表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
13/16

第四章 望みと激突のページ 6

    6



 ぶおん、という音とともに、(いお)の体はその空間に出現した。

「っと、うわっ!」

 なんとも情けない効果音と声を上げた庵は、その場に尻餅をつく。

「つつ……、もうちょい低い場所からだせねーのか……。ほぼ2メートル上から落ちたぞ……」

 ズキズキと痛むお尻をさすりながら、どこに落ちたのかを確認する。

 庵がいる場所は、卸売市場のせり場をバックにして月光に映える海の、その二つの間にある防波堤の上だった。

 ここには何度も来たことがある。両親もいなくて、海老村とも会っていない、つまり友達は瑠璃華ぐらいしかいなかった頃の彼が、よく一人で釣りやスピアフィッシングをやっていた場所だ。

 だからこそ、奇妙な点がある。人がいない。ゴールデンウィークのせいもあって、夜の漁に出る人がいないのは分かるが、昔からこの場所を知っている庵としては、この人気のなさはどうも腑に落ちない。まるで、あのデパートの事件の、デパートから出て来た時のあの異様な風景のようだ。つまり、ルナのあの羽根による能力が発動している、ということか。

 つまり、この辺りにルナがいるのか、と彼女を探す庵だが、彼女を見つけきる前に恐ろしいものを目にした。

「……っ。デッドバー……!」

 庵の目の前に広がる海のちょうど真ん中辺り、そこに浮かぶ黒いシルエットが顔を出している部分の上に、それはいた。

 距離は遠い。つまり、庵が見えている「それ」もぼやけていて、デッドバーである、という確信はない。だが、そこから放たれている妙な違和感。それが、無意識ながらにも庵に昨夜の記憶を呼び起こす。

 庵はすぐに近くの建物の陰に隠れた。前述したように、距離は遠い。まだ庵が近くにいる、とはバレてはいないはずだ。

 庵はデッドバーのいる方向を睨みつけながら言った。

「ちくしょう……。本当に来てやがる……! ……、ん? 待てよ。なんであんなに余裕に構えてんだ? ルナが向かったんだから、戦うとか、逃げるとか、なにかするだろ普通」

 まさか、「即行で片付けました」はないよな、と縁起でもない可能性を考えながら、庵は思考を巡らせる。

(ルナは確実にこっちの方向に向かっていった。そしてその先にはデッドバーがいた。んで、はいここで会ったが百年目! いざ勝負!……ルナの性格から考えてそれはない。まずは様子を伺うはずだ。なら、……ルナはまだどこかで息を潜めている……?)

 庵の思考がそこまで辿り着いた時、遠くから爆音……というよりは建物が崩れるような音がした。

 庵は驚いて、その場所を確認しようとするが、見えない。何かないかと辺りを見回して、せり場の屋根へのはしごを見つけると、それを一気に駆け上る。

 屋根の上に立った庵は見晴らしの良い場所を探し、音源の方へ目を凝らす。

 視界の先には、崩れる小さな工場と、そこから立ち上る白煙が空を覆っていた。


 そしてもう一つ、ぼんやりと、だがハッキリと、噴煙の中から吹き飛ばされたように出てきた、一人の少女が見えた。


「―――ッ! ルナ!!」

 庵は叫び、彼女の元へと向かう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ