間話
間話
大都市の近場とはいえ、工場の並ぶこの辺りに、用のある一般人などいないだろう。
フレッド・シャインはアメリカの防波堤にいた。
その名前からして、彼がアメリカにいるのはおかしくないと思える。が、彼はイギリス出身で、日本国籍だ。二十代前半の頃に仕事の都合で日本に来てから、もう二年は経つ。お陰で日本語も人並みに話せるようになった。強いて言えば、彼にとってアメリカなど「海外旅行のプランを立てた時に候補に入る国」程度のものでしかない。
なら何故、そんな彼がアメリカにいるのか。それもまた仕事である。
フレッドは神父だ。日本に協会を持ち、独身ではあるが、居候と居候シスターがいるせいで賑やかな生活をおくっている。だが、それだけなら彼がアメリカに来る事はなかった。
彼はもうひとつ職業を持っている。今日、アメリカへ足を運んだ理由もそれだ。
『執行人』
俗に言う『殺し屋』、平和の為であるとはいえ、殺人を犯していることに変わりはない。
今回の仕事の内容は『テロの阻止』。『悪魔教団侵略雑音』が裏に大きな計画を企てている可能性があると見て、『絶対正義組織』より彼が派遣された。
可能なら潰せ、との事だ。
だが、フレッドはその防波堤に身を投げ出すように転がっていた。
「がっ……、ゴボッ! ……し、失敗……しま、し……たね……、」
喉から血が溢れ、その口から流れていく。
まさか、こちらの存在が知られていたとは予想外だった。ノイズのメンバー、と思われる者達がこの港へ向かい、中型の船に乗って行くところを観察していたフレッドだったのだが、
(油断していたとはいえ、後ろを取られるとは……、私もまだまだですね)
何が起きたかは分からない、ただ、腹に風穴が開いていた。それだけのことだった。
(殺されなかっただけ、良かったかもしれません)と口の中で呟く。(ですが、助けも来ないでしょうね……。元々、ここの『執行人』が『ノイズ』から襲撃を受けて動けないから、私が派遣されたんですし……)
一般人がここに来る、という可能性も考えたが、諦めた。こんな排水だらけの海はさすがに何の用もないだろう。
(奴ら、「日本」とか「戦争の火種」とか言ってましたが……、大丈夫ですかね……。日本、には一応ホネットとルナや神和たちがいますが、……手を出されては困ります。……それに)
『無重鎧の羽根飾り(ロセンスデコレ)』、何故それを彼らが呟いていたのか。
フレッドの意識は、そこで落ちた。