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最初、A氏の名前はついていませんでした。ちなみに名前も覚えていない先輩は実在します、22くらいの頃に渡米すると言う話を聞いたのを最後に連絡がありませんので生きているかどうかも知れませんが、身長が高かったのは確かです。

彼女さんがいるかどうかも知りませんが、元気であれば良いと思います。

20



 出雲佳苗において、大事なものと言うのは然程多くはない。

 確かに、育ててくれた両親は「育ててくれた」と言う前提があるから大事だ。あの二人がいなければ佳苗は「色々な意味」で生まれる事は無かった。

 例え、そこに(はら)むモノがある事を知っていても、そう言う意味で佳苗の中に「大切にしたい存在」はない。大切と言うものならば「しなければならない」と言う相手ならば存在するけれど。

 そう言う意味からすれば、5つ離れた嫁に行った姉も3つ離れた嫁を貰った兄も「放置するべき存在」でしかない。

 遠くの親戚より近くの他人とは言うが、距離と言うのは佳苗にとってインターネットと言うものが世界を網羅しようと努力をしている昨今。特にこれと言って気にする程の価値は認めない。


「ショックだ……」


 40を超えた時点で、人によっては老眼になる事もあるだろう。

 これは白髪や禿げ……薄毛でも言える事だが、それらは全て「個人差」でしかない。

 30代前半で、佳苗の髪は白くなり始めた。

 40を超えたら髪の毛が細くなり始めた。

 しかし、ムダ毛と言われる他の部分は本数からして少ないと佳苗は言われる……比較対象が滅多にないので本人的にはよくわからない。背中を見えないとか、己の顔が見えないとか言うのと同じだ。

 見えないものは判断が着かない、それで良い。


「申し訳ございません……」

「あ、いや店員さんのせいじゃないんで。ニッチな少数民族的な体質が問題なんで……」


 視力検査をしてみた所、佳苗の視力は低下していた。

 今の所は今の眼鏡でも違和感は感じないだろうが、下手をすると買い直しが必要になるかも知れない。とりあえず、仕事用の青色光削減(ブルーライトカット)眼鏡だけは新調しなければならないだろう事実に項垂(うなだ)れたくなった。

 度数だけブルーライトカットだけならば、どちらもそこまで大金ではないと佳苗は思う。

 もし、コンタクトでブルーライトカット技術が入れば素晴らしいだろうと思う……何しろ、黒目をはっきりとさせるコンタクトレンズがあるくらいだ。


「いや、本当に……店員さんのせいじゃないです……」


 佳苗は、かつて左目が近視の乱視で右目が遠視だった。中学生の頃の話である。

 途中で危機感を感じた時は遠視が消え失せて近視と乱視となった、これが20代の頃である。

 そして、今。


「まさか……近視が進んでて乱視が停滞してて遠視が入って老眼が入りかけてるなんて……」


 何だ、この滅茶苦茶加減!


 佳苗でなくとも、この件についてはコメントに困るだろう。

 実際、店員の目が妙に生ぬるく感じる……。


「こちらの数値ですと、お客様の視力はまだ変化する可能性がございます。逆に、コンタクトレンズを使用されるより眼鏡の方がよろしいかも知れません」


 以前、佳苗がコンタクトレンズを作った時に言われたのが「乱視の度が必要数値までないので、作っても近視分しか効果が出せません」と言われたことがる。

 それでも、一日使い捨てのものを一か月分。二度ほど購入したことが随分と以前にある。恐らく、すでに二度目のレンズも使用期限が過ぎている事だろう……まあ、それが買い直しに踏み込む気になった理由でもあるのだが。


「そう……ですね……」


 近視の分だけでも買わせれば売り上げになるだろうに、親切な店員だと佳苗は思ったが。

 客観的な意見からすれば、それはそれは佳苗の落ち込み具合は見ていて心が痛むのだ。それはもう、コンタクトの店員が傍目には「店員が客を無意味にいじめてるんじゃねえよ!」と突っ込まれても否定要素を探す旅に出て、そのまま帰らぬ人になりたくなる程度に酷い落ち込み方だった。

 店員は、当然悪くない。逆に、近視はともかく乱視は無理に作ってしまうと佳苗の視力低下が加速装置でぶいぶい言わせる速度で進みまくって失明の恐れは少ないかも知れないが、ないというわけでもないと言う恐ろしい可能性がある。

 佳苗とて、悪い事は何もしていない。単に、世間の時流に乗れない肉体の持ち主だと言うだけだ。世界の流行は佳苗の後からついてくるのだ、とでも自己暗示に掛けなければやってられない程度に落ち込むが時の流れだけはどうにもならない。


「今回は、残念ですが諦めます……」

「またのご利用をお待ちしております」


 店員さんのせいではないし、佳苗のせいでもない。

 単に、佳苗の肉体が世間の時流に合っていないだけ。

 そう書くと何やら別の物事に見えなくもないが、実際問題として佳苗の好みも性格も世間の時流と合う事は滅多にない。流行りものに乗っかる事はゼロではないが、かと言って流行りものスキーと言うわけでもない。どれだけ流行っていても、その「良さ」が理解出来なくて首をひねる事は普通にある。

 しかし、そこで何かを言うと周囲から「おかしなものを見る目」で見られるので佳苗は求められない限り口を開かないし。同じ程度に「どちらにも解釈出来る言葉」を口にする様になった。

 映画や本やテレビ以外で、これほど傍目に「落ち込んでます」と言う風に見える様子を隠しもしないでいる姿と言うのは、佳苗を知っているものからしてみれば大変珍しい事だろう。


「誰も悪くない……うん、悪くない……」


 時々、ある事なのだ。

 例えば、今でこそ珍しくないが佳苗の足は肥満の為に甲が高い。爪のある側、足首から下の表側と言えば想像がつくだろうか?

 靴は縦の長さであるセンチメートル単位の他にEと言う単位が着くワイド単位がある。

 佳苗の足の形はギリシャ人型で人差し指が最も長く甲も高い。長さは短か目なので、個性的と言えなくもない。

 かつて、佳苗が高校生くらいの頃はワイドサイズと言うものを知らずに長さだけで靴を履いていたら痩せた途端にぱかぱかになって履けなくなった靴があった。


「あぁぁぁぁぁぁ……どうしたものかなあ?」


 下着もそんな感じで、今でこそそうでもないが昔の佳苗のサイズは日本産では滅多にないサイズだった。

 通販万歳、と佳苗は落ち込む親を横目にそう思った。

 だから、今回もそうなのだ。

 年齢を考えれば、日ごろの行いを考えれば、真面目に働いていたと言う前提があるから首の骨がまっすぐになる事と併用して起きたと思われる食道裂孔性(れっこうせい)ヘルニアと言う病気的なものがある。結果的に食べたものが戻りやすくなる事で胃袋からの不快感に悩まされると言う状態で、手術などをするには首を切る覚悟が必要なのではないかと佳苗はぞっとしたものだ。肥満や喘息が原因だと調べたら書いてあったので、少なくとも体重を落とさなければ佳苗の未来は長くないのかも知れない……一つ一つの症状は、小さく影響は少ないだろう。ただ、それらが大挙して押し寄せればどうなるかなど生き物である以上は判ったものではない。


「時間潰しを兼ねて新しい事に挑戦しよう! って思っただけなのに……マジで落ち込むって何なの……?」


 ちょこっと手を出してみた子猫を相手に、本気で爪を立てられたあげくに指と爪の間に入りこんで血だらけになったら似たような気持になるだろうか……と思ってみて、それはまた違うなと脳内で処理した。

 子猫の爪がそんな事をしたら、もしかしたらぽろっと剥がれてしまうかも知れない……猫は攻撃で爪がはがれても痛みを感じないと言う話もあるが、事実は猫を飼った事もない佳苗にしてみれば判ったものではないので判断のしようがない。


「……何だって素敵速度でめるめるしてくるんだ、あのバをつけたいカップル」


 バをつけたいが、つけられない。

 それが、明石とその恋人のカップルである。付けられないのは彼女の方と会った事がないからだが電話は何度かで明石が勝手に教えたとかで会話をした事があり……ちなみに、その詫びはシュークリーム専門店の一日30個限定3,500円で手を打った。一人で食べるには仲々の一人フードファイトだった。

 普通とか言う点からすると「おかしい」とはっきり言えるのだが、通常の状態であるならば一般的と判断出来るだけに「恋人を快く独り者の女性と二人で呑みに行かせて朝帰りになっても怒りがこみ上げない」と言うのはどうなのだろうかと佳苗は思う。

 佳苗の知っている本や人の噂的範疇(はんちゅう)で言えば、恋人や婚姻を結ぶような人が異性と二人きりえ朝帰りをするなどと言うのは褒められた事ではないだろうと言いたくなる……これが男女混合の呑み会やらコンパなどになると言うのもどうだと言う気がするが、少なくとも貞操観念(ていそうかんねん)の問題からすれば許容範囲は同性の呑み会やら同性の相手との泊まり程度であって、それ以上となれば完全にアウトだろうと思うのだ。

 その時点で、明石の恋人は心が広いと言う域を軽く飛び越えている気がしてならない。

 確かに、人それぞれだと言ってしまえばその通りではあるが。


「はいはぁい?」


 返事をしなかったのは買い物をしているからだと言う旨のメールは送ったはずなんだがなあと思いながら、佳苗はかかって来た電話に出る。

 相手は、話題の明石の恋人だ。

 身長が2メートルを超えたと評判の明石の恋人は話に聞いただけでしか知らないが、牽制とかは全く無縁の所で佳苗と連絡を取りたがられている。


「いや、だからメールしましたよ? そうそう、買い物……コンタクトを買おうかなあって思ったんですけどね? え、嫌ですよ恥ずかしい……買ってませんよ、結局。まあ、私の体が世間に合ってないと言うのが最大の理由と言いますか……ちがっ……違いますぅぅぅぅぅぅぅ、卑猥(ひわい)じゃないですぅぅぅぅぅぅ」


 言ってから、さり気なく佳苗は視線を周囲に向ける……道の途中で体が合うだとか卑猥だとか言うセリフを吐いている中年女がいたら痴女と言われても否定しにくいと思い当ったからだ。

 一応、ちらりと見る人がいないわけではないが。だからと言って衆人環視で注目を浴びると言うほどでもなかったので人と言うものは己が思う程度には人から注目などされていないものなのだとしみじみ思う。

 もっとも、己が思うより他人から見られていると言う事もあるのだが。


「え……マジですかっ? うわあ……」


 頭を抱えたのは、明石の恋人が電話の向こう側で「SNSで痴女がいるって書いてある」と言って笑っているからだ。どう言った相手かは知らないが、その一言で地味に話題が拡散されていると聞いて落ち込みに拍車がかかったのは言うまでもない。


「何言ってんですか、やりませんよ。ええ、ネタの提供なんて暇じゃないんですから……まあ、確かに太陽沈んでるのに暑いですけど。でも、それはあ……呼び出されたからですし! しかも、相手来ないし!

 いつまで待てば良いんですかねえ? 電話してきたって事は、そこのあたりが絡んでるんですよね?」


 電話の向こう側では、己が呑めない事で迷惑かけて申し訳ないと言う事と彼女にも良く判らないらしいと言う事だった。

 どちらにしても、佳苗にはこの場から動かない方が良いと言う事が言いたかった様だ。帰るのも阻止されると言うのは普段ならば状況によって考えるが、かと言って今の状況が本当に大丈夫かと言われると……判断のしようがない。


「ええ、ええ……せいぜい(たか)らせていただきますよ……無職なめんなよぉですよお」


 笑いが交じるのは、佳苗にとって明石の恋人を「嫌っていない」からだ。向こう側からしてみれば目障りなのではないかと言う気がしないでもないが、その辺りについては最初に明石へ発言済みだ。

 もっとも、人とは途中で機嫌の変わる事も普通にあるのだと言う事くらい。

 いかに世間から逃亡上等でいた佳苗としても、想像はつくのだけれど。

 けど、佳苗は人以外の何者でもないのだから言いたいことは言って貰わないと「聞かない」と断言しているし今からでも出来る。


「え……ああ、ちょっとね……いやいや、ちょっとばかり人類扱いされなかった事を思い出しただけですよ」


 本当に、生きると言うのは死なないようにするだけで精いっぱいだ。

続きます。

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