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佳苗は基本的に怒りの沸点が低いですが範囲が狭くて怒りを覚えると深く静かに長く怒ります、これは遺伝です。佳苗の両親も長い間、ずっとそんな感じで怒ってましたが近年は少し様相が変わってきているそうです。

なので、佳苗は仕事をしない派遣会社達の人員に怒っているので配慮が少ないです。彼等の個人より制度の方が問題だとは思いますが、その辺りの裏事情を知らないから知らないままで心の中で呪いも真っ青と言う感じで起こり続けるのは事情を知らせて来ない方が悪いと言う解釈です。

19



 出雲佳苗は、知らず「嘘だ……」と口にしていた己を発見した。

 一瞬だけ我に返り、ささっと周囲を見回すが出ていた声の大きさが非常に小さなものだった為に誰も聞こえてはいなかったのだろう……。

 まだまだ暑い、昼間よりはマシな気温。

 太陽は姿を消したと言うのに、人工の明かりに占領された町は宇宙からでも見えると言う。

 この国は大地としては小さいけれど、代わりに大体大地の形そのままに光を灯す事も出来るのだと胸を張っているかの様だと思った。


 電話が終わった後で、10を超えるメールが届いているのが判った。

 全部同じ人……これから二人で呑み会をしようと言いあっていた、ある意味での理想に近い「お兄ちゃん」と呼びたくなる存在。血を分けた実の兄と比べてみれば、比べる必要はないなと言いたくなる程度の心地よい距離感を保ってくれている人物だ。

 血は水より薄いだの、濃いだの言う話が古来からある様だが。

 とりあえず言える事は、血で血を洗った所で血生臭くてかぴかぴになるだけだろうと佳苗は思う。


「……どうしたものかなあ?」


 頭を抱えた姿を見せるのは、流石に恥ずかしかったので片手で額を押えた。

 頬に手を添えると、最近では虫歯のポーズと言うらしいので何となく恥ずかしさを覚えたからである。


「てか、無駄に細かいよ……彼女からも言わせるって何さ?」


 10数件に一通の割合で、明石の彼女からも『お願い』メールが入りこんでいるのを見ると頭痛が痛い……文法的には間違っているだろうが、正直な所を言えばそんなセリフが出て来る程度に佳苗は頭痛を覚えていた。

 赤の他人である佳苗に、恋人が揃って「一緒に呑んで!」と言って来るくらいなのである……一体、明石はどれだけの迷惑を彼女にかけているのか。それとも、彼女では受け止めきれないくらいのストレスを明石が抱えているのか、そもそも明石の上司は何を考えているのだ。いや、もしかしたら二人の結婚話が進んでいて彼女が作業を円滑に進める為に明石を放り出したくて起こした暴挙なのだろうか?

 等々、およそ考えられる可能性をつらつらと考えて。


「あ、やば……」


 たらりと、佳苗は背筋に汗が走るのを感じた。

 これは物理的な暑さによる汗ではない、どちらかと言えば精神から作用する汗だ。

 何故なら、背筋が一気にぞっと冷えたからだ。


「どうするか……どうにかなるか、どうなるか?」


 口にしてから「馬鹿馬鹿しいこと言っちゃったな」と続けるが、相変わらず周囲の人達に変わりはない様に見える……それでも、何故かと問われれば「判らない」としか言い様がない。

 掛けていた眼鏡をずらしてみれば、世界は一気に変質している事がずらさなくても判ってはいたが、人と言うのは判っていても確かめずにはいられない生き物なのである……悲しい事に。

 加えて、内心で「どうして今日に限ってコンタクトで来なかったんだ、私……!」と内心で悲鳴交じりのセリフツッコミをしていたりもする。

 いかに乱視で光を反射してあまり意味がないとは言っても、それ以外の普通の建築物や人ならば割と普通に見えるのだから、別に仕事でもない限りはコンタクト着用でも問題は……カラオケに行ったら文字が見えない程度である。結構な大問題だ。


「いけない、つい冷静になったわ……」


 冷静になった方が、確かに状況的には好転するかも知れない。手段はともかく、混乱したままでは逃げる時にも逃げられるか判ったものではないのだから冷静さは大事だろう。

 混乱したまま逃げて、うっかりすっ転んで脳天を打ち付けて気絶した揚句。そのまま二度と目覚めませんでした、とか言う間の抜けた状況は流石に御免こうむる。出来れば、その際には足元にバナナの皮でもあってくれれば諦めも着くかも知れないが……どんな喜劇だ、それは?


「今から電話しても出ないだろうなあ……」


 そもそも、先ほど黒いもっふもふの相棒が電話をかけて来たと言う認識をしたものの。実際にはその状況を見ていないのだから電話機のボタンを愛らしくもふにゃふにゃの肉球で押せたのかと言えば「いや、無理だろうそれ」と常識は即座に応える。

 しかし、そうなると佳苗の自宅に知らない一般人が勝手に入り込み電話をかけて来たと言う事になるが……佳苗が知らないのは当然だ。家族にすら合わせていない大事な相棒が知っている相手など、あの「ふしぎなおどりの青年」くらいしか佳苗は知らない。だからと言って、あの青年が勝手に佳苗の家をどうやって調べたのか上がり込むにしても鍵を破壊されれば困る……一応、特殊な鍵なので勝手に入り込むのは難しいだろう。実際にはどうだか知らないが、少なくとも不動産屋のおじさん曰く「サムターンくらいじゃ入れない」と豪語していたから空き巣業界の技術が向上していなければ確率は低い筈だ。


「……いや、もしかして別件。とか?」


 あんな姿で受話器を取ったりオンフックをしたりして、どこでどうやって調べたのか不明な佳苗の電話番号を調べるにも偶然では難しいと言うよりあったら怖い。それならば、逆に「電話機を電話機として使う」と言う所以外に基点を置いてみる。

 つまり……「電話機はともかく、必要なのが電話回線」だったと仮定する場合。

 無から有を作り出せないのは人もそうだが、それ以外の存在もそうだろう。

 必要だったのが相棒(スタート)佳苗(ゴール)であって、繋ぐ為の途中経過が必要なのであれば「電話回線」と言う物理的な繋がりを使えば佳苗がどこに居ても電話機さえ持っていれば連絡を取る事が可能だと言う事になる。


「……これ、なんてホラー?」


 佳苗の予測を裏付けるが如く……思いっきり後押しをしながら、受発信記録は無かった。

 少なくとも、先ほどは佳苗の「自宅から電話が来た」と思っていたわけだが、下手をすればその辺りも記憶改竄(かいざん)とかを疑うべきなのかも知れない。思い切り善意の行動であるが故に、一言二言を物申すのが心の底からきついのだが。

 少なくとも、眼鏡の向こう側の光景から来るアレコレを想像すると超善意から行動だ。

 残念な事と言えば、佳苗の行動は思い切り善意をぶっちぎったものだったと言うだけの話になるのだが。少なくとも、この件を含めた一連の話について確証を得る為の必要なアレコレについて佳苗には知識が無い。

 信用と愛情は別問題だ。


「アレかな……私、何か前世で悪い事でもしたかな? それとも、今頃天中殺なのかな?」


 携帯を見つめながら口にしていれば、もしかしたら周囲に聞かれても不信感は持たれにくいのではないだろうか?

 そんな、己にとって都合の良い願い事を載せながら言葉が出て来るのは……まあ、仕方がないだろう。

 特殊能力でもあれば話は別だろうが、このままの状態ではとてもではないが体に良い環境ではないと断言出来る。しかも、眼鏡がだいぶ役立たずになっている……これには、恐らく佳苗の「意識」が大きくかかわっているのだろうと言う事が誰に説明される事なく「なんとなく」想像がつく。

 今までは特に反応していなかった(気がする)以上は、認識したと同時に脳みそが「対仕様」として処理モードがエクセレント・チェンジしたに違いない……。

 と、そこまで考えてから佳苗は己が酷く混乱状態にあるのだと言う自覚を持った。

 危険すぎる、思考が常に爆走状態なのは今更だが暴走されると手におえない……と我に返ったものの、佳苗の職場の元同僚辺りからすれば「いつもとの違いが判らん」と言われるだろうし、10年以上の繋がりがある知り合いも「いつもそんな感じだけど?」とすげなくされる事が判っている事実に思い至って若干の落ち込みと同時に平静になった。


「……これは、仕方がない。かねえ?」


 困った様に画面を見つめて、連綿と続く『帰っちゃ嫌』攻撃を見て佳苗は覚悟を決めるしかなかった。

 腹をくくったとか、諦めたとか、やけになったとか言う人はいるだろう。

 でも、佳苗は思うのだ。


「そうだ、コンタクト検査しよう」


 何故にそうなる? と思われるかもしれないが、佳苗にしてみれば「あの瞬間」で速攻駆け足ハイヨーでぎりぎり危険区域から逃げられるかも知れない。若干巻き込まれるかも知れない、と言われたのだから。すでに30分程度はしっかり考え込んでいる現在は完全に間に合わないだろう。

 人の意識や認識と言った物が、それらの危険とかかわりがあると言うのであれば。

 同時に、それらを「ある程度」は支配下……は無理でも、接触せずに済むかも知れないと思考を変えてみたのだ。無意味かも知れないし、無駄かも知れない。けれど、やってみる価値はゼロではない。


「人生で、ゼロで終わるって事はあんまりないよなあ……」


 口にしてから、佳苗は地下に入る階段を降りる。

 佳苗の知っている限り、今そこに居た場所からは眼鏡屋さんは知っていてもコンタクト屋は知らなかった。駅の反対方向に行けば、コンタクトレンズを取り扱っている店を二つ三つほど知っていたから降りたに過ぎない。

 加えて、地下にも地上にも沢山の「人」がある。

 地下に入り込んで閉じ込められれば目も当てられないが、現在位置不明な四足歩行なふわふわの相棒は他の人へ起きる被害はないと言う事を言っていた。欠片もないわけではないだろうし、その見分けが着かないのはどうでも良い……ちなみに、この部分はヤケである。

 ならば、「巻き込まれても影響が起きない人達」の中に居れば意識は影響を受けにくいかも知れないと言う打算もある。もし、それでも抑えきれない程度の「推定えげつない存在」がこの街で何かを起こすのであれば、それは結局の所どれだけ佳苗が頑張って逃げた所でそうそうに逃げ切れると言うものでもないだろう。


「終わりがゼロか、始まりがゼロなのか……マイナス0度はマイナスでも無ければ0度でもないと思う……」


 ぶつぶつと口から無軌道に出て来る言葉があるが、小さな声である事や耳に指し入れたイヤホンがおかしなセリフについては放置してくれるだろう。してくれ。と言う気持ちを表層でも隠しつつ、体面的に通り過ぎる人の呟いている言葉なんて普通は全部聞き取れないよ、と佳苗は思いながら突っ切る。

 確かに、その間にいる学生らしい人達、社会人でも若そうな人達、すでに出来上がっている人達の姿を見て何とも思わないと言えば嘘になる。

 それは、佳苗が無職で入手出来るだけの金がなくて、コミュニケーション恐怖症で友達と言う言葉に嫌悪感を持つ程度に信用が無くてて、身内と自分自身だけは「将来は孤独死確実だね」と言ってしまう程度に寂しい人生だから、と言うわけでもない。

 まるで荒唐無稽(こうとうむけい)ではあるが、佳苗は高校の頃に占いをしてもらった事がある。

 通っていた高校で評判の、テレビにも出た事がある占い師で今では生きているかどうか判らないご婦人だ。彼女は喫茶店の名物占い師で小さな焼き菓子の付いた飲み物を一つ頼むと占ってくれる。手相と名前を書かせると言うもの、ついでに水晶玉は使わなかった気もするがタロットカードは使ったかもしれない。

 そこで言われたのが「アンタは平平凡凡な人生を送る」と言うもので、あまりのショックで佳苗は他に何を言われたのか全く思い出せなかった。

 幼稚園の頃から男子にはからかわれて、小学生の時には玩具の様に……元同級生に言わせれば恐らく「からかっていただけ」と言われただろう。だったら変われと言われたら絶対に首肯した者はおるまい、己がされて嫌な事を他人にする様な奴らは全部まとめて(自主規制)な目に合えば良い。中学など所持品の中身を全て出されて鉛筆を折られペンケースを踏みつぶされ、生理用品までぶちまけられた。

 我慢できずに登校拒否を(こじ)らせた佳苗が親に「学校行きたくない、いじめられるから」と言った為に慌てて両親が動き出したから事なきを得た……佳苗は記憶を己の努力で封じているだけで、関わったすべての者達が一族郎党「どうにか」なっても気にもならないし目の前で記憶が弾けて椅子でもあれば米神に叩き付ける自信がある。

 平平凡凡……登校拒否一歩手前まで行きかけた過去が、平平凡凡?

続きます。

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