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佳苗の新しい同居相手の形状が固定されていないのは仕様です。

そのうちに固定されるかも知れません……うん、たぶん。

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 出雲佳苗は……気分的に言えば「頭痛が痛い」と言う気分だった。

 今日も派遣会社からは連絡が来ない、すでに求職依頼は嫌味な気分で出している。200件以上の定型お断りが来ている時点で見込みなしと言う風に判断して当然だろう。しかも、全て「社内」の選考であって会社の外に出た話は「1件も無い」のだから、その会社の持っている情報は「胡散臭い」と言われても否定できないだろう。

 ほぼ同じ内容の「新しい仕事」で届くメールが三日後に来たとかが幾つもある。同じ地名の同じ時間帯の同じ仕事内容で違う会社なんて、そうそうポコポコあるのだろうかと嫌味ったらしく言ってやりたい気分だ、その癖、一般的な口コミサイトに見せかけた登録出来ないサイトでは上位の評判だと言うのだから「一思いにやって差し上げるのも、親切と言うもの……ですよ、ねえ?」と怪しい笑みが浮かんでいた姿を鏡で見ないで済んだのは幸運だったと自分自身の事ながら佳苗は思う。

 何しろ、以前に「派遣会社が不特定多数にバラ撒くより確率の高い仕事を選定して募集をかけた方が効率が良いのではないか?」と電話口で提案したところ、電話の向こう側は本当にうっかり口を滑らせたのだろう……「それでは本当に仕事がない」と言った。つまり、無駄にダミー情報を流して登録スタッフが会社から離れるのを防ごうと言う意識に思い至ってしまった。

 それが事実であるのか、それとも勘違いであるのか佳苗は知らないし確かめる気にはなれない。これも、かつて学生時代の関係者と同じ程度への感情にしかならないと理解していたからだ。こんなものが馬鹿みたいに詰め込まれ続ける佳苗に、一体どれだけの希望があると言うのか……。


 まあ、そんな事はどうでも良い。

 例えでも仮にでも無く、もう一つの派遣会社はちょっと「お宅の会社、やる気あるつもりなの?」と状況確認の電話が来た時に言ったきりで一か月以上は連絡が来ないとか、そんな会社ばかりなので真面目に物理的にどうにかしてやろうかと言う「ヤル気」に満ちてしまいそうな、そんな気持ちが吹っ飛んだのは世間的に良かったのか悪かったのか……。

 天中殺と言う言葉を、思わず脳裏に浮かべてしまった。

 確か、今年の神社のおみくじは忠吉で「頑張れば頑張っただけ成果はあるよ!」だった気がするのだが、そのおみくじを神社に返納したのが悪かったのだろうかとさえ思ってしまう。

 ネットからのエントリーだけでは努力が足りないのかと思って、別の会社にわざわざ出向いて来たと言うのにそこもダメだったのだけど、それでも努力は足りませんか……。

 あげく、つい先日など「ふしぎなおどりの青年」と勝ち合ったあげく黒くて毛むくじゃらの四足歩行動物がバックに入っていたと言う責任者を求めたくなる出来事があったばかりだ。


 気分的には、通訳連れてこいと言うべきなのかしら?


 放って置くべきかどうか、物凄く悩んだ。

 悩んで悩んで……結局の所、そこで捨て置けるのならば佳苗の人生はもう少しだけ呼吸のしやすいものだったのではないだろうか?


(やかま)しんですけど」


 恐らく……と佳苗は想像する。

 時間は少し巻き戻り、新しい住人が現れてから数日が過ぎた。

 相変わらず佳苗に来る連絡が無ければ仕事の話は無く、日がな一日引きこもりをしているのもネットと本と動画があれば満足できるインドア派な佳苗にしてみれば「エアコン代が怖い……」と言う事さえ無ければ万歳三唱と言う所だ。近所にネットカフェや漫画喫茶はあるが、その手の店は有料だ。

 図書館と言う手もあるが、パソコンでカタカタと作業をするのに佳苗は結構キータッチが強いのか単に打ち込む分量が多いだけなのか余り人の居る所では喜ばれないだろうと思う程度の配慮は出来る。

 しかも、佳苗はキーボード派なので画面でタッチするタイプは使い慣れなくてイライラする。

 そうなると最終的に、気分を変えたい時は電源が使えるファーストフードかコーヒーショップ、電源を満タンに充電にしてからファミレスと言う事になるが……やはり、どこも有料なので財布の中身が気になる身の上としては回数はどうしても減らす事になる。いかに作業をしていれば気にならないとは言っても、飲み物一杯で数時間を粘ると言うのはどうにも気が引けるのだ。例え、希望の席が店員の目線の届かない場所であるとは言っても御昼どきは近隣の企業戦士の皆様を優先して差し上げるのが親切と言うものだろう……仮に、そこに「無職の私の代わりに社畜の如き泣きながら仕事漬けになって体の痛みと共に雀の涙の報酬を貰うが良いさ」と言う呪いの意識が振り撒かれているとしても、そんなものは相手に気づかれなければ気にする必要はない。

 とは言うものの、いちいちそんな感情に支配されるのもいい加減に疲れるし。どうやら、新たな同居人は佳苗の食べた感情次第で割と機嫌が変わるらしく。そうそうに良くない感情を食させると言うのも気が引ける……ただし、どんな佳苗の感情で機嫌の良し悪しが変わるのか佳苗には見分けがつかないと言う現実があるが。

 それでも、「楽しいです」と言う顔で「苦しいです」と言う気持ちを隠した所で見分けられる気がするので。この新たな同居相手に対しては可能な限り本心を隠さない様に佳苗は努力している。


「……はぁ? 何言ってんの、おばさん?」

「うん、詰まらない事実を戯言(たわごと)的に口にするのならば。相手には基本的に与えられるダメージが存在する事を確認してから実行に移すべきだと思うよ?」


 (はた)から見れば、この状態はおかしいだろう佳苗は思う。

 ただ、問題がどうであるかとかは別なのだ。

 佳苗は、自宅から徒歩15分程度の隣駅にあるアイスクリームショップで小さい三段重ねのアイスクリームに舌鼓を打っていた。たまに食べたくなるが、どうせなら散歩がてらに行こうと思ったからである。

 すっかり生活に慣れて来たらしい同居相手は、食べられない事もないと言う事を最近言い出しては一口ずつ程度ではあるがご相伴にあずかると言う事を覚えた……どうやら、それでもメインの食事は佳苗の「感情」の方になるみたいだが『一口くれる時にね、わくわくぅとかドキドキィとか、そう言う感情が入ってるの!』と嬉しそうに言うので「なるほど、感情は物にも宿るのかあ。付喪神(つくもがみ)みたいなものかなあ」と一つ増えた知識にしみじみと納得していた所。


「君達の詰まらない会話が、すっごく下らないんだよね」

「おま……っ!」


 状況としては、簡単だ。

 佳苗が店内は人が多くて外のかき氷と悩んで、結局小さな三段重ねアイスクリームを外で食べていた時……ちなみに、考えていたのは次に食べるのは何にしようかと言う事だった。毎日外食しているわけではないが、使う時は割とぱっと使い込む事が多いのは人種の問題だろうかと佳苗は言うが、親に言わせると「それ違う」と言われてしまう。

 とにかく、外の一角で沢山の人達が各々座って飲食や休憩を楽しんでいるが。佳苗はおひとり様なので自分自身の座る分だけが確保できればそれで良いのだ、するりと入り込むのは一人分だけならば然程の労力でも無い……佳苗の友人関係が先細りする理由の一つでもある。

 そんな中で、視線を感じたのだ。

 佳苗相手ではない、佳苗より少しずれた位置……佳苗の少し開かれた足の間である。そこに、佳苗の新たな住人が存在するが。本人(?)曰く『普通の人に見られる様な下手くそじゃない』そうだ。逆を言えば「普通ではない人には見える」と言う事になるが、そうなると佳苗も普通カテゴリから排除されるので聞かない様にしている。

 一見すると、人の足の間に視線を向ける若い男性と言う図式が出来上がってしまう……しかも、相手は横に女の子を侍らせているのに全く聞いていない様だ。女の子の方も男を連れて歩いているだけで十分なのか会話が全く成立していないのが笑えるが、同時に悲しい気がする。


「本当、つまらない見世物だよねえ……」


 佳苗は、片耳だけイヤホンを着けて居た。

 コードの先についているのは携帯で、片耳だけなのは途中にマイクが付いているからだ。

 恐らく、これだけでも十分傍目には「携帯で誰かと電話をしている」様に見えるだろうと期待出来る。そもそも、目の前の人物と足元の四足歩行動物が「普通の人には出来ない会話」をしているから両方聞こえる佳苗にしてみれば有難くない事に「喧しい」と叫びたくなる程度に煩い。

 話を聞いてみた所、どうやら佳苗達と同じように「彼」もたまたま偶然に隣の彼女に引きずられて勝ち合ったらしい……しかも、真っ黒くろすけの四足歩行動物に言わせると、あの舌っ足らずな言い方で『君はつまんない生き物だねえ』と馬鹿にしくさった言い方をしていた様だ……それはそれで可愛いと思ってしまうし、実はこちらを発見した即座に殺気を飛ばしてきて『やれやれ……こぉんなに沢山の目がある所で、君は一体何をするつもりなんだい?』とにやりと笑みを浮かべたらしい時には「ちょっとお前、その位置替われ」と言いたくなった。表情が見られなくて大変残念だった。


「何て言うの? 芸が足りない感じ?」


 これは思い切り余計なひと言だろうとは思ったが、佳苗にしてみれば怖い事は怖い感じはするが直接関わっている問題とも言いきれない所がまた他人事と言う感じに思えているのかも知れないと言う気はする。

 もっとも、後にこの一言は余計だったなあと自分自身でも思ってしまうあたり。


「なっ……」

「ちょっとお、なあに? このおばさん……」

「あら、ごめんなさいね? デートの邪魔をしているかしら? 気が付かなかったわ」


 にっこりと微笑む佳苗は、手元のスイッチを押す……ちなみにダミーだ。正確には使える品物だし実際に携帯に繋がってはいるのだが、何しろ通話をしていない。先ほどから通話もしていなければ音楽も流していないのだ。


「残念だけど、ここは密室空間ではないから貴方達がイチャイチャしたいなら……ちょうど目立つそこにホテルがあるんだから。あそこに行ったらどうかしら? 彼氏さんなら、彼女さんにその程度の甲斐性を見せてあげるのが親切ってものよ?

 まあ、言うまでもない余計な事で悪いかも知れないけど」

「な……おまっ……」


 こう言う時、『女の子』と言うのは使い方次第でとても素敵な人種だと佳苗は知っている。

 何しろ、必殺「人の話を聞かない」とか超必殺「己の都合の良い様に解釈する」と言う技を幾つも持っている。しかも、大抵の下心のある男子にはわざとだと判っていても断り切れないのだ……男の(サガ)と言うものである。

 「彼」は普段は滅多に大学に現れないそうだが、資産家のご子息で本人もお金持ち。持っているアイテムも一流のものばかりで特定の彼女は存在せず、その代わりとばかりに食っちゃ捨てとファーストフード並のサイクルで女性を食い物にしているらしい……と言う事をちくちくとツッコミを入れられていた。

 そんな事を言われまくり、けれど横の女性がひっついて離さないのを横目に佳苗は「繋がっていない電話機」を相手にする演技のままで立ち去る事にする……正直、佳苗には見知らぬ彼等に付き合う義理も理由も善意も悪意も好奇心もないのだ。

 故に佳苗はどうやら、先日から新たに同居をし始めた小さな相手は……何度か、そうかな? と思ったが人の心に機敏なのだろう。


『そこで、機敏で済ませちゃうのが「らしい」よねえ』


 嬉しそうに足元で転がるようにじゃれついてくる姿を見ていると、うっかり頬の筋肉が仕事をしてしまうのだが……傍から見れば「何もない空間に対してにやりと笑みを浮かべる中年のおばさん」である……確かに、佳苗は見かけに関して言えば一見そうでもないのだが童顔とは言っても、最近はやっと30後半に見えて来ている以上は気に掛けるべきだろう。

 いや、それ以前の問題だろうが。


「そうかな?」


 マイク付きのイヤホンは、まだ外していない。

 別に無くても会話は出来るけれど、周囲の目を誤魔化すのと同時に「イヤホンから聞こえる」と言う事実があるからだ。おかげで聞こえて良い音とよくない音の区別がついて助かっている気がする。


『普通は、そうは思わないんじゃない?』

「どうだろうねえ? そもそも、私にしてみたら『普通』の基準が判らないからねえ。

 始点と終点はどこにあるのよ? 平均値はどこよ? って言いたくなるから、そう言う意味じゃ他人任せかなあ?」

『なるほどねえ、そう言う見方もあるわけだ?』

「お前が変わりモンだって事は、事実だけどな……!」

「『うわお』」


 言いたくなると言うもので、佳苗は驚いた。

 つい今しがた、一般市民の皆様代表の彼女さんでさえ聞こえていなかった真っ黒いもふもふ四足歩行動物にけちょんけちょんに言い負かされていた「一見すると見目が良いらしい資産家の息子と噂の人物」が、佳苗の二の腕を掴んでいたのである……正直な話。


「熱い、痛い、うざい」

『いやね、煩く言うつもりはないんだけどお……そこでその反応って、どうなのお?』


 足元の真っ黒いもふもふは、どうやら佳苗の反応にとてつもなくご不満そうだ。確かに、自分でも「この反応はないかなあ」と言う気はしないでもない……が、佳苗の「人恐怖症」を接してきて判ってきているだろうにこの反応では、これはこれで佳苗も不満だ。

続きます

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