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「すべてを手に入れる14」の友孝視点の小話

友孝視点です。

 クリスマスイブに名波さんと話してから、私の心は決まった。

そして、そんな私に名波さんは時間をくれた。


 私の事を信じる必要なんてないのに。

まっすぐに私を見て、私が前へ進む事を信じてる。


 ……もう十分だ。


 こんなに自分を信じてくれた人などいない。

まっすぐな緑色の瞳で私自身でさえ信じられない私を信じてくれる。


 その瞳に応えたい。


 緑色の瞳が、躊躇しそうになる私の手をグイっと引っ張ってくれるから。





 少ないチャコとの時間をできるだけ多くの笑顔で過ごせるよう、気を配る。

私の誕生日には今まで賀茂家と敵対関係にあった狐の兄妹や安倍家の嫡男まで祝ってくれた。

こんな日が来るなんて信じられなくて、口元に笑みを浮かべてしまう。


 そして、去年のクリスマスイブと同じように、チャコが私に雪だるまを作ってくれた。

去年と違うのは、チャコの周りにたくさんの人がいるということだ。


「すごいね、きれいだね。」

「でしょでしょー。でもこれってなんの石だろうね?」

「ラピスラズリとかサファイアじゃないのか?」

「どうだろうねー?」

「自分で作ってよくわかってないのか。……面白いな。どこまで作れるのか考えるとゾクゾクするな。」

「あ、やめて。本当にその目はやめて。」


 私といる時とは違い、表情がくるくると変わる。

そんなチャコを見ていると飽きない。

思わず頬が緩んでしまうけれど、それを隠すこともせず、じっとチャコを見続けた。


 ……ああ。

もう十分だ。


 チャコにとってはこの雪だるまもただの思いつきなのだろう。

でも、たったそれだけの事で私の胸に温かい物を注いでくれる。


 十分だ。

私の胸はとっくに満たされている。


 忘れない。


 学校から家に帰る、それが寂しさや苦痛を伴う物ではなくなった事。

家に帰ろう、という時にそれを楽しみだと思った事。

向かい合って座る食卓。

並んで見るテレビ。

自分には関係ないと思っていたイベントを共に過ごしてくれる人がいた事。


 忘れない。


 いつだって思い出せる。

自分にも幸せな時があった事。

確かに胸が温かかった事。


 チャコと過ごした時間があれば、もう心は寂しくないから。


 私は前へ進もう。

チャコの手を離そう。


 暗いグラウンドで名波さんとチャコを呼びとめ、その事を告げる。

すると、チャコは地面を見つめて、困惑していた。

喜ぶでもなく、悲しむでもなく……。

ただ、どういう事だろう? と必死で考えている様子なのが、チャコらしい。


 思えば、チャコはよくこんな顔をしていた。

私の言葉の真意を探っていたのか、その先にある物を考えていたのか……。


 でも、それも今日で終わりだ。

私はチャコに関わらない。

そうすれば、くるくると表情が変わるチャコでいられるはず。


 ――幸せになって欲しい。


 そこに私がいなくてもいいから。

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