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回想・少女と思い出の犬(1)

ひと月以上も更新が止まってしまいすみませんでした。

 少女が家に帰ると、大きな犬が茶色い毛を揺らして這い寄ってきた。

「ただいま〜、モカ。あ、こら、待ってて、ランドセル降ろさせてよ」

 少女は微笑みながら、モカの前足を下ろして玄関から家の中に入る。モカは上機嫌にしっぽを振りながらその後に続く。

 洗面所に行っても、着替えに部屋に入っても、はっはっはっと、モカの息遣いが聞こえるので、少女は思わず吹き出してしまった。

「モ〜カ〜、そんなに私の後ろをついて回って、何が目的なのかな〜、ん〜?」

 制服から着替えた少女は、屈みこんでモカの首をわしゃわしゃと撫でた。

 ご飯も散歩もまだ時間が早い。けれど、モカが構って欲しがっているので、ひたすらモカと戯れていることにした。

「お母さんは買い物に出てるみたいだし、環もまだ帰ってこないね〜」

 モカは肯定するようにアウ、と呟いた。

「ねえ、モカ、聞いてくれる?」

 少女はモカの耳元に顔を寄せた。

 少女は内気という訳でもないが、他の誰かに自分の本音を打ち明けるのが苦手だった。ただ、それでも生まれた時から側にいたモカにだけは何でも話すことができた。

「今日ね、クラスで学級委員に推薦されちゃったんだ。誰も立候補しないからって。私だって別にやりたくないのに。……みんなだって私だからやって欲しいなんて思ってないだろうに」

 少女は囁くように言う。

「何となく真面目そうだから、とかそんな適当な理由で押しつけられて。嫌だって言ったよ。でも、そうしたらみんな迷惑そうな顔をするの。先生もよ。私が悪いことをした訳じゃない。学級委員が決まらないから。都合が悪いから。……だから、私はいつも『みんな』っていうのを信じられない」

 モカを撫でる指に茶色い毛が絡まる。

 くぅんと、モカは小さく鳴いた。

「ごめんね、モカ。今日はちっとも楽しい話をしてあげられなくて。あなただって愚痴を聞かされるのは嫌だよね」

 モカは首を捻って、少女の方を見つめた。少女とモカの視線が合わさり、モカの瞳に少女自身が映る。愛想笑いを浮かべていない。鏡よりも嘘のない自分の表情が映っていた。

「ウゥ」

「……そうだよな。むかつくけど、やれる範囲でやってみるよ。ありがとな、モカ」

 そのまましばらくモカの側で横になっていると、窓から西日が差してきた。いつもモカを散歩に連れて行く時間になった。

「モカ、そろそろ散歩に行こうか。家に誰もいなくなっちゃうけど、鍵は閉めれば良いしね」

「アゥ!」

 モカの陽気な返事を受けて、少女は慣れた手つきでモカの首輪にリードをつけた。

「さ、行くよ!」

 玄関からモカを伴って外に出た少女の足取りは軽快だった。

時々このような回想を挟みますが、この小説はやっぱり基本雑談です。

次回はいつもの雑談をお送りします。

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