛いですか?」
「なんで、そこまで可愛いと断定する……。そういう目で見たことがなかったからわからないな。ただ、見た目は私に似てるよ」
「はいもう美少女決定キタコレ!」
異様に晴れやかな表情で天を仰ぐ椎菜。ツッコミを入れるのも面倒なので、もう少し妹の話をすることにした。
「名前は環。三歳下の高校二年生、……おいJKではぁはぁするな」
「でも、結婚できる年齢じゃないですか」
「結婚できる年齢なら何だ。何をする気だ」
「何もしませんよ。DNAで感動を得たいだけです」
「素直に気持ち悪いことを言うな」
近々環が大学に来る用事があるから、ついでに会わせてやろうかと思ったんだけれど、やめておこうかな。肉食獣に肉親を差し出す草食動物は居ないのだ。
「巴先輩は妹の環さんと仲が良いんですか?」
「うーん……。別に普通かな」
「えーそうなんですか。妹さんを可愛がってそうなイメージがあったんですけど」
「可愛がるって言ってもなぁ……。あ、でも、環を可愛いと思ったエピソードはあるな。苺のショートケーキを食べる時に、苺にいっぱい種がついててお腹の中で芽が出そうで怖いから、クリームを苺の周りにたっぷりつけてから食べるんだよ。ほら可愛い」
「いえ、巴先輩が妹さんを可愛がってることしかわからないです」
引き気味に言われた。おかしい。挙げるエピソードを間違えたのだろうか。
「待て待て判断を誤るな。これはどうだ。私の膝の上に座る時に私の脚が痺れないように左右で交互に体重をかけてるんだよ。いや、そんなことをする前にまっすぐ座れよって」
「『待て待て』はこっちのセリフですよ。え? 膝の上に座ることがあるんですか? 妹さんが? いつの話ですか、それは」
「実家にいた時だから二週間くらい前だな」
「最近じゃないですか! てっきり幼少期の話かと」
「環はちょっと小柄だから、まだギリギリ大丈夫だ」
「世間的にはギリギリアウトです。年齢面で」
この小説は姉妹百合だったのかと、椎菜は頭を抱える。いや、さっきから私がおかしなことを言ってるような扱いをされているけれど、お前も大概だからな。
「しかし、そうなると少々腑に落ちないですね……」
「ん? 何がだ?」
「あーいえ、何でもありません。こっちの話です」
「こっちの話って?」
「コッチの話です」
「どっちの話だよ。何故小指を立てる」
何かをはぐらかされたような気がするーーいや、もっと言えば、何かを探られたような気がする。
椎菜はノリは軽いが、頭は軽くない。どころか、頭の回転は相当早いように感じる。今まで身のある話はしてこなかったけれど、その中で私にでも感じられるものはある。
雑談の中で時々椎菜は私を調べているような様子が見受けられる。
頭の回転の早い椎菜がそこまでして私の何を知りたいのか。
探られて困るような腹はないのだけれど、果たして……?




