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リカントロピー  作者: 真琴
1/1

狂狼の宴

この作品はプロローグとなります

物語の主人公が自分の可能性に目覚め、自身と向き合うことになった事件のあらましです


短いですがご勘弁ください

雨が降りしきる中、山の中で複数の影があった。

影は人だ。

数は10人ほどで、皆、雨に濡れても構わないとせわしなく動いていた。

3人が一人をしっかりと固定し、残りが捕まっている男に暴行を加えていた。

顔は腫れ上がり、所々に血が滲んでいる、雨がそれを洗い流し目立ちはしないが、それでも赤が残るということはひどい状況であると物語っていた。

「ひ、ひひ…」

最早、虫の息となっている男に向かって一人の男が近づいた。

他のメンバーは道をあけているところを見ると、その男がこの一団のリーダーなのだろう、手を突き出し、次に振り下ろす。

離せという合図である、捕まえていた3人は人形のようにグッタリとした男を地面に放り投げた。

死んでいるかと錯覚してしまいそうなほど不自然に倒れる

それを見て動揺する者も居たが、リーダーは気にしてはいなかった。

突っ伏した男の髪の毛を掴み、自分の方に顔を向ける、腫れ上がった顔をと意識のある目を見て満足そうに頷く

「よう、色男…ひでぇツラだな」

楽しそうに笑う、心底嬉しくて堪らないのだろう、しばらくその快感を堪能していたかったが、それでは一生このままになりそうだ。

「ざまぁみろ!ざまぁみろざまぁみろざまぁみろ!ざまぁみろぉ!

これがお前と俺の差だ!俺に逆らうとこうなるんだ!」

今まで溜め込んでいたものを全て吐き出すかのように罵詈雑言を浴びせる、内容は似たようなものばかりであったが、何度言っても言い足りないといったところだろうか口は止まることをしらなかった。

息切れを起こすほど言葉を吐き出したあとは、恍惚の表情に変わっていた。

「はぁ…はぁ…まだだ…まだ終わってないぞぉ…俺を馬鹿にした奴は死んだって構わないんだ!

だが、死んだらもう終わりだ!俺のこと気持ちは晴れない!じゃあどうする!?」

男の顔を投げ出し立ち上がる、背後の男達に向き直り倒れている男に聞こえるように大きな声で言った。

「神尾くん、君には妹がいるんだって…なぁ?

仲良しなのか?うちにも妹は居るが俺とはそんなに仲良しじゃあないんだ。

でも、君は違うよねぇ?放課後は早めに帰って病院通いしてるもんなぁ?全部知ってるんだよ!病気で動きも出来ない妹がいるなんてな!」

倒れている男に向き直り頭を踏みつけ続ける

「ぶっ殺してやるよ!お前の大切なものを全部壊してやる!」

男が動く、震える身体を懸命に動かし、か細い声で訴える

「や…めろ…」

全身の力を振り絞り軋む身体を動かす

「頼む…妹には…」

リーダーは満足そうに無邪気な笑顔を向けた。

その反応を待ってた。満足だ。

そう取れる感情の満ちた笑顔、だがそれはすぐに歪んで別の感情を表した。

「ダメだ!ダメダメダメ!俺に逆らった人間は絶対に許さない、死体を処分する業者にももう話はつけてあるんだ

最後まで悔め、後悔しろ!お前ら兄妹は今日死ぬんだ!」

リーダーが取り巻きに「連れてこい!」と伝えると一人が近くに停めてあった車のドア開けた。

「ご対面だなぁ!今からこいつを目の前でいたぶってやるよ、お・兄・ちゃん!」

車後部座席に座っていた長い黒髪の線の細い女の子は間違いなく、彼の妹だったのだ。

全部の力が溢れ出した。

俗に言う火事場の馬鹿力という現象で、妹を助けるべく身体を痛みから保護し強制的に動かした。

「金川ぁぁあ!!!」

リーダーの苗字を叫び、ふらつく身体をミサイルのように発射させた

全身が打撲や擦り傷で軋みをあげる、そんな状態では大して動くこともできず、足を絡ませ転がり倒れた。

神尾はすぐに拘束された。

どんなに暴れても屈強な男達には争うことは出来ず、最後には手錠で拘束されてしまった。

「すぐには殺さないよぉ、安心しろ、女を簡単に殺すようなおもしろくない男じゃない、ゆっくりと楽しんでやるお前の目の前でな」

無力だった。

無力で情けない存在、這いずってでも妹助けようと足掻くが、どうにもならない。

憎悪、怒り、それらが混じり顔面の毛細血管が切れ顔面を紅潮させる、あまりにも力を入れすぎたため身体がオーバーヒートしていたのだ。


ドクンー


もう自分の鼓動しか聞こえない。


ドクンー


いや、他にも1つ聞こえるものがあった。


ドクンー


ころ…す…


それは自分自身の憎悪の声、無力な自分にできる最後のことだ。


ドクンー


声にならない叫び、「うるさい!」と複数から暴行を受けるが止めなかった。

止まらなかった。


そこで、神尾鷲士の意識は途絶えた。

次に意識を取り戻した時は彼は生きてはいないだろう、いや、2度と目覚めることが出来ないのだからその表現はおかしいのか…


ドクン!ドクン!


鷲士の身体が痙攣し始める、やり過ぎてしまって死んだかと離れた後、変異は始まった。

ボロ雑巾になった身体は毛がどんどん濃くなっていく、腕は膨らみ、筋肉が膨張していった。

骨格が歪み、人の姿は獣へと変わっていく、その容姿はまるで狼だった。

手錠は弾け飛び、自由を取り戻す

男達は目の前の出来事に思考を奪われ、ただ、その変化を見守るしかできなかった。

異形が立ち上がる、その姿はまるでファンタジー世界の狼男だった。

その瞬間弾けた。

膨張した筋肉がかつてない運動性を見せ、男達に襲いかかる、対峙していた数人は頭部が一斉になくなっていた。

それに気づくのは、跳ね飛ばされた頭部が地面に落ちた時だった。

風となった肉体は車へと近づき、車の屋根を吹き飛ばした。

その屋根の中に、リーダー格の男、金川の頭部が混じっていた。

金川の鮮血で真紅に染まっていく少女。

一瞬の出来事で呆然としていた残りの男達は逃げ出した。

自分の命を救うために、敗走を選んだのだ。

しかし、運命はもう決まっていた。

異形と化した鷲士から逃げられる者はこの場でただ一人もいない、強いて言えば対象とならないこの少女くらいなものだった。

一人づつ噛み砕かれ、咀嚼され命を奪われていく、先ほどと同じように頭を跳ね飛ばしてしまえば良いのだ。

動かなくなった死骸を後でゆっくりと頂けば何も問題はない。


赤がその場所を占拠していく、異形は雄叫びをあげていた。

これが神尾鷲士のキッカケだった。



最後まで読んでくれてありがとうございます。

次からが本編となります。


お付き合いいただけるなら幸いにございます

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