表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/23

01

あえてサブタイトルを付けるなら「出雲佳苗ってこんな女」と言う感じで。

説明が多いのは基本仕様です。

当分続きます。



 その日、と言うより以前から。

 ある所に、出雲佳苗(いずもかなえ)と言う42歳の女が居たりする。

 女、と言うには少々どころではなく「枯れている」と世間で評されるだろうし。佳苗自身も自分自身で枯れていると思う事はあるし。何より、そのあたりに全く問題があるとは思っていないのだから困ったものである。

 本人的には困っているとは欠片も思っていないのだから、全く持って問題だと思っているのは周囲だけである所が問題なのかも知れない。

 ただし、本人的に言わせれば「子供の頃のイジメ」から起きた「人恐怖症」のせいだと思っているし。それを口にした所で誰に何が出来るとも思っていない事……もし、そんな事を口にすれば周囲から引かれるか善人である自分自身に酔った人物が「そんな人ばかりじゃないよ!」と言って来るだろう事を想像してしまいげんなりした。

 環境が環境だった事も手伝って、佳苗は一般的によくある様に読書家だった。アニメや特撮も見る、世間で言うオタクと言っても良いかも知れない。

 本は読むし、機会があれば映像も見る。手に入ればゲームもするが、だからと言って自分から率先して参加したり購入するものはそこまで多くない。

 なので、今のオンラインで世界のある程度の所と繋がる事の出来る社会は、自称:人恐怖症の佳苗にとってはまさしく都合の良い時代で世界だと言えた。


 こんな事をつらつらと重ねているのもどうかと思われるが、まだまだもう少しおつきあいいただきたい。

 昨年、佳苗は会社を辞めた。

 意外かも知れないが今では幻想とまで言われたバブル崩壊直後に就職活動をしていた佳苗はハローワークで仕事を探したりして、結果的に就職は失敗だった。小さな会社に潜り込んだが、愛想以外は大した仕事も出来なかった10代で美人でもなければスタイルが良いわけでもない、ついでに言えば目端は利いたから相手にとって都合の悪い事を見つけるのがとても得意だった事も理由だろう。これは何十年たっても変わらないし、悪癖だとは思うが本人曰く「こんな人類が一人くらい居てもバチは当たらないと思うんだ。うん」と言う無駄に前向きな性格をしている。

 本人に悪気がない以上、それを行為的に受け入れて利用すれば良いだろうに感情が先に出る人々にとっては鬱陶(うっとう)しい存在なのも仕方がない。もっとも、当の本人にしてみれば流して置かなければ精神が耐えられないからと言う切実な事情があったりするが、そんな事は口に出す必要はないだろうと言う憶測の元で口にはしない。

 言いたい事は口にしなければ判らない? だから何だ、それがどうした、言った所で何かしてくれるとでも? と言う開き直りがあるのも否定はしないだろう。稀にちょこっとネット上で心情を吐露すると10年以上の付き合いがある相手でも冗談にしてあげないと、言い出したこちらが憐れみたくなる程度に申し訳なると言う事が何度かあって、精神に頑丈な扉と鍵をかけたくらいだ。

 結果的に、先に入社した人物が色々あって自分の仕事を行う事になってクビにされた。試用期間だったのだから仕方がないと言えば仕方がないが、己の不器用さに落ち込んだ。

 当時、派遣会社と言うのは正社員として就職した経験が2年以上ある人で無ければ登録出来なかったので佳苗はアルバイトで食いつないだ。実家では良い顔をされなかったが、バブル崩壊以後の経済を思えば無理もないと思われていたのも事実だ。あと一年早く就職していれば……と思われていたが、実際にバブルが崩壊した時に会社が潰れなかったかと言えば保証はない。

 何しろ、それから何年もたってから母親に「あんたは産んだこっちが同情するくらいタイミングの悪い時に生まれたから」と言われて「作ったのはそっちなんだけどな」とは思ったが、父親にも幼い頃に「本当は作るつもりではなかったし、うっかり出来たし、降ろすつもりだった」と言われた事があるので「そう」とだけ答えた程度で済ませた。それは最近の話だが。

 数年たって幾つかのアルバイトを経た佳苗は、決まりが変わってアルバイトでも派遣社員として登録できるようになった。

 それから、何年もたった。佳苗は数年ごとに仕事を変えたが……別に変えたかったと言われればそうでもないが、流れに任せていたと言うのが事実だったりする。


 佳苗が最後に勤めていた長期の会社は、佳苗にとっては都合が良かった。

 大きな会社のグループ会社で、何度も会社名も数年ごとに社長も変わるけれど、正社員ほど縛られていないし遅刻しても誤魔化せた。流石に一か月で貧血を起こして4度ほど会社を休んだ時には嘘をついたわけでもないのに「これ以上はもう庇えない」と言われて、慌てて引っ越しまでした。

 タイミング的にどうかと言う話もあるが、その前後で実家の父親と折り合いが悪くなったりした事も速攻で家を出る決意をした理由である。

 所が、その会社に居て合計5年を過ぎたあたりから会社の縛りがきつくなるのと同時に対人関係が険悪になって行った。詳細は省くが、佳苗にぎりぎり聞こえる範囲で同じ仕事をしている人が別の人とおしゃべりしているのだ。同時に、本人のあずかり知らぬ所で別の人が「あなたの悪口を言ってたよ」と言う話も耳にした。不満があればその場で言えよと思う佳苗にしてみれば、その人物達の笑い声は神経をささくれ立たせるには十分だった。

 仕事の量が進まない事もあって佳苗は何度となく私語を慎むように言うが「周りとコミュニケーションを取っているだけ」だと聞き入れられる事はない。たまに聞こえてくる会話の内容は仕事とは全く関係ない。一人で一生懸命仕事をしている佳苗は、もしかしたら孤独を感じていたのかも知れない。

 実家の両親が離婚の危機に陥った事もあって、本人的には気を使って会社を辞めた。部署を移動すると言う話もあったのだが、このままでは移動した直後に一か月ほど有給休暇を取る羽目になっていたと判断したからだ。それは流石に気が咎めると言う事もあって辞めた。

 その後、佳苗は一か月ほど家出をした父親の事もあって実家に居たのだが。いざ父親が帰って来たら「もう帰って良い」と言われて流石に腹が立った。

 だが、佳苗はそれもそれで良いとばかりに自宅に帰った。悪くなっていたジャガイモが悲しくなったりもしたが、週に一度帰っていた事は悪くなかったと思った。


 その後、佳苗はハローワークに通って三か月試用して辞め。派遣会社に申請しても返事は来ず、かと言って違う仕事の話が来たかと思えば短期仕事のみ。

 年内で生命の危機を感じたので短期仕事をしてみれば、最終直前にインフルエンザで救急車にて運ばれ。年が明けて長期仕事が来たと思えば三か月目に「貴方のせいではないのですが、4月いっぱいで終了なんです」と言われて「なら3月いっぱいで辞めて次の仕事下さい」と言ったのだが、嫌な予感がしたので確認を取った所。

 佳苗の依頼は、捨て置かれていた。

 実際、その後で何度も担当者は「4月までやって下さい」「次の仕事を優先的に探しますから」と言われて「見つかる保証があるんですか?」「それって言うだけで実際にやらなくてもこちらには判りませんよね?」と言う言い合いの中で「でも、貴方が辞めると今後の採用で差し障りがあるんですよね……貴方には関係ないですよね……」「ありませんよ。そもそも、その話ってすでに社内で先月から話題になってるから遅かれ早かれ実行されます。人のせいにしないでください」と喧嘩腰。

 その挙句、3月の契約破棄二日前に上司を連れてきた営業との話をしたが、結果的に話は平行線に終わった。

 嫌味でも何でもなく「貴方たち、何しに来たんですか?」と言う捨て台詞が出たのは当然かも知れない。

 佳苗にしてみれば、その二人は来ても質問に対しての返答や状況の説明などを除けば「はい」「そうです」「申し訳ございません」「仰る通りです」以外のセリフを聞いた覚えが無かったのだから、どこかの舞台女優を目指す長編過ぎて意味不明な漫画を思い出したくらいだ。

 問題は、その次の営業日に会社で「本日で退社します」と言うと身近な人達は辞める辞めないで騒いでいたので知っていたが。チームリーダー以上はその話を知らなかったので大騒ぎになった……人事部に支給品を返却した所、話を聞いていないと言う事で更に大騒ぎになった。

 当の本人は素知らぬ顔で退社したので、その会社がその後でどうなったのかは知らない。


 結果的に、最終日には営業が「仕方ないですよねえ」と言って思い切り不承不承ではあっても辞める事を最終的に認めたのだから佳苗としては円満退社だと思っている。

 何しろ、年間で最も就業率が高いのは3月だ。出来れば2月でも良い。4月に入ったら次の仕事を探すまでに何か月もかかる事は過去の経験から判っているのだ、とてもではないが冗談ではない……ただし、それも派遣会社が次の仕事を真面目に探せばと言う点に置いてだ。

 派遣会社は、佳苗の仕事を探していなかったのだ。4月に入っても全く仕事を探しておらず、紹介する自分達ですら「安くてきつくて残業が激しい」と言う仕事を紹介してきたかと思えば「紹介出来るかも知れない」と言うのだから佳苗で無くても「決まってから連絡しろ」と言いたくなるものである。なので、今現在の佳苗が出来る事があるとすれば、汗が噴き出す暑い日や雨で電車が止まる様な日が通勤時間に重なると鼻で笑う程度だ、これくらいならば佳苗自身が物理的に何かをしているわけではないから犯罪ではないと豪語出来る、と思う程度には罪悪感はない。

 同じ仕事をしていた元同僚に言わせると「それって、向こうが腹いせに仕事を紹介しないって事じゃない?」と言われるほどだ。現場に言っても上の意見と同じとは限らない事は承知していたが、とりあえず「仕事を紹介しないで飼い殺しにするつもりに見えるんですが?」とはっきり言えば、電話の相手は口をそろえて「それはないです」ときっぱり言い切ったので、その点については驚いた位である。しかし、仕事は来ない。なので「お仕事くれないですし、手続きすすめると言って連絡来ませんけど。そちらでは派遣スタッフについてどう言う認識してるんですか?」と言いたくなったので聞いてみれば、とある男性は「ビジネス・パートナーであると認識しています」と爽やかに応えられる。が、「その割に扱い酷くないですか?」と聞けば答えに詰まるので、台本以外のセリフは応用力ないんだなあと。この営業職の部門を七年やっていると言う彼の仕事環境に同情した……過去に電話関係の仕事や請求関係の仕事をした時には、周囲の会話を聞いて知識を仕入れ、台本以外の話でクレーム処理の電話で二度目以降のクレームを起こしたことはないのも、聞かれないから言わないだけで自慢だった。一度目は割とあったが。

 他に何社か登録したが、今もって佳苗には所属会社がない……現在、貯蓄を切り崩して生きている状態だ。佳苗が無職である事を知っているのは実家の母と嫁に行った姉だけだが、本人に危機感があるように見えないので口出しをするのを我慢しているのだろう。

 そう感じているので、佳苗も実母と実姉に関しては強く出られない。


 と、ここまで語って置いて何だが……佳苗は今、当惑していた。

 ついでに言えば、誰か助けてくれと思った。

続きます

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ