第四章 望みと激突のページ 2
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「「―――……ッ!!」」
庵とルナはほぼ同時に、目を見開いた。
目に見えるもの、耳に入るもの、痛み、その全てに何の変化もない。
だが、何かが体を突き抜けた。
庵にはその正体が全く分からない。答えは、ルナが知っていた。
「これは……、『魔力』ッ!」
「……! これが……!」
「……? 分かるの?」
ルナが予想より的外れな質問をしてきたので、庵は少し戸惑った。
「え、ああ、うん。なんとなく……。
っつか、『魔力』って……!」
ルナは少しの間複雑そうな表情を浮かべていたが、今はそれどころではないか、と頭を切り替え、
「『悪魔教団侵略雑音』が近くにいる。それも、こちらで分かるぐらいに能力を放出しながら。目的は、多分あなただと思う」
庵の脳裏をよぎるのは、デッドバーの顔。
「また、あいつが……」
「帰ってて」ルナはレイピアを片手に持つと、「私が足止めをする。あなたは、怪我しないように帰ってて」
「……でも」
もう一つ、脳裏に浮かぶ映像は、ボロボロの少女。自分を逃がすために、護るために戦ってくれた一人の女の子。
ルナはムッ、とした表情を作り、
「でも、じゃない。狙いがあなたである以上、あなたを敵の元に連れて行く必要はない」
それは突き放すような言葉だったが、裏返せば、今度は護りきれる自身がないという事か。つまり、自分を囮にする気さえあるのか。
庵は心で舌打つ。逆に苛立ってくる。なぜ、この少女はここまで他人を護ろうとするのか。
「お願い。帰って。そして、ホネットを呼んで。あなたは役に立たない、足手まといだって言ってるわけじゃないの。あなたにはあなたのやるべき役目がある」
ルナの言いたいことは分かる。実際、デッドバーとやり合えたのはホネットだけだ。戦闘なんてまるでできない庵が出しゃばるよりも、ホネットが一緒に戦ってくれた方が、ルナにとってはずっと頼りになるのだろう。
ルナの安全を考えるなら、客観的に考えるなら、その方法が一番いい。
心の中だけでも否定したいが、それさえもできない事実。
ただ「無力」という言葉だけが、庵の頭を駆け巡る。
「……分かった。ホネットを呼んでくる」
ルナは苦笑いを浮かべると、「ありがとう」と言ってその場から去った。
残った庵は、唇をかみ締めながらも、帰路を進んだ。