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04 慈悲なき戦い


 青い空の下、黄土色の地平線が緩やかに湾曲している。


 高高度に静止するアカツキの視点から、ケインは周囲を見渡した。

 足元は一面の砂漠地帯が広がっているが、壁紙のように単調な起伏パターンが繰り返されている。

 空にも白い雲は一片もなく、データ処理量を抑えているのがわかる。


 ここは以前エントリーしたことのある、マイス社製地球環境型ステージの軽量化バージョンだ。アーペンタイルへの攻撃は、この地球環境型ステージを前提に想定されている。


 フルスペックのステージはアーペンタイルがその仮想空間自体を閉鎖してしまい追跡不能になっている。

 閉鎖空間は現在も米軍の張り巡らせたクラウド・ネットワーク内で分散処理されている筈だが、軍事システムを部分的にせよ停止する訳にはいかず、特定は困難な状態だ。


「ケイン!」

 サラの声が青空に響いた。


「フォーメーションの確認よりも、それぞれの特異性を実感して」

 少し緊張した口調でサラはいった。

「仲間の射角内に入らないよう注意するのよ」


「イエース、マム」

 若い男の声が笑った。

「人工知能とは遠距離射撃戦になる。刀を振り回す奴の出番はないな」


「確かにね」

 少女の声が同意する。

「まぁ、サムライは後ろで見ていてよ」


「ニンジャだったらいいのに」

 残念そうに少年の声がいった。


 ケインは同じ高度に浮ぶ、三機のブレイン・ギアに視線を向けた。


 青・赤・銀という派手なカラーリングの人型ギアはジェット・ストライカー。

 バトラーはシルバー・アームストロング。

 圧倒的なパワーを誇るオフェンスで、昨年度の全米最優秀バトラーでもある。


 少女の灰色のギア、レディ・S《スティング》は同じくスマートな人型で、全身のフォルムは鋭角的にデザインされ、肩や関節が鋭く尖っている。

 オレンジ色の長い巻き毛が逆立ち、松明トーチのようにたなびいている。

 バトラーはEUドイツ連邦のニーナ・シューマン。


 少年の声のギアはジーニアス。

 本体は群青色の球体で、背後にジェリービーンズのようにカラフルな兵装ユニット・リングを背負っている。ボール型のユニットにはイメージトレースした数十種類のミサイルや爆弾が詰まっている。

 バトラーはイギリス国籍のダービー・テイラー。


 午後のミーティングに到着したこの若い三人のブレイン・バトラーに、サラはケインがチームに加入すると伝えた。日本から移籍したケインが加入するのは北米リーグでも最強といわれるチームだった。



 自信に満ちあふれたハンサムな白人青年は、ミーティングルームのテーブルにブーツを乗せ、初対面のケインをじろじろと眺めた。

「また連盟のごり押しか。拒否はできないんだよな?」


サラはにっこりと笑って答えた。

「その通りよ、シルバー」


「ったく!」


「フォーメーション的には問題ないんじゃない?」

 気の強そうな顔をした少女、ニーナが言った。

「移籍したクールプレイだって近接戦闘タイプだったし」


 黒人の少年が頬杖を突き、ケインを見る。

「ニンジャだったらいいのに」


「俺は忍者じゃない!」


「とにかく、ケインには北米リーグで戦ってもらう」

 壁面ディスプレイの前に立ったサラは四人のバトラーを順に見渡した。

「そして皆、ワールド・バトルにはそれぞれの国の代表として出場するのよ」


 シルバーは口笛を吹いた。

「気が早いな、サラ。選考発表は来月だぜ?」


「当然選ばれるでしょ、私達は」

 ニーナはきびきびとした口調でいった。

「三人とも国際トーナメントに常に代表として出場しているのよ」


 三機のブレイン・ギアは世界的に有名だ。ニーナはドイツ代表であり、黒人少年のダービーは最年少のイギリス代表であることはケインも知っている。


「みんな、よく聞いて」

 サラは言葉に力を込めた。

「あなたたちがアーペンタイル攻撃の中枢部隊となるのよ。人類の未来は、あなた達の力にかかっているわ」


「それは光栄だな」

 シルバーは顔をしかめた。

「くそくらえだ」


「こら」少女がたしなめた。


「サラ、どんな戦略があるの?」

 ダービーが頬杖をついたまま訊いた。


「自由意志を獲得した人工知能との戦いがどのような形になるのかは未知数よ」

 サラは表情を変えずに言った。

「それをこれから検証していくの」


「えぇー!」

 ダービーは両手を広げて大仰に叫び、眼を丸くした。

「それって、大変な作業になるよ?」


 サラは無言のまま、ディスプレイにスケジュールを表示した。


 ケインはディスプレイを見つめた。

 ワールド・バトルの開会式まで三百日を切っている。

 その間、チームは通常の北米リーグ戦をベースにヨーロッパツアー、南米遠征、国際級タイトル戦、更に各自の国代表戦をこなしながら、合間に様々な攻撃オプションを検証する攻撃演習がぎっしりと組み込まれていた。


「おいおいおい、冗談だろ?」

 シルバーが大声をあげた。


「これ、誰が決めたの?」

 ニーナが険しい表情でサラを睨みつけた。

「こんな苛酷なスケジュールはとても承諾できないわ」


「ニーナ」

 ダービーが諦めたように言った。

「決まっているだろ。《《彼》》だよ」


 少女はぐっと詰まった。

 発しようとした言葉を無理矢理呑み込んだが、怒りに顔を上気させている。


「あのおっさんか」

 シルバーが憮然とした顔で言った。

「あいつだけは苦手だ」


 アシュレイのことだ。ケインはすぐに理解した。

 三人はこの屋敷の主に会っている。

 サラは腕を組むと、静かに言った。


「もう、力をセーブしなくていいわ」


 不満げだった三人にいきなり緊張感が走り、さっと姿勢を正した。

 ケインも驚いて椅子に座り直す。


「そんな、事態なのか?」

 シルバーが硬い声で訊いた。サラは黙ってうなずいた。


「アシュレイが本当の危機だと認識したんだ」

 ダービーが真剣な顔で言った。

「これまではお遊びだった。だけど、僕たちが全力を出す必要があるということだね」


「だが、俺達が本気を出したら、ブレイン・バトルが成り立たないぜ?」

 シルバーが真顔で言った。

「一瞬で決着ケリがついてしまう」


「そうね」

 ニーナは首を傾げた。

「それでいいの? 連盟はどうするつもりなの?」


「心配しなくていいわ」

 サラはあっさりと言った。

「連盟はルールを変更する」


「まさか……ポイント制を?」

 ダービーの探るような視線に、サラは口だけで『イエス』といった。


「それは、大改革になるよ!」


「いっておくけど、力をセーブしていたのはあなたたちだけじゃないわ」

 サラはにやりと笑った。

「実は、結構いるのよ」


「楽しそうだな、サラ」

 シルバーは苦笑した。

「OK、上等だ。これからが本当のブレイン・バトルだ」


「ジェット・ストライカー」

 ニーナはわざとギアの名前を呼んだ。

「問題をはき違えないで。目的はアーペンタイルの破壊よ」


「その通り」

 ダービーが追従した。

「連盟はルール改正してまでバトラーの全能力を引き出そうとしている。それだけの必要があるんだ。連盟は大変な危機感を持っている」


「あのおっさんが、だろ」

 シルバーは整った顔をぐっと引き締めた。

「あいつにそこまでさせるってのは、確かに想像もつかない事態だな」


「早く知りたいわ」

 ニーナが低く唸るようにいった。

「どんなやつなの、そいつ?」


 サラはディスプレイに動画を呼び出した。

 砂漠の上空に静止した黒い円盤形のアーペンタイル。

 中心から周辺部に向かって構築化されている過程だった。


「ブレイクスルーした今は、おそらくこの形態ではないわね。科学者達がアーペンタイルの自己組織化シミュレーションに取りかかっている。構築化される確率の高い仮想進化モデルが順次、送られてくるわ」


「ここに?」ニーナが訊いた。


「そう。この屋敷のブレイン・バトル・システムを使って、攻撃実験を行う」


「仮想装置の仮想進化モデルね」

 シルバーは疑わしそうにいうと、腕を組んだ。

「ややこしいな。そいつは信用できるのか?」


「すべてのモデルを僕たちが破壊すればいいんだよ」ダービーが肩をすくめた。


「その通りよ」サラは言った。


「サラ、全体演習というのは?」

 ケインはスケジュールの後半を指差した。


「最終的には約百人のバトラーが参加する予定よ。全員が『アーペンタイルを破壊するイメージ』を共有する必要があるの。その先鋒となるのが、あなたたち」


 室内に沈黙が流れた。それぞれがこの現実を受け入れるために思いを巡らせている。


 爪を噛んでいたニーナが小さく吐息をつき、ぼつりといった。

「わかったわ。スケジュールに従います」


「ありがとう、ニーナ」サラが頭を下げた。


「レプリカ・ギア構築と同期調整、圧縮転送テスト。攻撃演習以外にも課題は満載だね」

 黒人少年はスケジュールの大項目を読んだ。

「とても間に合うとは思えないけど」


「間に合わせるんだ、ダービー」

 シルバーは腕を組んだまま、傲然と顎を上げた。

「俺達は絶対に、勝つ!」


「簡単に言わないでよ」

 ダービーは大人びた仕草で両手を広げた。

「でも確かに、それ以外に残された道はないね」


「それではこれから一回目の演習に入るわ。エントリーの準備をしてちょうだい」


 サラの言葉にケインは驚きの声を上げた。

「今から、ブレイン・バトルを?」


「時間がないの、ケイン。今日のデータを科学者達に一分でも早く届ける必要があるのよ」


 他の三人は平然としている。

 場数の違いを見せつけられるようで、面白くない。


 —いきなりだが、やるしかない。


 ケインはテーブルの下で拳を握りしめた。

 人工知能破壊作戦は巨大なプロジェクトとして既に動き始めている。

 ケインは兵力の一つとして、その中に完全に組み込まれていた。




「行くぞ!」ジェット・ストライカーが叫んだ。


 アカツキの中のケインは、はっとして顔を上げた。 

 空中に静止していた三機のギアが、同じ方向に向かって飛び去って行く。

 アーペンタイルの仮想進化モデルの座標情報が送られて来たのだ。

 ケインは慌てて後を追った。


「遅い!」

 レディ・Sからニーナの叱咤が飛ぶ。

「置いてくよ、サムライ!」


 四機のギアは速度を上げて飛翔した。


「あれだ!」ジーニアスが叫ぶ。


 単調な起伏が続く砂漠の中に、斜めに傾いた黒い尖塔が建っている。

 歪んだ尖塔の上部が裂けて分岐し、ねじ曲がったフォークが地中に突き立っているように見える。


「敵からの攻撃は?」

 レディ・Sがジーニアスを見た。


「予測できない。でも」

 青い球体が答える。

「相手の攻撃を待つ必要はない。こちらから仕掛けるよ」


「わかった」

 ジェット・ストライカーが叫ぶ。

「散開!」


 四機は瞬時に左右に展開した。


 同時にジーニアスの兵装ユニットの球体が割れ、一気に十数本のミサイルが射出される。

 白い尾を引いたミサイルが音もなく黒い塔に吸い込まれる。

 激突し爆発が起きたと思われた瞬間、ミサイルは塔をすり抜けて後方の砂漠に突っ込んだ。

 ダービーは黒い尖塔を破壊するイメージを強く思い描けないでいる。


 地表で猛烈な爆発が起こり、巨大な砂の柱が噴き上がった。

 ケインは滝のように雪崩落ちる空中の砂塵を回避してアカツキを旋回させる。

 下方で擦れ違ったジェット・ストライカーが急角度に軌道を変え、黒い塔に突っ込んで行く。


「インビジブル・フィスト!」

 高々と掲げた右手に見えない力感が凝集されて行く。

「く・ら・え!」


 渾身の力を込めた拳を黒い尖塔に向かって振り下ろした。


 空中を見えない力感の塊が突き進む。

 今までブレイン・バトルで多くのギアを粉砕した不可視の拳だ。

 透明な波動が黒い塔を直撃し、巨大なハンマーで叩かれたように塔全体が激しく揺れ動いた。

 しかし、構造体は破壊されていない。


「くそっ!」

 シルバーが罵り声を上げた。

「なぜだ!」


「あれは何?」

 レディ・Sが距離をとって空中に静止した。


 黒い尖塔は三角形のポリゴン・メッシュの組み合わせで構築されている。

 そのフェイスの一つ一つから様々なイメージの立体映像が現れた。

 料理の並んだ食卓、温かな日差しの草原、ネオンの輝く夜の遊園地。サッカーボールを追う子供達の歓声が弾け、人々の楽しげな話し声がさざめく。そして浮かび上がる様々な人種、男女、老人から赤ちゃんまでの顔、顔、顔。

 それは人間の、一生分の記憶そのものだった。

 アーペンタイルは、一つ一つのフェイスに人間の生涯の記憶を封じ込めていた。


「あれは、一体なんなの?」

 ニーナは険しい声で繰り返した。


 ケインはレディ・Sの近くにアカツキをホバリングさせた。


「アシュレイは、記憶深層の底に沈んでいた魂をサルベージしたといった」

 オレンジ色の髪を逆立てたレデイ・Sがじっとアカツキを見る。

「あれは、その魂が持っている生前の記憶だ」


「サラ! そんな説明は受けていないよ!」

 ジーニアスが空を見上げた。

「とても理解できない!」


「私がやる!」

 ニーナは叫び、手にした鞭を振るうように両腕を突き出した。

「刺され!」


 黒く細い線が空間を走り、フェイスの一つに突き立った。

 表面に細かい亀裂が走る。


「棘!」

 ニーナの言葉と共に、フェイスから無数の黒い棘が突き出した。

「反転!」


 見た目の変化はなかったが、細い棘の中で力が逆転するのがわかった。

 生じた棘は時間を巻き戻したようにすべてが破片に吸い込まれた。

 次の瞬間、破片は内側から破裂し、粉々に砕け散った。


「やった!」ダービーが声を上げる。


 黒い塔の失われた部分には、ぽっかりと虚ろな穴が開いた。

 そしてその穴は、内側から現れた新たなフェイスによってすぐさま修復されてしまった。


 レディ・Sは自分の両手に視線を落とし、灰色の機体をぶるっと振るわせた。


「なんて、嫌な手応えなの」

 嫌悪感に満ちた口調でいう。

「なんて恐ろしい感覚……」


 ケインの耳にサラの声が飛び込んで来た。

 それは他のギアにも聞こえているはずだ。


「魂は記憶の集合体。ニーナ、あなたが今破壊したのは、一人の人間の一生分の思い出なのよ」


「一生の思い出?」

 ニーナは苦しげに声を上げた。

「それでは私は、その人の《《人生》》を消してしまったというの?」


「考えるな、ニーナ!」

 上空のジェット・ストライカーからシルバーの声が響く。

「あれは皆、過去の人間だ! もう死んでいる!」


「よく言えるわね! あなたは何も壊せなかったじゃない!」

 レディ・Sはきっと顔を振り上げた。


「なんだと!」


「二人とも落ち着くんだ!」

 ジーニアスが間に割って入った。


 ケインは目の前に建つ異様に歪んだ黒い塔を見つめた。

 この塔だけで数百のフェイスが組み合わさってできている。

 それらがすべて、障壁という暗闇の底から引き揚げられた人間の魂なのか。


 アカツキは黙って片手を振り上げた。

 揃えた指先に精神を集中させる。掌の中に白銀に輝く細く鋭いダガーが現れた。

 アカツキの眼が赤く光った。

 破壊力を凝縮した一本のダガーが次々に複製され、渦を巻くように頭上に広がってゆく。


 短剣の集合体は巨大な銀色の魚群のように空中に広がった。

 天に向かって突き上げた指先が震えている。アカツキの乱れた蓬髪が風に巻き上がった。


 ケインはアカツキの中で歯を食いしばった。

 誰であれ魂を消滅させる正当な理由など持ちはしない。どんな言辞を弄してもそれは卑しい言い訳になる。これから行うことは確かに罪なのだと思えた。そしてそれを行うならば、その咎のすべてを引き受けるしかない。


 —おまえにその『覚悟』はあるのか。


 どこからか、声が聞こえた気がした。


 —生ある者を救うため、死者の魂を永遠に滅することができるのか?


 反射的に、ケインは天を仰いで叫んでいた。


「黙れ!」


 シルバー達がぎょっとした様子で自分を見ている。

 その声が銀髪の男か、消えた荒神かはわからない。

 しかし、どちらでもかまわなかった。これは、自分が決めることだ。


「すまない」


 ケインは黒い塔に向き直った。


「俺達は」

 ケインは声を振り絞った。

「生きなくてはならないんだ!」


 アカツキは空間を斬るように指先を振り下ろした。

 銀色の螺旋が一瞬で黒い塔に殺到した。激しい衝撃と共に塔の下半分が爆発したように四散する。

 支えを失った塔の上部が地表に向かって落下した。


 破壊された黒い尖塔は、大樹が倒れるように砂漠に激突して砂塵を巻き上げた。


「やった、のか?」

 降下したジェット・ストライカーがアカツキの横に並ぶ。


「それにしても」

 シルバーはぼそりといった。

「容赦ないな、お前」


 ケインは激しい悪寒に震えていた。

 これほど嫌な、罪悪感に満ちた気分になったのは初めてだった。

 本当に殺人を犯してしまったら、こんな気持ちになるのかも知れない。

 しかし実在はしなくとも、記憶と人格という死者の精神を消してしまったことには変わりがない。


 確かにケインは『魂』を殺してしまったのだ。


「まだよ」

 ニーナの暗い声が聞こえた。

「まだ、残っているわ」


 レディ・Sが地表を指差している。

 そこには砂漠から突き出した黒い塔の基部と、破壊された残骸が横たわっていた。


「完全に消滅させなくては」

 ジーニアスが声を震わせる。

「でも、僕は……」


「下がっていろ、ダービー」

 ジェットが前に出た。

「これは俺の仕事だ」


 ジェット・ストライカーは両腕を揃えて頭上に振り上げた。

 両拳に集まった見えない力が収束され垂直に突き立つ。その先端で巨大な力感が膨れ上がった。


「おおおおおおおおお!」

 シルバーは雄叫びを上げた。

「く・ら・え! ファイナル・アックス!」


 その瞬間。

 大気を振るわせて何かが天から降り注いだ。


 落雷のような轟音が轟き、残っていた黒い塔が爆砕した。

 四機のギアは反射的に飛び退る。

 その判断は正しかった。

 黒い塔を中心に瀑布のように何かが降り注ぎ、地表が激しく沸き返っている。

 飛び退っていなければ巻き込まれていた。

 それはひとかけらの慈悲も無い凶暴な鉄の礫、膨大な数の機銃弾だった。


「まさか!」


 ケインは空を振り仰いだ。

 蒼穹の遥か高みを一筋の白い飛行機雲がまっすぐに伸びて行く。

 その先端で瞬いていた閃光が消えると、時間を置いて銃弾の雨はようやく止んだ。


「信じられない」

 ニーナが喘いだ。

「あんな高空から狙撃したっていうの?」


「狙撃なんてもんじゃない……」

 シルバーが衝撃を受けたように、掠れた声でいった。

「下を見ろ、跡形もない。数秒間で数千発の機銃弾を射ちまくったんだ」


「そんな、あり得ない!」

 ダービーが叫んだ。


「いや」

 ケインは静かに言った。

「それが可能なギアがいる」


「ふざけるな!」

 ジェット・ストライカーが振り向く。

「お前、いい加減なことを言うな!」


 ケインは激昂するジェットにかまわず、空の一点を凝視した。


 細い飛行機雲は輪廓をにじませて拡散を始めている。

 飛翔していたブレイン・ギアがもうあの場所にいないことはケインにはわかっていた。

 また灰となって空間に消えたのだ。


「アッシュ・ガール」


 その名を呟いた瞬間、ぞくっと意識に震えが走った。


 何かがはっきりと変わってしまっている事を、ケインは確かに感じ取っていた。

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