「すべてを手に入れる15」の後のチャコ視点の小話
チャコが飛び去った後の話。
チャコ視点。微グロ注意。
暗い森の中。
暗闇から湧いてくる妖を前に、鉤爪を出した腕を振るう。
グチィと肉を切る感触が残った後、目の前の妖はズルリと上半身と下半身が分かれた。
ボタボタと地面に崩れ落ちるそれを見ていると、体がズクンと熱くなる。
「うん。いいねー。」
上がる口角を抑えないまま、右斜め前にいた妖へと飛んだ。
一つしかない目をギッと開いたソイツも腕を振るえば、簡単に二つに分かれる。
ほのかな星の光に照らされた森に赤黒い液体が零れ、地面に溶けて行った。
懐かしいこの場所。
ここは一年程前に友孝様と妖駆除に訪れた場所だ。
妖が発生しやすい場所らしくて、一匹でも残すと次から次へと湧き出てくる。
あの時、友孝様に鞭を打たれ、一匹だけ残しておいたおかげか、今では十数匹がまた森の奥で蠢いていた。
「よーし。今日は残さず食べるぞー。」
もう、止める人はいない。
お腹いっぱいになるまで、コイツらを滅しても、誰も鞭を打たない。
「ホント、痛くないってありがたいー。」
あははっと笑いながら、妖を切り刻んでいけば、あっという間に全てを食べつくしてしまった。
湿った土のカビの臭いとグズグズに腐った木の臭い。それに鼻の奥をツンと突き刺すようなアンモニアの臭いもする。
これが妖の臭い。
決していい臭いとは言えないそれが、鼻腔をくすぐると焼きたてのマドレーヌのような甘い香りに感じられる。
もっと。
もっと欲しい。
熱い体は未だ満足していない。
ペロリと上唇を舐めて、グッと右手を握る。
夜空の雲が流れ、時折、下弦の月が東の空に姿を現した。
「さ、次にいこ。」
茶色の髪が夜風に晒され、ふわりと揺れる。
唯ちゃんたちといた時とは違う、目線が変わった頭をグルリと回した。
そして、体の奥に力を集中して、その姿をタカへと構築した。
バサリと羽を揺らし、空へと舞い上がる。
しばらくはそのまま飛んでいたが、丁度いい場所に赤と白に塗り分けられた電波塔があった。
それに近づき、姿を人間にして鉄骨の上へと立つ。
もう、唯ちゃんがいる学校は全然見えなかったけど、その方向へとじっと目を凝らした。
いつもがんばってる唯ちゃん。
みんなの手を引いて、みんなが前へと進んでいく。
チャコも行こうって唯ちゃんは言ってくれたけど……。
「そんなの、唯ちゃんがかわいそうだ。」
みんなの事ばっかり。
……こっちの事ばっかりで。
それじゃあ、唯ちゃんだけ損してる。
「がんばろ。」
自分を勇気づけるように言葉を零した。
その言葉は冷たい夜風にさらわれて、あっという間に溶けていく。
……唯ちゃんみたいに手を引っ張って行く事はできない。
けれど、背中を押す事はできるから。
東の空を見る。
夜空には半分になった月があった。
唯ちゃんの元へ帰るのは、この月が一度消えて、またまんまるになった時。
「待っててね。唯ちゃん。」
白い息を吐きながら、そっと呟く。
そして、クンクンと鼻を効かせて、腐ってカビ臭くてアンモニア臭がする――でも、とってもいい匂いのそれを探していく。
すると、西の方を向いたときに甘いマドレーヌの香りを感じた。
「ごはん、発見。」
その匂いに吸い寄せられるように、電波塔の鉄骨を蹴って、夜空へと躍る。
そして、姿をタカに変え、羽を広げ、はばたいた。
いつだって。
何度だって。
この命は君のために。
――悪役、やりとげてみせます。




