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「すべてを手に入れる12」の後の鋼介の誕生日の小話

鋼介の誕生日パーティ。

鋼介視点です。

 文化祭の日。

材木置き場で名波と賀茂先輩の姿を見てから、チャコは変だった。

『唯ちゃん、大丈夫?』って走り寄って行くと思ったのに、なぜか勢いよくどこかへ走り去ってしまったのだ。

そして、それを名波が追いかけて行った。


 俺も行きたかった。

けれど、よくわからない不思議な感覚が俺をその場に繋ぎとめた。


 これが何かはわからない。

でも、チャコを追って行けば、何か良くない事が起こる。

そんな気がしたのだ。


 結局、名波が上手くやったようで、二人は今までよりずっと仲良くなったようだった。

いや、むしろなりすぎだ。

最近のチャコはカルガモの親子のように名波にくっついて離れないのだから。





 十二月八日。俺の誕生日。

みんなが俺の誕生日を祝ってくれるというので、理事長の家へと集まった。

なんだか申し訳ないが、理事長はそれも楽しいんだよ、と笑っていたから、遠慮しながらも俺も集まっている。


 でも、高校生にもなって俺の誕生日をみんなに祝ってもらうなんて考えてなかった。

ちょっと照れ臭いけれど、嫌ではない。

みんなが集まるまでは、適当にゲームをしながら過ごした。

そして、みんなが揃うと、俺はダイニングテーブルへと連れていかれ、イスへと座らされた。

そこへチャコが何かを持ってくる。


「誕生日おめでとー!」


 チャコが嬉しそうに笑って、俺の前に大きなケーキを置いた。

それは四角いチョコレートケーキの上にたくさんのベリーが乗っているものだ。

サイズもかなり大きく、30cm四方ぐらいある。


「すごいな……。」


 思わず感嘆の声を漏らすと、チャコがイヒヒと笑って説明を続けた。


「あのねー、中はベリーのムースが入ってるんだよー。唯ちゃんと理事長と一緒に昨日から作ってたんだよ! これが三人から鋼ちゃんへのプレゼントです。」


 すごいでしょ! おいしそうでしょ! とチャコがふふんと胸を張る。

その後ろで理事長が柔らかく微笑み、名波はチャコの横でふわふわと笑っていた。


 ……そうか。手作り。

手作りか。


 ニヤつきそうな顔を必死で抑えて、三人に礼を言う。

すると、俺の斜め後ろに立っていた勇晴がボソリと呟いた。


「女の手作り……ありだな。」

「……だまれ。」


 ジロリと睨むと、勇晴はフッと鼻で笑う。

そして、目線をケーキに移すと、チャコへと疑問を投げた。


「なあ、なんでチョコレートなんだ?」

「私が好きだからー。」

「なんでベリーなんだ?」

「唯ちゃんが好きだからー。」


 勇晴の疑問にチャコが堂々と返していく。

俺へのプレゼントなのに俺への配慮が一切ない。

それを悪びれもせず言ってのけるチャコに、名波と理事長は困ったように笑っていた。


「ごめんね、鋼介君。ちゃんと鋼介君の好みを聞けばよかったんだけど……。」

「ダメだよー、唯ちゃん。『何ケーキ好き?』とか聞いたらドッキリ感が無くなっちゃうし。」


 どうやらチャコはプレゼントのドッキリ感を優先したらしい。

チャコらしいな、と思う。

なんだかそれが胸の中で柔らかく漂って……。 


「俺もチョコレート、好きだから。」


 チャコと同じだ、と。


 そっとチャコを見つめる。

チャコはそんな俺の言葉にそりゃ良かった、と笑った。


「よし、じゃあケーキにロウソクを刺すよー。」


 そう言って、十六本のロウソクをケーキに刺していく。

……いや、なんでだ。


「チャコ。一本太いのと六本の細いのとじゃダメなのか?」

「えー。鋼ちゃんわかってないなー。鋼ちゃんの一年一年は大事な積み重ねだからね。まとめて一本にしちゃうなんて。そんなもったいない。」

「ごめんね、鋼介君。チャコがどうしてもって……。」


 チャコがかっこ良さそうな事を言っていたが、名波が苦笑しながら謝る。

きっと特に意味はなくて、たくさんロウソクを刺したかっただけなんだろう。


「名波が謝る事じゃない。」


 せっかく、どこかのお店で売っててもおかしくないようなデコレーションがされていたのに、そのケーキがロウソクだらけになる。

更にそのロウソクに火を灯せば、ちょっとしたボヤだ。


「わー、壮観。じゃあ、みんな歌いますよー。」

「チャコ、早くっ。ロウが垂れてる……っ。」


 名波が焦っているが、チャコはどこ吹く風で、ハッピバースデーを歌う。

みんなもちゃんと歌ってくれて、なんだか胸がくすぐったい。

そして、ようやくボヤを吹き消せば、おめでとう、と笑顔で言葉をかけられた。


 みんなにプレゼントをもらい、ケーキを切り分ける。

口に入れたケーキはチョコレートがほろ苦くて、ベリーのムースが甘酸っぱかった。


 プレゼントは兄貴が腕時計、賀茂先輩は機能的なシャープペンシル。勇晴はゲームだった。

勇晴がくれたゲームはその場で開封となり、一番テンションの上がったチャコがいそいそと準備をしている。


「唯ちゃん、こっち来て一緒にやろ?」


 いち早くテレビの前のソファを陣取ったチャコが名波を手招きする。

名波は仕方ないなぁって笑いながら、チャコの隣へ座った。


 文化祭が終わってから。

チャコの定位置は名波の隣だ。


 前は特に気にせず、ゲームに没頭していたが、今では名波の隣じゃないと落ち着かないらしい。

名波がいない所で、どうしたんだ? と聞いてみたのだが、充電してるんだよって笑っていた。


「唯ちゃん、このゲームはチーム戦もできるんだよ。絶対鋼ちゃんたちに勝とうね。」

「うん。勝とう。」


 名波とチャコが顔を見合わせて頷く。

チャコは本当に嬉しそうで……。


 チャコが楽しそうで良かった。

俺の誕生日に楽しそうに笑ってくれて良かった。


 こんな事、恥ずかしくて絶対言えないけれど。


 チャコの笑顔が。

一番のプレゼントだなって。


 そんなポエムな事を思いついてしまって、うわあーって頭を抱えた

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