1-4:移動と遭遇。
今回は少し短め。
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「腹も膨れた事だし、出発するか。」
立ち上がり、服に付いた埃を払いながらケンが言う。
「どっちに向かったら一番いいのかな?」
「……取り敢えず太陽に向かって進もうか、その方が迷いにくい。」
「私としてはその意見に賛成であります!」
「じゃあそう言うことで。」
ふざけて敬礼しているカエデを尻目に、ケンは歩き始めた。
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泉を出発して凡そ二時間ほど。
歩行のスピードを4km/hとすると、8kmほど進んだだろうか。
尤も、獣道でスピードは落ちている為、それよりは少ない。
「中々深い森だ。木々も自然のまま、手入れもされていない。
恐らくこの森は人が余り踏み入ってないな。」
「それはつまり……?」
「一日で森を抜けられるか判らない。」
「ええー……。」
太陽も高度が上がっており、木漏れ日が彼女らを照らす。
高度からして現在10時頃か。
しかし天体の動きが地球からと同じかどうか、判っていない。
彼女らの手には二つの果実が握られている。
果実は赤く艶やかで、林檎の様な外見をしている。
実はこの林檎モドキ、彼女らが通ってきた道すがら採った物だ。
しかし時期の所為か二つしか採れなかったので一つずつとなった。
「…………咽喉渇いたし、この林檎モドキ食べていいかな?」
「二度と食事にありつけなくてもいいと言う覚悟を持って食せ。」
「…………もう少し我慢する。」
林檎モドキを眺めながら項垂れる。
小さな声で「…………食べたい。」と言うのが聞こえる。
「…………なぁ、腹が減ったんじゃなくて咽喉が渇いたんだよな?」
「そうだけど……?」
「魔法で水を出せるのでは?」
「あ…………。」
完全に忘れていたと言わんばかりの顔になるカエデ。
「…………よし! 【water】!」
カエデの指から小さな水柱が迸る。
「でたー!」
「ほらな。」
カエデは指を咥え、ごくごくと咽喉を鳴らして水を飲む。
「…………うんまい!」
「てーれってれー。」
「………………なにそれ?」
「あら?」
「え?」
「…………いや、なんでもない。」
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カエデの水分補給が終わり、それから更に何時間も、変わらない鬱蒼とした木々の中を進んだ。
ケンの予測通り、この森は相当の深さを誇るようだ。
この森について、ケンは幾らか考察していた。
まず先ほど言った通り、樹木の荒れ方や種類の豊富さから、この森には人が余り踏み入っていないと考えた。
しかし出発地点の泉から今まで全くと言っていいほど勾配が無かった。
つまり山岳地帯ではなく、山付近であっても麓だろうと予想できる。
土地が広大に平坦な所には大きな河があるはずだ。
大きな河の近くには街があることが多い。
街があれば人が居る。
ケンはそれを狙っているのだ。
十二時頃、太陽も高々と上がっている。
林檎モドキはその時、昼食代わりに食べてしまった。
コレでもう食料はない。何か見付けなければ空腹で苦しむ事になる。
その時、
「…………ん、……何か聞こえないか?」
「んー?
……聞こえないけど……?」
[…………ゥ………ッウゥ………]
「…あ、聞こえる。」
「人………じゃないな。コレは獣か?」
背に担いでいる大剣に手を掛ける。
大剣はケンに呼応するように鈍く光を奔らせる。
カエデも倣い、腰の刀を抜く。
透き通るような刀身を前方にして構える。
獣らしき声が聞こえたのはケン達の進行方向。
このまま行けば遭遇してしまう。
こちらは風下、臭いで気付かれる事はないだろう。
ケン達がこの状況に素早く適応できるのは、ゲームでも同じだったからだ。
直接臭いや風を肌で感じる事は出来ないが、それに代わる数値が設定されていた。
現実とは違うと思うが、心構えはしっかり出来ている。
「避けるか、戦うか。」
「どれ位の強さなんだろう………。」
「視認できれば確認できるんだが……、近付いてみるか?」
「大丈夫?」
「お前、素早さup系統のスキルあるか?」
「『縮地』ならある。相当強い敵でも逃げ切れる自信あるよ。」
「よし、じゃあ二人で敵に接近、強さを確認後、倒せるようであればそのまま突撃、そうでなければ全力で進行方向右へ走って逃げるぞ。」
「りょーかい。」
二人とも巫山戯ることなく作戦を立てる。
この行動が吉と出るか凶と出るか。
一週間後2/13[1-5]公開。
まだ書けてないので遅れることがあります。