昼寝について
1話が短いからもうちょっと更新ペース上げたいんですけどね……。
「くぁぁあぁあ……」
「先輩、今日は一段と眠そうですねぇ」
「そうか?」
「ええ、やたらと欠伸してますよ」
「そうか」
「長い睫毛が伏せがちで、瞳も潤んでいるので、わたし、さっきからめっちゃ興奮してます」
「そうか。じゃあ帰れ」
「えー」
椎菜は不満げに唇を尖らせた。
興奮云々はさておき、確かに椎菜の言う通りだ。
眠い。結構眠い。
昨晩は遅い時間までレポートを片付けていたせいで寝不足気味だ。今朝の1限の授業も相まって、睡眠時間が足りない。故に眠い。
昼に授業が終わって家に帰り、今日も今日とてしつこく押しかけてきた椎菜を適当に招き入れたは良いが、身体が昼寝を求めている。相手にするのも面倒だ。
寝たいから帰ってくれないかな、この後輩。
「巴先輩、そのジト目は眠いからですか? 早く帰ってくれないかな〜的な意思表示からですか?」
「二つ目の理由を挙げた時点で気を利かせてくれ」
「授業中に寝なかったんですか? 授業中の15分の眠りは数時間分の睡眠にも等しいという、どこかで聞いたような聞いたことないような雑学もあるくらいですけれど」
「今日の授業は寝てる学生にうるさい教授ばかりだったんだよ」
「あー……。そういう教授も居ますよね……」
なるほどなるほど、と頷く椎菜。納得してくれたなら何よりだ。それなら、
「それならば、わかりました。巴先輩の安眠のため、わたしの膝をお貸ししましょう」
「は?」
ポンポンと自分の腿を叩く椎菜。
言っている意味はわかるが、言っている意味がわからない。
「膝枕?」
「はい、わたしの膝枕でお休みください。めっちゃ気持ちいいと評判なんですよ、わたしの膝枕。少なくとも4人のレビューで星5をもらっています」
「そんなに膝枕をする機会があるのか、お前は……」
チラリと椎菜の脚を見る。肉付きの良い方ではないから、そこまで気持ち良さそうでもないが……。まあこれ以上議論するのもめんどくさい。
私は眠いのだ。
「わかったよ、そこまで言うなら頼むわ」
「ははっ、お任せをっ!」
私は椎菜の脚に頭を載せ、そのまま寝転がった。
「ふむ」
なかなか悪くない。程よく硬く、それでいて柔らかいので枕としてちょうど良い。本人が豪語するだけのことはある。
「目を閉じても大丈夫ですよ。そのままお休みください」
「お言葉に甘えた後でなんだけど、良いのか? 脚痺れたりしない?」
人の頭はボウリング玉くらいの重さがあると聞くが。
「そのくらい何でもありませんよ。むしろ、たかがそんな理由でこの絶好の機会を逃したくないです」
「あ、そう」
鼻息荒くそう言うなら、椎菜の好きにさせよう。というか、私の好きに寝させてもらおう。
目を閉じながら、微睡みを待つ。
「知ってますか、巴先輩」
椎菜は普段の元気溌剌さとは打って変わった、柔らかな声で囁く。
「美容院や床屋でやってもらうシャンプーってとても気持ちいいですよね。それは勿論プロの腕前もありますけれど、それだけでなく、他人に自分の頭を預けられる安心感もあるんですよ」
相槌は打たない。子守唄がわりに聞いている。
「普段過ごしているだけでも、頭という急所を抱えて晒している訳ですからね。無意識レベルでも疲れと緊張感があるんです。寝る時に頭を枕に預けるくらいしか基本的には楽になりません」
…………。
「美容院や床屋はその中でも特例です。自分の頭を無防備に他人に委ねられる珍しい機会ですよ。特にカットなんて刃物を向けられる訳ですからね。何の緊張感もなく、それを許せる状況というのは不思議とリラックス効果があるのです」
「……その言い方だと、膝枕もそうだな」
私の髪に「ふふっ」とくすぐるような吐息がかかる。
「ええ、その通りです。膝枕は二重の意味でリラックスできるんです。それにね、…………眠いからというの理由があっても、信頼して頭を預けてくれるのが、わたしはとても嬉しい」
私は何も答えなかった。目も閉じているので、もう眠ったものと思われるだろう。
本当に眠気が襲ってくるなかで、椎菜が私の髪を撫でたり頬を触っているのが微かに感じられた。まあ、今くらいは好きにさせておくか。
「おやすみなさい、先輩」
その声を聞いたと同時に、私は完全に眠りに落ちた。




