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コンタクトレンズは、耳鼻科のお医者さんに言わせると「眼球を傷つける事で花粉症を進行させる」可能性があるそうです。

作者は近視のレンズはつくれるけど乱視を入れる事が出来ませんでした……なので、もしコンタクトで映画を見るとぼやぼやです。眼鏡をかけるとダブル眼鏡で鼻の骨が重さでえらい事になります。


※今回は直接描写こそありませんが、妊娠、流産、殺人に関わる文章がございます。嫌な予感がされた方は飛ばして翌日公開で補完をお願いします。また、注意事項を読まれても読み進められた方はご了承いただいたと解釈致します。

21



 突然、だったのかも知れない。

 もしくは、始まったのかも知れない。

 または、終わったのかも知れない。

 さりとて、続いていないと何故言えるだろう?

 気づく事が無ければ、それは気づかれる事は無かったのかも知れない。

 だが。


「……え」

「……なえ」


 どこか、遠くで。もしくは近くで、あったのだろうと。

 感じたのか、思ったのか、聞こえたのか、見えたのか、それとも。


「「佳苗」」

「……おねにぃちゃん達?」

「「それはヤメロ」」

「……久しぶり?」

「「この形ではね?」」


 そうだ、と出雲佳苗は自分自身を「構築」した。

 だから次に感じたのは「ああ、これは夢だ」と言う感覚だった。

 否。


「お兄ちゃんでもお姉ちゃんでも、あるけどないんだから……おねにぃちゃんで間違いじゃないと思うんだけどな?」

「気分が悪い」

「文字数が多い」

「縁起も悪い?」

「そう言えば、あの作者の話ってどうなったんだろう?」

「記憶ないなあ……」

「佳苗が好きな作者って少ないもんな、好きな話はあるけど」


 夢以外で、佳苗が「ここ」を場所として表現出来る文句は思いつかない。

 何しろ、彼等……彼女等と言うべきか悩むが、その人物を客観的に認識出来る場所と言うものが第三者を介入した場所では存在しない。少なくとも、佳苗は知らない。


 出雲佳苗は、三番目の子で末っ子だ。

 だが、本当は五番目の子で末っ子だ。


「私……どうしたんだろう?」

「……どうしたって?」

「何が?」


 彼等、彼女等は「生まれなかった」兄であり姉だ。

 性別が作られる前に消え去った、法律では「殺されても罰則を受けない」頃に存在。

 佳苗は、ずっと昔から知っていた。

 自分には、戸籍上に存在するのとは別に「家族」が存在する。けれど、それをどうやって表現すれば良いのかずっと判らなくて何十年も言葉に出来ずにいた。存在していた、それが今でも佳苗には存在を感じるのに、それを誰にどうやって何を言えば良いのか表現すれば良いのか判らなくて、夜中に泣いたりする事もあった。

 幼い精神には、歳の離れた姉兄の他に「生まれなかった家族」の事をどうすれば良いのか判らなかった。

 何十年も胸に秘めて抱えていたが、つい昨年になって母親が何かの話のついでに「お前と兄の間で流産をした事がある」と聞いて「あぁっ!」と佳苗の心臓は打ち震えた。泣きそうになった、喜んだら良いのか判らなかった。

 一人が流産したのは言質が取れたけれど、二人目に関しては「答えて貰えなかった」のだから、恐らくは「そう言う事」なのだろう……妊娠したと言う認識をする前に流れてしまったのかも知れない。


 でも、二人はずっと佳苗の側に居た。


 誰かは、それは思い込みだと言うだろう。誰かは勘違いだと言うかも知れないし、誰かは鏡の中に居る「貴方だけの友達」だと言うかも知れない。

 けれど、佳苗は誰に教えられる事もなく他に二人の家族がいたのだと言う事を知っていた。

 もしかしたら……それはかつて、父親に「お前は生まれる予定では無かった」と言う言葉から精神を守る為の自衛本能だったのかも知れない。だが、それならば一人だけで良かった筈で二人は必要なかった筈だ。

 父親がぬけぬけと「冗談だ」と言ったが、それは明後日の方向に飛び火して今でも(くすぶ)っていた火はちらちらと燃え上がるタイミングをじっと見据えて待っている。

 言われた当の本人より、深い傷を(もたら)して置いてトラウマを作っていると言うのもあるが。どちらかと言えば佳苗は「生まれる筈では無かった」と言う事ではなく「自分自身」を冗談にしたかったのだろうと判断している。


 本当は、殺される筈だった。


「私……確か、今日は……」

「どうした、佳苗?」

「何があった、佳苗?」


 でも、佳苗は生き残った。

 その事で思い悩んだ事がないとは、言わない。

 どう言う事なのか、生き残ったのが自分自身で良かったのか、もしかしたら殺された二人の姉兄の方が良かったのではないか? そう思った事が人生で何度もある。悪い事が起きた時だけではなく良い事が起きた時だって、本来はこの出来事を享受するには佳苗で良いのだろうか? 本当は良くないのではないのだろうかと、常に心のどこかで思い悩む自分自身がいた。

 もしかしたら、佳苗はそう言う意味で言えば「掛け値なしに心の底から思う」と言う事は生涯出来ないのかも知れない。

 佳苗には、どうしても生き残るだけの価値を見つける事が出来なかった。いつだって、生まれなかった姉兄と比較する己がいるから。

 二人と違って佳苗は「隠された」からこそ生き残る事が出来た……あの人は「殺せなかった」からこそ佳苗は生き残った。


「「佳苗!」」

「……おねにぃちゃん?」

「「だから、それやめろって!」」


 佳苗にとって、この人達は姉であり兄だ。そして、姉でも無ければ兄でもない。

 性別が生まれる前に母親の胎内で亡くなり、肉体が作られる前に鼓動を止めた。


「どうしたの?」

「それはこっちのセリフ」

「本当に自覚ないわけ?」


 肉体を持つ事も生まれる事も無かった、そんな形にならなかった存在に魂と言うものが存在するのかどうか佳苗には判らない。

 万物(ばんぶつ)……あらゆるものに神は宿ると言う、付喪神(つくもがみ)だって作られた物体が100年もたてば意識が宿ると言う、けれど体を持たず生まれる事も無かった二人の存在は、一体どこにあると言うのだろう?


「ぼうっとしちゃってさ」

「心ここにあらずって感じ?」


 佳苗と実の兄との間には、およそ3年3カ月の年齢差がある。佳苗の姉と兄の間にはちょうど丸二年の差があるので、佳苗と兄の間にもう一人くらい居てもおかしくは無かったのだ。その間に年に一人くらい作ろうと思えば、確かに出来ない事でも無かったのだ、流産しやすい人ならばともかく、最初に二人産んでいて二人流産すると言うのは、確かにない事ではないだろうが可能性としては少ないと言えなくもない。

 どちらが先に生まれなかったのか、その区別は流石に着かないけれど。

 それとも?


「じゃあ、何て呼べば良いの?」


 生まれなかった姉兄、形の作られなかった子供達。

 当然、人だと言って姉だと兄だと言っているけれど顔も無ければ手足もない。

 子供の落書き程度の人っぽい形の、白い顔もないぬいぐるみの様な物体があるだけだ。少なくとも、見分けはつかないし声も声として耳で認識しているわけではないので高くも無ければ低くもない。

 女性っぽいかと思えば男性っぽいし、知識はあるみたいだが知識をどこでため込んでいるのか肉体がなくても出来るのかと言う疑問をふと思いついてしまったりもしたが、今はその時ではないだろうと思う程度の常識は佳苗にだって持ち合わせている。


「そうだねえ……」

「特徴ないもんな、僕ら」

「いやいや、一緒にしないでくれる?」

「どっちも似たようなもんだしねえ?」


 当事者が最もあっけらかんとしているのは、果たして遺伝なのだろうか……それとも、肉体がないのに遺伝って言うのは魂も遺伝するのだろうか……それ以前に、この人達に魂はあるのだろうか?

 いや、あるのかも知れないけれど。


「そうだ……私、呑みに出たんだ」

「ああ、(ざる)だもんね、佳苗!」

「良いよなあ、呑んでみたかった! あ、でも飲んだ気にはなるからどんどん呑め!」

「けど、収入もないのに呑みなんて良くないんじゃないか?」

「そうだよなあ、飢え死にされるのも怖いし」


 飲んだ気になると言うのは、佳苗が酔っぱらうと酔っぱらいの感覚を得ると言う事なのだろうか……。

 知らなかった、もしかして感覚共有されてるのだろうか?

 そんな、しょっぱい気持ちを少し覚えても日常で認識しないのだから別に良いのだろうかと言う思考に入りかけた……思い切り深遠な状態と言えなくもないのかも知れない。

 何しろ、身内の幽霊に感覚を共有されてるかも知れないと言う事実を前にどうしたものかと……。


「て言うか、なんでそんな事知ってるかなあ……私が無職とか、意味判ってるの?」

「そりゃ判るさ、佳苗……当然でしょ?」

「そうそう、僕らだってずっと佳苗と一緒にいたんだから」

「いや、居たのは知ってるけど……判っていると言うか……」

「そそ、だから気にする事ないって!」

「佳苗が知ってる事は大抵知ってるから!」

「何を精神的ストーカー宣言してんのよ……」


 泣いて良いかな、と佳苗が思ったのは当然だろう。

 他人で肉体があって、何の繋がりがない人物ならばともかく。

 性別不肖、身内、おまけに生まれなかった存在。

 少なくとも、現代日本に置いて超常現象な出来事や存在の引き起こした事象に対して警察や裁判所に出来る事は何もない。出来る事があるとすれば、恐らくそっと肩に手を置いて「良い精神病院、紹介するかい?」と温かい目で見つめられるくらいだろう。それでもまだ好意的な方であって普通はそっと視線を逸らされるくらいだ、日本版恐怖映画(ジャパニメーション・ホラー)の出来が恐怖心を(あお)るからなのかどうかは不明だが。


「「だからさ、佳苗」」

「大丈夫だって」

「心配ないって」


 でも、判ってる。

 悪気も悪意も無い、二人は完全な味方だ。

 ……善意も感じ取れないけれど。


「おねにぃちゃん……!」

「「だからソレやめろって!」」

「じゃあな、佳苗」

「またな、佳苗」


 ここは「夢」だ。

 それだけは、確かだ。

 違うと言うのならば、佳苗は会いたかった。

 形造られる事も無かった、性別さえ無かった。

 名前を持つ事も、無かった。だから墓石に名前を刻まれる事も無かった。

 それが良かったのか、悪かったのか佳苗には判らない。

 ただ、二人が生まれなかったからこそ「佳苗」が生まれる事になった事を知っている。


「や……待って!」


 佳とは、形が良く美しい様を意味する。

 苗とは、植物の。生えたばかりである事や子孫を意味する。


 少なくとも、美人とは自他共に言えないだろう。化粧映えするので衣装と共に合わせればそれなりに見られるが、その影響力を知っている以上。佳苗はそんな危険な事はしたくないし出来ない。

 子孫繁栄を願われたのであれば、両親の期待にはそむく事になるだろう。少なくとも、母親は事あるごとに「結婚」とか「子供」とか言っていたのだから確実だ。だが、もしも「生まれ無かった子供達」の事を思って名付けられたのであれば。


「大丈夫だって、佳苗! 私達は佳苗曰く『精神的ストーカー』なんでしょ?」

「そうそう、いつだって側にいるよ……また会おうな。会えない方が良いかも知れないけどさ」


 少なくとも、と思う。


「私は全然大丈夫じゃないよ……」


 佳苗には、判った。

 夢の時間の終わり、現実が続きを求めている。

 さあ、物語の書き手はペンを取れ。と。


「佳苗にとって、家族は重いからなあ……」

「そんなに重いのなら、放り出しちゃえば良いのに……ほんと、馬鹿ねえ」


 だから、佳苗は見る者が見れば平凡な人生では無かった。

 まだ二人を「生まれなかった姉兄」だと認識する事もない頃に教えられた。

 佳苗は「受け皿」として作られたのだと。


「もう嫌だよ……」

「でも、佳苗は約束したでしょう?」

「約束は守らないとな……だから、今は」


 佳苗は、自分が隠されていた事を知っていた。

 だけど同時に、その為に背負う羽目になった事があるのを知った。

 自らが作った訳でも無い、生まれる前から借金を背負っている様なものだった。

 知った時、佳苗は生きる気力を失った。だけど自ら死を選ぶことも出来なかった。

 良い事だったのか悪い事だったのか、それは今でも佳苗には判らない。


「だから、今は」

「起きな、佳苗」

「「私達(僕達)の妹」」


 果たして、出雲佳苗が存在するのは正しいのだろうか?

続きます。

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