1-5:太古の狼。
……ぜぇ……ぜぇ……(言い表せない疲労感。
=1761字=
先ずは小枝などを踏んで音を立てない様、二人で慎重に接近する。
しかし歩みは速い。
カエデは足を地面に着けない様にする魔法【Air Floating】、ケンは接触面への圧力を減らすスキル【異面積合わせ】を使用している為だ。
お陰ですぐさま敵を視認できる所まで着いた。
隠れる為木の上に飛び上がり、敵の観察を始める。
敵の頭上5m程から、ケンがスキル【審議】を使って敵を確認する。
呻り声を上げながら、三頭の狼の様な獣が茂みの中を闊歩している。
二頭は全身が黒い毛に覆われていて、爪は長く、脚の筋肉は歩く度に強く脈動している。
先頭を大きな足跡を刻みながら歩く、群れの中でも一際巨大なリーダーらしき個体が居る。
体長は5m程だろうか。
黒い体毛に金色の毛が横一文字に入り、リーダーの威厳を際立たせている。
肉食系特有の牙は口から大きくはみ出して伸びている。
《ゲーム上にも居た『太古の狼』だよね。》
《ああ、【審議】の結果もそう出ている。
決まり、だな。狩るぞ。》
相手に気づかれないよう、全職業共通スキル【言霊】を使い、戦闘の是非を決定した。
[グッ!?]
突然『太古の狼』が首を上げ、辺りを見渡し始めた。
《気付かれ始めているな。流石に近付き過ぎたか。
よし、俺が先に右側に飛び出てリーダー格の個体を惹き付ける。
お前は残りの取り巻きを頼む。》
《了解!》
ケンが指を三本立てる。
《いくぞ。》
立てた指を、3、2、1、と畳んでいく。
そして0になった時に、
《Go!》
木の枝を強く蹴り、態と相手の注意を惹く様に飛び出すケン。
[ガゥ!!?]
『太古の狼』は突然眼前に現れた生物に驚く。
一瞬身体を硬直させたかと思うと、呻り声を上げながら対象を見定めようとする。
[グルルルルルル………]
ケンは鈍く光を反射する大剣を前方に構え、地面に着く足裏に力を準備する。
(さて……、コレを使えばどう出るかな。)
ケンはスキル【無力の攻撃】を発動させる。
【無力の攻撃】とは相手に幻覚を見せるスキルだ。
[グ…………ッ、グウウアアアアアアア!!]
「ち、やはり駄目か。」
余り強力なスキルではないので、相手によっては弾かれるのだ。
「まぁこんなスキル使わなくてもいいんだがな。
次はエンチャント系スキルを試すか。」
ケンは大剣を水平になる様、ゆっくりと構え直す。
「【水平の構え】【不動の構え】【無機の構え】、スキル三重解放。」
水平の大剣から青い光が周囲に吹き出し、剣自体が青く光っているかの様だ。
地に着く脚は一切のブレを捨て、身体はまるで息まで止めている様に穏やかだ。
「…………いくぞ!」
不動から一気に加速。
動いた方向はケンから見て右前。
速度は刹那にして人間の限界を超える。
[ガウッ!!?]
太古の狼からは突然として眼前から消え失せたかの様に見えた。
跳躍した衝撃で地面が抉れ、土煙が視界を奪う。
ケンはリーダー個体の周りをグルグルと走りながら取り巻きと引き離す。
引き離しを始めてすぐにカエデが魔法を射ち、取り巻きを惹き付けた。
50m程離したところで、ケンは走るのを止める。
[グゥ、グワアアアアアアアア!!]
「……さて、コレでお前は独りだ。
我が望む姿に変化せよ『Vary』!」
ケンの言に呼応して大剣は瞬く間に粒子へと分解される。
分解された粒子はケンを取り巻くように旋回し、一筋の円を描く
そしてすぐさま粒子は収束し、一つの新たな武器へと『変化』した。
「……『長刀モード』変化完了。」
大剣だった『Vary』は、3m程もある細身の長刀に変わった。
相当の重さであろうその長刀を、ケンは片手で正面に構える。
「やはりこの武器は細身の方が綺麗だな、色が濃い。」
漆黒の剣が青色のベールに覆われて、不気味かつ神秘的な装いを見せる。
[グワアアアア!!!]
余裕を見せるケンに対し、太古の狼が猪突猛進に前足爪を光らせ襲いかかる。
「不利な者は不利である程慎重にいかねばならないと言うのに······所詮は畜生か。」
数瞬、太古の狼の視界からケンが消える。
自分の後ろにケンがいることに気付く頃には、長刀が体内を通りすぎてしまっていた。
一週間後2/20[1-6]公開予定。
いま書き疲れているので恐らく遅れるでしょう。