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映画について

「巴先輩、映画好きですよね? 好きだって答えてくれますよね? ね?」

「何だよ、その強引な誘導は」

 映画……映画ねぇ。少し考えてから、私は逆に訊き返してみた。

「椎菜の言う映画ってのは、映画館で観る映画のことを指してるのか?」

「ええ、そうです。映画館で観る映画です」

「うんうん。じゃあ嫌いだな」

「あぁん……」

 気持ち悪い声を出して、その場にくずおれる椎菜。誘導を避けるまでもなく、素直に答えただけなんだけどな、私は。

「映画館って、見ず知らずの人と真っ暗な部屋で2時間近く拘束されるだろ。それがストレスなんだよ」

「ああ……そういう理由ですか。ただ、映画って大きな画面と音響で作品に集中しやすいと思うんですけど」

「いや、その前に軽くトラウマがある。前に一人で映画を観に行った時にジュースを買ったんだけど、座席に置いてたらたまたま隣に座ったおじさんに間違えて飲まれたーー暗がりの中で微かに見えた気まずそうな表情から、多分わざとじゃなくて間違えたんだろう。でも、もうそのジュースは飲めないし気まずいし席も立てないしで最悪の気分だったわ」

「めちゃくちゃリアルに嫌なトラウマですね。とりあえずそのおじさんを張り倒したくなりますよ」

 わたしと先輩のデートプランをひとつ潰しやがって、と憤る椎菜。

 デートなんかするつもりはまるでないが、一緒に遊ぶきっかけを潰してしまうのは申し訳ない気がした。それとも、気のせいかな。まあ良い。

「映画館は嫌なんだけど、家で観る映画は好きだ。少し前に流行った映画がテレビでやってたらつい観てしまうし、DVDを借りて観たりもする」

「先輩、それはわたしをおうちデートに誘っているものと解釈して良いんですね?」

「良い訳あるか。改まらずとも、お前、いつも何かと理由をつけてはウチに来てるだろ」

「マーキングです」

「いつも遊んでる流れで一緒にウチで映画を観るくらいなら良い、って言ってんだよ。勝手にマーキングなんかするな、雌犬め」

「急にドSな発言しないでくださいよ。ゾクゾクしちゃうじゃないですか」

「犬…………そういう喩えで犬はダメだ……」

「?」

「何か他に良い比喩はないか?」

「巴先輩、わたしに自分を貶める比喩を考えさせるなんでどれだけサドを重ねるんです?」

「え? ……ああいや、そんなつもりはなかった。ごめん」

「別に謝らなくても良いですよ」

わたしをそんな風に扱うのは巴先輩くらいですよ、と舌を出しながら椎菜は言う。この後輩、外では結構な人気者なんだよな、うっかり忘れそうになるけれど。

 コイツ、どうして私にやたらと構ってくるんだ?

 これは“まあ良いや”では済ませては、多分いけないんだろうな。

 で、何の話をしていたんだっけ?

「一緒に映画を観ようという話ですよ」

「あーでも、今は別に何もDVDとかないからな……。何か借りに行くか?」

「行きましょう行きましょう! 巴先輩、何か観たい映画あります?」

「思いつかない。椎菜に任せる」

「任されました! どうしよっかなー……」

 レンタルビデオ店に向かう道すがら、椎菜はずっとうんうん唸っていたが、

「では、先輩。『フィガロの結婚』なんてどうでしょう?」

 意味ありげに笑うのだった。

 聞いたことがある。が、生憎内容を知らない映画だったので、私にはまだその意味がわからない。

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