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宿題について

 大学のキャンパス内を独りで歩いていると、後ろから「巴せんぱーい!」と陽気な声が聞こえてきた。振り返ると、やはりその声の主は椎菜だった。一緒に居たらしい女の子たちに手を振りつつ、こちらに駆けてくる。

「こんにちは、巴先輩。素敵な偶然ですね」

「そうか? 同じ大学に通ってるんだから、偶然出くわすことだって普通にあるだろうに」

「そうでもないですよ。大学って結構学生が多いから、その分高校までなんかよりも出会える確率は低いじゃないですか。時間割だって人によって全然違いますし」

「そんなもんかね」

 そもそも私は、大学で意識的に誰かに会える頻度を考えることがあまりない。というか、そんな知り合いが少ない。

「ところで、一緒に居た子たちは良かったの?」

「へ? ……ああ、あの子たちですか。良いんですよ、どっちみちこの後は授業も別ですから」

「そっか」

「それより、折角ですから、このまま一緒に学食に行きませんか? 先輩もお昼まだでしょう」

「うん、そうだね。行こうか」

 そうして私は椎菜と共に学食へ赴いたのだった。時間帯のせいもあって混み合っていたが、二人ならば席を取れなくもない。席を確保してから、私たちは揃ってパスタのセットを持って席に戻る。

「夏休みも終わっちゃいましたねぇ」

 フォークでパスタをクルクル巻きながら、椎菜が呟く。

「大学生の夏休みは長くて宿題もないからな〜」

 高校生までの時にはなかった自由な時間だった。ちびまる子ちゃんやサザエさんを観ていて、宿題に追われる姿に懐かしさを覚えるくらいだ。

「そういえば、巴先輩って夏休みの宿題は早めに終わらせるタイプでしたか? それとも最終日近くまで残しちゃうタイプでしたか?」

「早めに終わらせるタイプだった。夏休みの大部分をしっかり休むために、最初の一週間でほぼ終わらせてた」

「流石です! おりこうさんだったのですね。タイムスリップして、昔の先輩の頭をなでなでしに行きたいくらいです」

「タイムスリップできるんなら、もっと有効なことに使えよ」

 ドラえもんを思い出しながらも、冗談にツッコミを入れる。

「そういう椎菜はどうだったんだ? 要領良さそうだし、椎菜も早めに終わらせてそうだけど」

「いやいや、わたしは実はそうでもないんですよね」

 椎菜は首を横に振りながら言葉を継ぐ。

「それこそ、のび太くんみたいに最終日に至るまで全く何も手をつけなかった訳ではないんです。ただ、漢字とか計算ドリルとか、ちょっと頑張ればすぐに終わるような宿題は早い時期にやってしまっていたんです」

「ああ」

 身に覚えがある。

「しかし、そこで下手にそのあたりの宿題を終わらせてしまったばかりに妙な達成感を得てしまいまして。これだけのものを早く終わらせたのだから、少しの間他の宿題に手をつけなくても大丈夫だろう、と。そうして、自由研究や読書感想文などの大変な宿題を後の方に積み残してしまったのです」

「ああ……」

 実際には自分にそんなことはなかったけれど、容易に想像できる。椎菜の言う「少しの間」という猶予は、意外にも短い。

 楽しい時間があっという間に過ぎるように、期間として長い夏休みも体感的にはあっという間に過ぎてしまうのだ。

「そのように積み残した結果、夏休み終盤に苦労することになるので半端にやるのも良くないですね。やるからにはちゃんと全部やっと方が良いです」

「だな」



「ところで、巴先輩。この話、オチがつきませんね」

「たまには良いじゃないか。オチがつかなくても、落ち着いてはいるんだから」

「うまい!」

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