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09

他所ではどうだか知りませんが、都内では野良犬と言った存在は基本見かけなくなった気がしないでもないです。見分けが着かないだけかも知れません。

野良猫は区別が完全につきません。だって猫は首輪つけていない事も普通にあるから、半野良が多いのかなと思います。

だからか不明ですが、最近は野良鳥が実家方面で……オウムは驚きました。

9



 もう帰って良いかな?

 出雲佳苗は、心の底からそう思った。

 神社には御参りをするべきだろうか……した方が良いかも知れない、でも階段怖い。

 ついでに言えば、目の前の倒れたままで「ふしぎなおどり」をしている人が怖いのは仕方がないし「まだ若そうなのになあ」と思って少しばかり同情めいた視線を向けそうになったのも仕方がない。

 変質者なら、問答無用で通報するべきなのだが……。


「ええと、ついでにコレも要ります?」


 カバンから、更に出したものを差し出す。

 流石に、相手がいぶかしげな顔をした。


「何だって、アンタこんなの持ってるの?」

「ああ……こんな事もあろうかと?」


 流石に変な踊りを倒れたままでしている人に、変な事をしている人に言われるのは無性に……。


「いやいや、普通は持ち歩かないって……これってアレだろ? 熱出した時に貼る奴」

「箱からは出しましたけど、袋からは未開封ですから清潔ですよ?」

「いやそうじゃなくて」

「脇の下とか、肩と首のクロスする位置にはると体温を下げる効果があるんですよ。二枚だけだから、使うなら脇の下のみか首とおでこだけって思ってたから枚数足りるかどうかは知りませんけど」

「……なんで?」

「文句あるなら警察呼びます?」

「いや、だか……!」


 言わんこっちゃない……と言う、本人的にはとても同情的な視線を向けたつもりではあったが……。

 いかんせん、元々の目の作りが釣り目だった事と相手が倒れて見上げている事から。


「……こわっ!」

「じゃ、そう言う事で!」


 睨み付けるつもりはなかったんだけどなあ、と思いながら佳苗は石段を昇り始める。

 先ほどとは違い、ステンレスの手すりには捕まるけれどスタスタと歩くのは「一刻も早く逃げたい」と思ったからだ。

 相手が……思ったよりも顔の作りが今時のイケメンと呼ばれる部類だったからと言うわけではない。自覚がある程度は、佳苗は三次元の美醜(びしゅう)については良し悪しが判らないと思っているからだ。別に判別がつかないのではなく「美形の定義は平均」と言う理論を知って初めて「なるほど」と納得する程度に「好き嫌い」の判別はついても「美醜」については判断が付かないと言う事を中学生の時に気づいた。二次元は尚の事だ。


「あ、ちょ……うごぉっ!」


 すたすたと石段を昇る佳苗が「呼ぶべきだったかな……警察……」とは思ったが、それが相手に聞こえなかったのは、まあ良かったと言うべきだろう。

 本音を言えば、佳苗はバッグの中から二回分の痛み止めを出して差し上げても良いかなあとさえ思った。

 何となくではあるが、彼の行動から「とてつもなく叩きつけられたかの様な打撲」がある気がして。もしかしたらそれは自分が石段から落ちて彼を下敷きにした……下敷きにしたにしては、佳苗はしっかりと日本の足で「降り立った」と言うわけでもなく直立不動だった気がした。

 もし、上から降りたのであれば少なくとも足の関節はクッションの役割を果たす為に曲がっていたり。腕もバランスを取る為に上か横にあっただろう。でも、佳苗は普通に立っていた。

 まるで「一歩も歩いていなかったかの様な」姿で。

 自宅に帰ればシップだってあったが、そこまでは必要がないだろう。

 ペットボトルの水をあげて、ウェットティッシュにお菓子もあげた。ついでに、シートをはがして貼り付けると熱を吸い取ってくれると言うシート二枚組も押し付ける形で上げた……そのお代とばかりに転がりながら「ふしぎなおどり」と感謝以外の言葉をくれて人の|精神値(MP)をガリガリ削ってくれたが。


 まあ、良いと佳苗はお参りをしてから気持ちを切り替える。

 きちんと見たわけではないから判らないし、人を見かけてで判断するのもどうかと思うけれど。

 何かあれば通りすがりの人が大通りの二軒くらい隣にある薬屋に引き渡してくれるか、思い切り不審者として警察に連絡されるか、自力で帰るかの三択になるだろう。

 少なくとも、ただいま求職中で職業安定所(ハローワーク)に行く事も出来ない身の上の佳苗にしてみれば、見掛けから考えると20代……もうちょっと頑張って10代の若者など年齢換算だけならば息子みたいなものだ。

 人生で一人だけ出来た彼氏とはキスさえする事が無かったが、それは単に佳苗が恐らく魂にまで刻まれた人恐怖症のせいだろうと自己分析をする。

 どちらにしても、まともに恋愛やら結婚やらしていたら出来たかも知れない見掛け年齢からして息子でもおかしくない人物が生きる手段は与える事は出来ただろう……会話もしっかりしていたし。憎まれ口ではあるが。


「……疲れた」


 ただ、そう。

 佳苗は、人恐怖症だ。

 普段は「自分自身を(だま)して感じていないと錯覚(さっかく)させている」と言うだけであって、仕事が絡んでいるか以前からの共通の知り合いか、緊急時でもない限りは人と接するのさえ辛いのだ。

 嫌とかではない、嫌悪ではない。

 怖い。

 白か黒かの二択しか選択肢しかない場合、はっきりと言えるのは「怖い」と言う言葉だ。


「……良かった、道があって。

 せっかく……散歩、したのにな……」


 階段の上、まだ一時間も立っていない筈。

 斜陽はすでに姿を消していた、本来ならばもう少しくらい明るい所で見られた筈だった景色。

 でも、すでに人工の明かりが占めている。

 溜息をつく、どうせなら混乱したあげく声を出して逃げれば良かった気がする。

 いや、流石にそれは人としてどうだろうかと落ち着いたら思うのだから行った事は悪い事ではないだろう……中途半端だったのと、危機感が足りないと親を初めとした知り合いには言われるかも知れないが。

 ああいう時は、意識がある事を確かめたら近くの薬局とかそこいらにいるだろう公務員か、それでなくてもご近所に届く程度の大声をあげてしまえば良かったのだ。そうすれば、少なからず誰かは来てくれたかも知れない。

 最悪でも「火事だ!」と叫べば少し前に神社仏閣に謎の液体をかけた人の話があったから、どこかに連絡をしてくれたかも知れない……だが、その場合はさっきの「名前も知らない『ふしぎなおどり』をする青年」が不審人物として扱われる事になる。

 いや、佳苗にとっては十分に不審人物この上ないが。


「上から帰るか、下から帰るか……」


 せっかく、散歩だったけれど。

 帰りは、電車で帰ろう。

 お財布の中身、電子マネーの残高、気になる事は幾つもある。

 先ほどの対応は、あれでベストでは無かった。ベターだろうか? マイナスではないだろう。

 荷物を少しでも提供したのだ、少なくともプラマイゼロと言うのも損した気持ちになる……やはり、救急車くらいは呼ぶべきだっただろうか? 以前、事故を目撃した時は第一発見者として電話で警察を読んだ時は思い切りガン無視してくれたから、きっと今回も……いや、あれは車同士の事故だったからだろうし。今回は万が一でも佳苗の記憶があてにならない時点で彼が「あの女に押しつぶされた」とか言われた日には、証明出来ないだけに一発でアウトだった気がする……。

 などなど考えて、佳苗は地上電車に乗った。

 地下鉄も走っているこの路線は、確かに地下鉄の方が停止する率は少ないけれど乗り換えるのに時間がかかるかお金が余計にかかるかの二択だ。

 でも、地上線ならば……。


『ただいま、信号故障により電車が遅れております。お急ぎの所まことに申し訳ございませんが……』

「うわあ、賭けに負けた……」


 地上線は、安上がりではあるが停止率が異常に高いのだ。

 乗っている人数がいっぱいでは無かったから良かったとは思うが、佳苗はイヤホンを取り出して耳に着けてから携帯を取り出して音楽を流し、wifiルーターの電源を入れてからタブレットを出そうとカバンを開けてから……。


「ひぃ……」


 固まった。

 自分でも薄いと思った声を出して、固まった。

 人間、ここまで体は硬くなるのだなあと頭の中で考えながら、現状を把握出来ない気持ちでいっぱいだった。


「……うわお」


 困った。

 非常に、困った。

 何と言っても、初めての体験だ。

 そう、この驚きは20代の頃に海外旅行で出掛けた両親の留守番を実家でしていた時に新聞を取った所。手の中が妙に冷たいと思って見てみたら新聞紙にヤモリが引っ付いていたので驚きのあまり万歳して新聞紙を飛ばしてしまった時の驚きと同程度の驚きだった。

 ちなみに、そのヤモリかどうかは知らないが三年くらい前にヤモリが実家の門扉に挟まれて干からびていた姿を見た時は気絶しそうになって帰宅した。

 どうでも良い。

 ちなみに、そこまで思い出すのに0.15秒程かかった。

 もしかしなくても、脳みその回転率下がってるのか佳苗が思う程度には驚いた。


「ええと……」

『にぃ』


 カバンの中には、あえて言うのならば「はっきり見えないもの」がいた。

 声もはっきりとは聞こえなかったので、佳苗はかけていたイヤホンを片方だけ外して眼鏡の位置を直すフリをして片目だけ「裸眼」で見た。

 見えた。

 聞こえた。


『にぃ……』


 しかも、なんだか気のせいでなければ「意思疎通」が出来る気がした。

 あいや待たれい、と時代劇と言うか歌舞伎的なセリフが脳裏を走った程度には、佳苗は混乱した。

 が、ここは先ほどより更に状況が悪い。

 いかに人が「多くない」とは言った所で、複数の人がここにはいるし注目を浴びていないだけで誰の目があるとも限らない。

 いやいや待て待て、と佳苗は別の意味で混乱した。

 ここで最初に思ったのが「うわあ……手触りまであるわ」だった辺り、後に考えると佳苗は意外と余裕があった様だ。しかし、次に思ったのが「他に見える人いるかなあ?」と言うわくわく感だったりするから、やはり「ふしぎなおどりの青年」の感性は間違っていなかったと言う事になるのだろう……佳苗も毎年誰かしらに言われるので、その辺りは否定するのは止めて久しいのだが。


「ねぇ……お前さん、いつ入ってたの?」


 そっと、佳苗は指を伸ばした。

 生きた相手だったら電車の中に連れ込んだと言う事でバレると怒られるかも知れない……少なくとも、ペットを同伴する時の規則を破っている事になる。もっとも、自分で連れて来たわけではないので、最悪の時は素知らぬ顔で椅子に座らせるか足元に降ろすかして「他人です、知りません」と全力で回避する必要があるだろうが。

 少なくとも「誰が見えるのか判らない」と言う状態では下手に出すのもどうかと言う気がするし、大っぴらに騒ぎ立てると一人で叫ぶ変な人にされてしまう可能性がある。


「触っても良い?」


 周囲に聞かれない様に声を、可能な限り落として触れる。

 柔らかな毛が、さらさらと指をなでる。

 内心で「すごい手触りだ、暖かい!」と感動にさえ震えていた。

 次第に、眼鏡をかけているのに「相手」の姿がはっきりとしてきた……イヤホンからは『うん』と日本語で聞こえて来て二度びっくりした。

 触れた指に頬を()り寄せて来るのも、ぺろりと舐めて来るのも、ぞくぞくするくらい愛らしさにやられていた。


「んじゃ……うちの子になる? なんてね……」

『いいよ』


 思わず口にしていたわけだが、速攻で帰って来た言葉に佳苗は……。

 今度こそ、佳苗の世界が固まった。

 ただ、佳苗の周りの世界は動きを止めなかったのは当然の様で『出発しまぁす……』と言う声と共に発車のメロディと。

 ついでとばかりに、どこか遠くで何かを叫びまくっている人の声がしたのは。

 聞こえなかった様だ。

続きます。

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