「すべてを手に入れる2」のチャコ視点の話
未来を語るヒロインを見ているチャコ視点です。
友孝様と別れて、一人暮らしを始めて。
ようやく今日が入学式だ。
このゲームの世界の主人公である名波唯ちゃんは薄い金色の髪がふんわりとして、深い緑色の目がとてもきれいな女の子だった。
さすがヒロイン。かわいさが群を抜いている。
ヒロインが誰を選ぶのかはわからないけれど、友孝様の命令を遂行しなければならない。
まずは仲良くなる。そして、妖とヒロインが親しくなりそうなら邪魔をする。
人の恋路を邪魔するなんて、さすが乙女ゲーの悪役。
しかも九尾鋼介のルートだと、最終的に消えちゃうんだもんなー。
落石が直撃して死んだと思ったら、妖になっちゃってコレとか。
自分の人生に甚だ疑問を感じる。
……友孝様がやれと言えばやるしかないけれど。
とにかく、ヒロインと仲良くなって、ぼちぼち考えていこうと思ってたんだけど、初日からヒロインの行動力がすごすぎる。
安倍勇晴と話し、私に引き合わせ、更に理事長の家へ行くとか……。
なにこれ、何ルートなの。
私の知ってる九尾鋼介ルートでは、自分の事を何も知らないヒロインがよくわからないうちに色々と事が進み、あれよあれよと九尾鋼介が暴走してしまう。
だから、ヒロインは何も知らないとばかり思っていたのだけど……。
唯ちゃんは自分が妖雲の巫女だと知っていた。
そして、安倍勇晴――勇ちゃんと共に修行をするのだと言う。
……わかんない。
唯ちゃんが全然わかんない。
えー……私が式神だって事は知らないよね?
えー……でも、理事長は多分知ってるし。
えー……でもでも、勇ちゃんに私の事がバレたら、友孝様、怒るだろうなー。
唯ちゃんに『私の事、どれだけ知ってますか? 』とか聞く?
いやいや、それで『なんの事? 』とか言われたら藪蛇にも程があるよねー。
……。
……まあいいや。
考えてもどうしようもない。
考えるの、やーめた。
唯ちゃんが何も言わないんだから、それでいいや。
なんか聞かれても適当に誤魔化したら良いし。
そんな感じで四人での話は進んだ。
結局、私の事については触れられず、妖と学校の事を教えてもらった。
とりあえず、私が貴重な存在なんだなーっていうのがわかった。
というか、思ったよりも妖自体が貴重だった。
その辺にごろごろいるんだと思ってたけど、それはこの学校だったからみたいだ。
四人での話が終わると、唯ちゃんと二人で並んで家へと歩く。
適当に会話をしながら、桜の絨毯になっている歩道を歩いているだけなのに、胸がギュッと痛んだ。
それに気づかないフリをして、会話を続ける。
なんだか唯ちゃんはすごくキラキラしていて、胸がもっと苦しくなった。
「……チャコは、将来どうするの? 」
唯ちゃんがじっとこちらを見る。
深い緑色の目がキラキラと輝いていて……それを見ていられなくて、そっと空を見上げた。
薄いブルーの空にうろこ雲が浮かんでいる。
「唯ちゃんはどうする? 」
質問を質問で返すなんてどうかと思うけれど。
なんだかすぐに答えを返す気にはなれなかったから。
すると、唯ちゃんは少し目を瞑ったあと、しっかりと前を向いて答えた。
「……私は、陰陽師になろうと思う。」
唯ちゃんがゆっくりと言葉を告げると、それを応援するように桜の花びらが風に舞って行く。
金色の髪が陽光にキラキラと輝き、深い緑色の瞳が決意を宿していた。
そして、唯ちゃんが色々と将来の事を話してくれる。
ゆっくりと、落ち着いて話すその声音はとても心地よかった。
私の知っている乙女ゲーのヒロインとは違う。
しっかりと自分の事を考え、やりたい事を具現化して、やるべき事を遂行しようとしている。
目標に向かってまい進している姿は……本当に、すごく――
「……かっこいいね。」
――私とは違う。
「……全部、自分のためだから。」
唯ちゃんは少し眉を顰めて……でもしっかりと私を見たまま言葉を告げる。
「チャコはどうするの? 」
……わかんない。
知らないよ。
深い緑色の瞳も淡い金色の髪も。
全部、眩しすぎる。
唯ちゃんの瞳を見ていると、自分の中がグルグルとかき回される。
そんな自分を知られたくなくて、私はえへへっと笑った。
「んー……。全然決めてないや。今が楽しければそれでいいかなーって。」
そんな私の適当な返事に唯ちゃんは困った人だなぁって笑う。
桜の花びらの絨毯にいる唯ちゃんはずっとキラキラと輝いていた。