4-5:無知の知に恐れども。
一日遅れて投稿するスタイル(
=1850字=
次の視点も未定。
馬上で夜風を感じながら、王都に向けて疾駆する。
誰の声も聞こえないが、鎧の金属音で多くの兵が周囲に居る事を感じる。
新月の深夜、明かりを消し、行軍の先頭で発せられる特異な魔力のみを目印にして一糸乱れず進む。
(万事は尽くした。後は天命を待つのみ…………か。)
ルークは僅かに不安を残しつつも、馬の速度を緩めない。
考えた所で後の祭りだ。すべきは未来、王都に着いてからの事だ。
(…………しかし未だ腑に落ちない。一体誰が結界を突破したと言うんだ?
アレの魔方陣に触れられるのは王族か、最高位の幹部か。
しかし流石に父上もあの祭壇に人を通す事はないだろうし…………。)
王都の結界は過去の偉人が王宮の奥深くに隠されて設置されたものだ。
大多数には存在すら知られず、所在を知る者など片手で数えられるほどの人数なのだ。
それに加え結界の魔方陣自体にも別種の結界が掛けられている。
ルークが知る限り、誰にも書き換えなどできない筈なのだ。
故にルークは又、瞼で眼に蓋をする。
(可能性が高いのは、物理的な強行突破とは…………。
曰く『不可の内に可を見付けたり』と、かの偉人は書き残したと言えど、この結界に関しては研究の余地もないのだ。
強行突破など可能なのか?
…………いや、既に襲撃されている現状だ、可能かどうかはこの際如何でもいい。後で詳しく調べればいいのだから。
課題は防衛及び国民の混乱を防ぐ事。それができねば他に何ができようか。)
時折プラントから齎される情報によると、戦況は最悪と言っていいほどのモノらしい。
結界以外にも要塞や城壁などはあるのだが、全てがちゃんと機能したにも拘らず突破されたと言う。
敵自体に対しても情報が上がっている。
『容姿は一般的な物が多いが体色や行動がまるで異なる、曰く未発見の亜種のような物しかいない。』
とは近衛軍大将ライト・クラリウスの言だ。
彼には僻地での戦闘経験もある、検眼に申し分はない。
(…………つまりは、誰も経験した事のない戦いを今、彼らは目の当たりにしているのだ。
頼りの結界も突破されたのでは、混乱は相当なものだろう。
如何したものか。)
今現在、ライト・クラリウスからの伝達は途絶えている。
彼に何かあったのか、若しくは伝達する余裕すらない危機的状況か。
どちらにせよ、近衛軍大将がこのような状態であるのならば、王宮本体にまで攻め込まれているか、若しくは人員不足を補う為に前線に出ているかのどちらかだろう。
(…………待て、未経験の戦闘だからと言って何故其処まで壊滅的になる?
例え帝国軍本体が襲おうとも6ヵ月は持ち堪えるだけの兵力と備蓄はある筈だ。
敵は…………何なんだ。)
その後、ライト・クラリウスからの伝達は途絶えたまま、王都一歩手前の丘の上に辿り着いた。
此処は王都へ続く街道で、旅人へ漸くの終着を喜ぶ丘であった。
しかし今、この風景を眼下に収めた者の中に、その喜びを感じた者は居ただろうか。
「これは…………!」
「…………『廃城の纏う衣を裂き流るる血』。」
「殿下! 早く救援に向かわなければ!」
「『尖塔傾き地に染まりけり』…………と。」
「殿下!!」
「…………コレが現実だと?
この業火の海に焼かれた王都が現実の物だと?」
暗闇の中、煌々と浮かび上がる王都の町並み。
それは生活の灯火ではなく、阿寒驚嘆の戦禍であった。
家々は燃え上がり、人々は宙を舞う巨大なモンスターから逃げ惑う。
王都を囲む厚さ3m、高さ10mはある石造りの壁が、いとも容易く破壊され、大穴を開けていた。
惨劇の町並みから眼を離さず、独り言を呟くルークに対して、プラントが声を荒げる。
「何をしておられるか、殿下!
今貴方が絶望すれば此処に居る国民はどうすればよいのですか!」
「…………ああ、そうだな。」
ルークは絶望の中に光明を見出そうと躍起になり、思考が纏まっていなかった。
叱咤により、ふと案が浮かんだ。
それは愚策とも言える物ではあったが、他に手段はなかった。
ルークは息を大きく吸い込み、発動させた魔法に声を乗せた。
「第二から第四大隊は南方より回りこみ突撃、市民の避難を優先しつつ戦え!
第五及び第六大隊は直進し、敵を此方に引き付けよ!
第一大隊は俺に続け!
この戦いの真意は人命救助にあり!
第一に人命を優先し、生き延びる事を是とせよ!」
力強く発せられる王太子の言葉に、戦禍を目の当たりにし、静寂と化していた兵達から徐々に意気込む声が聞こえるようになる。
それは自棄か幻か。
「全軍、突撃!」
剣を掲げ、宣誓するルークが一瞬悲愴な眼をしたのは、気の所為だろうか。
1週間位後9/11(金)[4-6]投稿予定。
今回1日で書いたからって毎回できる訳じゃないよ、うん。




