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今回からベースアップを計る為に平日連日投稿の予定ですが話数によっては土日更新もあるかも知れません。

ちなみに、前回のラストで佳苗が空腹でピザを食べたいと言っていますが書いている当初にお腹が空いた気がしてピザが食べたかったからです。ちなみに、まだ食べてません。

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 出雲佳苗は、突然だがトラブル体質と言っても良いだろう。

 本人はすこぶる大人しいし騒がしい事を(いと)うし、平和で穏やかに生きられれば不満は少ない……そこで無いと言わない所がどうかと言う気がしないでもない所ではあるのだが。本人に言わせると「自分自身の希望及び認識と、第三者の見地及び認識は別物」だと言うドライな意見が返って来るので、嘘ではないと言う事だそうだ……そんな事、大多数の人は考え付いたとしても口に出ないだろうし、佳苗も聞かれない限りは人に言わないので誰かに聞かれたと言う事なのだろう。


「……だるい」

『どぉしたのぉ? 今日はあんまり美味しくないねぇ?』

「そゆのって、体調にも左右されるのかな?」

『んぅぅぅぅぅぅぅどぅだろうぅぅぅぅぅぅぅ?』

「あんまり暑いと、食欲失せるわ……水風呂入っても良いけど、後で余計に暑くなりそうだし……。

 そう言えばお前さん、暑さ寒さって感じるの?」

『普通は感じないかなぁぁぁぁぁぁ?』


 何年も前……10年以上前の話だ。

 佳苗とて、以前は人と関わる努力をしていた……己の好みの範疇に限られたが。それでも、親は大して文句を口にしなかった。

 それだけ、下手をすれば本屋と図書館と塾以外には引き籠りも同然だったと言うのもあるし。佳苗が学生時代に第三者目線で哀れまれる様な経験をしたからだと言うのもあるが、当の本人は顔に出す事は無かったので周囲には何とも判断が着かなかったのである。

 それでも、学生を終えて世間で働くようになると嫌だとは言わずに首になるまでは一応の努力はしていたのだ。その努力が実っていたのかと問われれば佳苗自身は「相手にはそう見えなったんだろうね」と、何とも冷静な判断が返って来る。本人とて、苦しかったり悔しかったりはしたのだろう。最初のリストラの時には「理由は話したくない」とまで言った事がある……本人にとって「どうでも良い事」に分類するまで数日必要だったのか。それとも、次の仕事でしゃかりきになっていたからなのか本人もあっさり過去のものとする事が出来た様だったが。

 けれど、親としては安い賃金で正社員でもなく働く我が子の事は口にしないだけで心配はしていた。あちこちからお見合いの話がないわけでは無かったが、タイミングを見計らったかの様に親戚筋や親の友人達、佳苗の歳の離れた姉兄の友人達の話を耳にして「佳苗に結婚はして欲しいけど、そもそも恋愛出来るのだろうか?」と言う懸念事項は……ある意味で当たっていた。


「普通じゃない時って、どんな時?」

『この間の奴とかが出たら、普通じゃないかなあ?』

「ああ……んじゃ、あの時もちょっと違ってた?」

『そぅでもないかなぁ?』

「ふうん……」


 人恐怖症。

 はっきりとは言わなかったが、身内でさえ家族でさえその傾向はあった。

 もっとも、それは仕方がないと言えたのかも知れない。佳苗の父は夜間の仕事をしており昼間や帰宅時には家にいない事が多かったし、祖父母は古風な人達なのできつくはないが接する機会はそこまで多くない。母親は家事があるのでつきっきりになれないし、姉兄は年齢が離れているので生活時間が異なった。佳苗は不満を漏らさない代わりに本やテレビの世界を邪魔される事をひどく嫌った。

 そんな佳苗が、他人を受け入れられるかどうかは賭けに近かった。加えて、本人の人生である事や身内や恋人に対しての暴力、殺人事件等がテレビで流れる毎日を見て不安にならないわけにもいかない。

 放置以外に、親には手段が無かった。そこに加えて「こうなってしまった」事に若干の負い目もあったからだ。


 今でこそ市民権を半ば得たようなものだが、当時の同人誌と呼ばれる物体や関わる人達と言うのは良い目で見られる事は決して無かった。どちらかと言えば、本屋に行けば手に入る商業誌でさえそんな事が手放しで許されるのは小学生くらいまでで中学生から徐々に。高校生に入ると芸能雑誌に移行してファッション雑誌に移行される事が望ましいとされる風潮だった。それでも、たまたま偶然佳苗が同人誌即売会と言うものに誘われて出向くようになり、夏と冬の大きなお祭りに出向くようになると内心では複雑だが世論と科学の進歩を見比べて親は一つの段階的に安心し、大多数の意味で不安を覚えた。

 人の想像に現実の化学が追いつく。

 佳苗の母は、そう言う意味では少し変わった思考の持ち主なのかも知れない。ただ、考え込みすぎて実行に移すと言う事を基本的にしないので他の人にはそう言う思考の持ち主に見えないだけだ。なので、これもまた佳苗の恐怖心を増加させた一つである事を知っていても対処出来なかった事を今でも悔やんでいる部分がある。

 ある時、佳苗が「男に告白された」と夕食の席で口にしたことがある。父親は速攻で「結婚式には行かない」と相手の事を何も聞かないで言った。母親は流石に(たしな)めた。佳苗に言わせると告白をされただけでプロポーズされたわけでも無ければ遠距離の相手だ、だから返事もしていないと言う状況で幾ら何でも飛躍(ひやく)するにも程がある。

 結局、佳苗はその相手を振ったそうだ。はっきりと言わなかったが、実を言えばその手の話は若干あり「男には警戒心が激しい」と言われ「女には危機感がない」と言われ混乱をする事もあったそうだ。

 これが、佳苗の人恐怖症に拍車をかけた原因の一つである。

 理解と想像を斜め向こう側に越えた先の事を、幾ら本人の頭の中だけで考えた所で答えが出るわけはない。ついでに言えば、そんな事は佳苗の人生で言われたのは二度だけであり、どちらも趣味の人達と会った時だけで日常で言われる事も職場で言われる事も無かった。それは普通の事ではあるが。

 その為に、佳苗は余程の事がない限り即売会の会場に出向く事も無くなった。出向かなくても世界的に広がった通信機構のおかげで大多数の情報は手に入る。どうしても情報化しなくても、そもそも情報を知らなければ気にする必要もない。ならば、ある程度以上の情報を求めず程々の環境でいれば人と直接関わらなくても死ぬことはない。

 疲労度と人と関わる事で得られる知識を天秤にかけて、疲労度の方が勝っていると判断したからだ。知識欲を少し諦めるだけで心にも体にも休養が得られる……当時は若さはあったが、学ぶ意欲は無かった。ちなみに、今はもっと低い。

 流石に、母親は慌てて「一度でも良いから結婚してくれ」と言えば「何度もしてたまるか」と言われ「せめて孫を見せろ」と言えば「姉兄の孫がいるじゃないか。そこいらの相手と見繕(みつくろ)って来れば怒るでしょうが」と返され。自力では無理だと観念した母は親戚の小母に説得を依頼すると「でもアンタ、親戚の半分は離婚してるわよ?」と(とど)めを刺された。おまけに、今では母親が父親と離婚するしないと言う話にまでなってしまい、それが原因の一つで佳苗は会社を辞めて今に至るので母にしてみれば心配と不安と罪悪感のカタマリだったりする。


「うん、元気だよ……そうそう、だって派遣会社が仕事しないんだよ。

 この間は別の会社に登録しようとしたんだけどさ……」


 佳苗は、学校の成績は良くなかった。はっきり言って、悪かった。

 本人もどうやったら脳みそにこびりつく勉強が出来るかと悩んだ事が常にあったが、結果的に学習塾に行っても身につかなかった事を考えるとやる気が最も不足していたと言うのが最大の理由だと思っている……無意識の領域で、外に出る事と人と関わる事を混合していたからではないかと言う予測は親の為に排除する努力をしていた。何しろ、自宅から数キロの所で通り魔の話が出たり、交通事故で車と壁の間に挟まれたりしていたのだから仕方がない部分はあったのだ……しかも、事故や怪我についてのほとんどを佳苗は隠していたけれど。


「連絡のメールと実際の受付時間が違っててさ……そんな会社信用して良いのか悩むよねえ?

 ああ、うん。じゃあまた」


 だから、佳苗は母親が無駄に心配しているのも知っていた。無駄とか言うと母親は腹を立てるか呆れるかの二択だろうなあと推測したので口にはしないが、佳苗とて現状に不満があるのならば可能な範囲で動こうとする気概はある……確かに、人は怖い。人と関わる事は面倒とか背景とかを考えると面倒臭くて中身をひっくり返したくなるし、可能ならば「お金が無ければ生き残れない社会」である事を考えて、その為の手段を考えると、本当にどうしようもなく「全て」を捨て去りたくなる……だが、それでも佳苗に情が無いわけではない。

 佳苗が生き残る為に、目の前にぶら下げられた「約束」がある限り、佳苗はまだ「楽」になる事は出来ない。なりたいと思う事は何度もあったし、これからも何度もあるだろうし必要だとさえ思うけれど、実行する理由にはならない。捨てられない「情」があるから。そして、期限はそこまで遠くない事も知っている。


「別に……だからって、わけでもないんだけどね……」

『なぁにがぁ?』

「お前さん、今夜は出かけてなくてよいの?」

『うん! たまには、あいつ等もゆっくりしたいだろうぅしぃ?

 ……どうかしたのぉ?』

「親がね、いるんだけど」

『うん……うん?』

「心配かけてるなあって、思って。お前さんを紹介できたら良いのになあって思ったわけですよ」

『……そぉなのぉ?』

「こんなにお前さんは頼りになる素敵な存在だよって、言ってあげたいんだけどね……」


 しかし……恐らく、佳苗が人生でトップクラスに受け入れただろう相手は。

 見た目は佳苗の肩に乗る程度に小さいし、佳苗の体によじ登れる程度に軽い存在だ。おまけに見えるかどうかと言った可能性は限りなくゼロに近いだろう。


「たぶんだけど……父親は素では見えないと思うし感じないと思うんだよね。あの人、どっちかって言うと犬タイプで寝ている間に色々と情報整理するから。だから、昨日と今日と言っている事や考えが変わる事がある。

 母親はねえ……見ないと思うんだよね、感じるのはどうしようもないと思うんだけど」

『あぁ……そぉゆう事かあぁ……』

「そう言う事なんですよ」


 動物の方が感覚的に優れていると言うだけであって、人でも見えたり見えなかったりする事はある。

 ただ、時折いるのだ。見えてるけれど、頭の中でリアルタイム処理をして「そこには何もいないと認識する」と言う人種が。デジタル処理加工でもしてるのかとツッコミを入れたくなる程度に、そう言う「人種」は存在する。

 佳苗にしてみれば、そんなのは大変面倒な生き方だろうにと言う気もするものの。それこそ余計なお節介だろうと判断して口にはしない。苦労して忠告して、あげく恨まれた事が過去に何度もあれば学習能力の低い佳苗でも流石に学ぶ。

 知らなければ無視する事も出来たのに、知らないままでいれば気のせいでいられたのに。

 だが、見えているのも聞こえているのも佳苗のせいではない。見ない様に聞かない様にしている現実を知らせてやるのは、最終的に本人の為だろうとは思う……逃げる事は出来ないのだと佳苗は本気で思っている。

 でも、疲れた。

 幼かった佳苗が「事実」や「現実」と言ったものを口にすると、それが相手の為を思って先の人生の指針となる事が佳苗には「判った」けれど、突き付けられる言動は「片刃」であるが故に佳苗を切り刻む。

 ならば、佳苗が見捨てた所で佳苗自身に問題はないのだから気にする必要はないだろう。

 例え、その「後」でどこの誰に何が起きたとしても。


「お前さんが、別に誰に見られるとか知られるとかして欲しいってわけじゃないんだけどねえ……」

『気にしなくてもぉ、別にいいんじゃないかなあぁ?』

「……ごめん、余計な事だったね」

『うぅん、そぅやって気にして貰えるのもぉ。すぅごく、嬉しいぃよおぉ』

「そう言ってくれると嬉しいけど、これも私自身の自己満足みたいなものだからなあ……罪悪感を少しでも減らしたいが為に気を使ってくれないかとか、そんな事を考えて実行している自分自身が、なんか嫌だわ」

『別にぃ、人の為に使う気ぃなんてないけどぉ?』

続きます。

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