第四章 望みと激突のページ 9
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最近は曇り空が多かったものだから、こんな星の綺麗に映える夜空が見えるのは久しぶりである。
だが、今のルナにはそれを味わうどころか気づく余裕すらない。
未だに動かない体、地面に横たわるその先に立つ影に、彼女の神経は集中していた。
「なぜ……、ここに……?」
はっ。とデッドバーはルナの敵意ある視線を気にせず笑う。
「あれだけ暴れりゃ誰だって気づくだろ。それに、俺はお前に用がある」
「なに……? お前は、獄魔庵を狙ってここに来たんじゃ……」
ルナの言葉に、デッドバーは目を丸くする。
「……? ナニ言ってンだお前。なんで俺があんな一般人のガキを殺すためにわざわざ日本に来なきゃなんねンだよ?」
「――……え?」
無意識にルナの口が動く。それもそのはず、彼女はあの少年を守るためにここにやってきたのだ。だが、デッドバーの口ぶりだと、あの少年は誰にも狙われていないらしい。
なら、なぜ。
デッドバーは不思議そうな表情のまま続けた。
「あァあァあァ? イヤ、「え?」とか言われてもなァ。つーことはナニ? お前、勘違いしてたクチ?」
銀の長髪を掻きながら、デッドバーはルナの顔を覗き込む。
「……どうやら、そうみてェだな。道理で見つかりやすいと思ったぜ」
「……見つかりやすい?」
目の前の相手は何を言っている。何が目的でここに来たのだ。
デッドバーは「くくっ。本当、何も知らねーみてェだな」と笑う。
「お前だよ。厳密に言やあ、お前じゃなくて、その能力『無重鎧の羽飾り』だけどなァ」
一瞬、デッドバーの言っていることがルナには分からなかった。
デッドバー達は自分を探していた……?
一層不可解な顔を浮かべるルナに、デッドバーは意地悪な笑みをつくり、
「いや、お前はまだ知らなくていいんだ。まだ、な」
デッドバーはルナの目の前でしゃがみ込むと、彼女の眼前に手を伸ばした。
(やられる――……!)
ルナが思ったその時、
「そいつに触んじゃねえよ!」
え? その声は、ルナとデッドバー、両方が発したものだった。
白煙から現れた影は、呆気にとられるデッドバーの体を突き飛ばす
「がッ!」
そしてそれはルナの目の前に立ち止まり、彼女の手を引いた。
「な、あん、た……!」
「早く逃げるぞ! ルナ!」
獄魔庵は、こんな時でも助けに来てくれた。