2人について
新連載始めました! よろしくお願いします!
「今までのあらすじ。わたし、キャンパスライフへの希望に満ち満ちた大学一年生ーー椎菜は、ダウナー系美女の大学二年生ーー巴先輩とお付き合いすることになったのでした。いえい」
「すごいなお前。鉤括弧ひとつにどれだけツッコミどころを搭載してるんだよ」
名前と大学生であることと学年は合っている。だが、私の名前が巴で性別が女であることは合っていても、私がダウナー系美女になった覚えはない。それに、椎菜からは一方的に纏わりついてくるだけで彼女が言うような関係になった事実はない。
「酷いですねえ。この椎菜、巴先輩を誠心誠意お慕い申し上げているというのに」
「まずそこだろ。そこからして間違ってるだろ」
「同性愛を否定するんですか?」
「そっちじゃない。同性愛は否定してない」
個人の主義としても同性愛はアリだと思うし、『百合』のキーワードに釣られて読んでくれた方々を回れ右させてしまうのは避けたいところだ。
「私が間違ってるって言ったのは、『誠心誠意』の部分だよ。椎菜、お前浮気性じゃん」
「なんとまあ」
「可愛い女子を見つけては声をかけ、手を出し、毒牙にかけるのがお前の生態だろ」
「あははははははははは」
「笑いどころじゃない」
というか、笑いごとじゃない。
椎菜がいたずらに好意を持たせた女子たちが、少なくない頻度で私に敵意と嫉妬のこもった視線を向けて来るのだ。重ねて言うが、椎菜が一方的に纏わりついてくるだけなのだが。
「でも、巴先輩が美女なのは本当ですから、キープしておきたいじゃあないですか」
「先輩をキープするな。どんな後輩だよ」
「先輩、今日お宅に泊まって行っても良いですか?」
「嫌だ。貞操が危ない気がする」
「釣れないなぁ。でもでも、巴先輩って基本的にはそんな風にクールですけれど、先輩の美点はそれだけじゃないですよ」
「美点?」
話の舵取りが不愉快なほど巧みな椎菜。
とりあえず流してみる。
「わたしはわたしで性欲に忠実ですけれど、巴先輩も欲望に忠実な方じゃないですか」
失礼なことを言われた。
自分にこれと言った特徴を見出せないが、言うに事欠いて「欲望に忠実」はないだろ。
一体全体、どのあたりが「欲望に忠実」なのか。
「ところで、巴先輩。季節の描写がないですけど、今って夏ですよね」
「夏だな」
場所の描写もなかったが、現在椎菜と二人で居るのは私が一人暮らししているアパートの部屋だ。
「釣れない態度の割に、私を家に入れてくれたのは何故ですか?」
「アイスを土産に持ってきたから」
夏に食べるアイスは美味しい。この世のどんな物理原則よりも単純でかつ真実を突いた理だ。
「そろそろ晩ごはん時ですね。夏でも食べやすい素麺をアレンジしたメニューの用意があるんですが、召し上がりますか?」
「何故それを早く言わない。是非作って欲しい。一緒に食べよう」
「巴先輩、最近肩が凝っているらしいですね。血行の良いお風呂あがりに肩を揉んで差し上げましょうか?」
「なんてできた後輩なんだ。椎菜もウチで風呂に入って行きなさい」
「わぁい、嬉しいなあ。そこまで言っていただけるなんて。…………でも、そこまで先輩の為に心を尽くしても、流石に泊めてもらう訳にはいきませんよね……」
「良いよ、椎菜が良いなら今日は泊まって行け」
「わぁい」
椎菜が嬉しそうに笑ったところで、ふと気づいたーー唇が半月状に緩み、罠にかかった獲物を見るような、『ニヤリ』という擬音を付けたくなるような笑みを浮かべているのを見て、自らの失態を悟った。
いつのまにか椎菜とご飯を食べ、家の風呂を貸し、泊める運びになっていた。
「クッ、このコミュ力の高い後輩め……!」
「いや、巴先輩が欲望に忠実でチョロいだけです」