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「優秀な陰陽師」の後のプールの小話

高校生だからプール行こう! という話。

鋼介視点です。

ついに今日が来た。

名波に裏切られた時はもうダメかと思ったけど、突然方針転換したのか、援護射撃があり、チャコをプールに誘う事ができた。

別に二人きりがいいというわけではなかったが、なんとなくそのまま二人で行くことになった。

これってデートって言ってもいいよな?


 ……まあ、たぶん、意識してるのは俺だけだろうけど。


「鋼ちゃん! おまたせー。」


 プールの最寄り駅を出た所で待っていると、きれいな声が響いた。

パッと後ろを振り向くと、駅から出てくるチャコの姿が見える。


 制服とは全然違う。


 白いマキシ丈のレースワンピース。

その上に前を開けた半そでのデニムシャツを羽織っている。

黒い髪は編みこまれ、後ろでお団子っぽく整えられていた。


 どうしよう。

かわいい。


 チャコがこっちに向かって悠々と歩いているだけなのに、ボッと顔が赤くなってしまう。

そんな自分が情けなくて、近づいてくるチャコを見ないように、上を見上げた。

プール日和とは言い難い、どんよりと曇った空が見える。

きっとこれぐらいの天気の方が暑すぎずちょうどいいとは思うが。


「おおー、鋼ちゃん、おしゃれさんですなー。」


 ようやくチャコが俺の隣に来て、俺の服を見て、イヒヒと笑った。


 今日の俺の服装は灰色のチェックの七分丈クロップドパンツに柄入りの白色Tシャツを着ただけの姿だ。

言うほどおしゃれではない。


 ……なんか気合入れてきました感が出たら恥ずかしいなって思ったんだよ。


 でも、チャコがこんなにかわいいならもっとちゃんとすればよかった。

会って早々、後悔し始めたが、チャコは気にせずバス停に向かって歩いていく。

プールにはこの駅から専用のシャトルバスが出ているので、それに乗っていくのだ。


 バス停には既にシャトルバスが来ていた。

それに乗り込み、当たり前のように隣に座る。


「ねね、鋼ちゃん、楽しみだねー。」


 チャコが俺を見て、えへへと笑う。


 ああ。

俺は今日、幸せすぎて溶けちゃうんじゃないか。


 そんな俺の事などまったく気にしていないようで、チャコはプールの地図を広げると、まずはあれに乗る―、次はこれに乗る―とウキウキと話していた。

そうこうしているうちにバスが出発し、あっという間にプールに着く。

例のタダ券をフロントへ見せると、ウォータースライダーの一日券としてシリコンブレスレットをくれ、中に入れてくれた。

これを手首に巻いとけば、ウォータースライダーは乗り放題らしい。

チャコは喜んでそれを受け取ると、さっさと女子更衣室へ入っていった。


 実はこれはタダ券ではない。

友人が福引で当てたのを、正規の値段の半額で買い取った。

名波の分は返したので、俺は俺の分を払ってここに来ていると思えばそれで構わないだろう。


 俺も更衣室へ入り、さっさと着替える。

特に何の変哲もない黒色のサーフパンツ。

手には名波に忠告された灰色のラッシュガード。

手早く着替えたつもりだったが、更衣室から外へ出て、シャワーの門をくぐった先には既にチャコがいた。


「チャコ、早くないか? 」

「うん、実は家から着てきてたー。 脱ぐだけ! 」


 驚きながら近づくと、チャコが嬉しそうに笑う。


 白地に青い小花柄のホルターネックビキニ。

一応下はショートパンツっぽい形になっているけど、胸が……。


 思わず見てしまうのは仕方ないことだ。

チャコは長身で痩せ型な体型だと思ったが、出るとこは案外出てる……。


 チャコはそんな俺の視線に気づきもせず、さあ行こう! 早く行こう! とウォータースライダーに向かって一直線である。

とりあえず落ち着け、と、手に持っていたラッシュガードを渡した。


「今日は曇りって言っても紫外線はあるぞ。着とけ。」

「えー、大丈夫じゃない? 」

「帰ってからピリピリして泣くようになるだろ。」

「んー。そうかなー? わかった。じゃあ借りるねー。」


 納得したのかしてないのか、チャコは俺から受け取ったラッシュガードを羽織る。

そして、ジーッとチャックを閉めた。


 俺のラッシュガードだから、もちろん大きい。

下に来ていた小花柄のショートパンツもほぼ隠れて、手の長さもブカブカ。


 ……これか。

この湧き上がって来る気持ちが『萌え』ってヤツなのか。


 くぅと俺が唸っていると、チャコは不審げに眉を顰めた。


 このままではいけない。


 パッと気を取り直し、チャコと一緒にウォータースライダーへ向かう。

そして、何度もチャコはウォータースライダーを滑った。

階段を上っていくだけでかなりの重労働だが、妖だから疲れることはない。

そうして、七個まで制覇すると、ついに最後の一つだ。

これは大きなチューブに乗って、滑り降りていくものである。

前と後ろに乗る所があって、二人乗りが可能なヤツだ。


「ねね、鋼ちゃん。これ二人乗りできるみたいだけど、する? 」


 チャコが嬉しそうにこちらを振り向きながら、笑う。


 乗りたい。

チャコと二人乗りがしたい。


 けれど、名波の言葉がよぎる。


『ウォータースライダーで二人乗りとかしたら殴るからね。』


 ……妖雲の巫女に殴られたらどうなるんだろうか。


 それでもいい! 二人乗りをしよう! と悪魔が囁いたけれど、ぐっと抑えた。


「いや、一人ずつ乗ろう。 後でどっちが上手に乗れたか勝負だ。」

「ん! わかった! 」


 じゃあ、私から行くねー、とチャコが上機嫌で滑り降りていく。

俺はその後ろ姿を見ながら、名波を思い浮かべた。


 こうしてプールに来れたのも名波のおかげだ。

あの時、名波が言わなかったらチャコは来てくれなかっただろう。


 今、ここにあるチャコの笑顔は名波のおかげでもある。

だから、俺は名波の言葉を守ろう。


 きっと名波と俺の願いは同じ。


 チャコに笑っていてほしい。


 ずっと。

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