3-9:興奮の紛失。
日付跨いでしまった。代わりに2連です。
=1585字=
浴場に着いたアリアは、札が自分の以外全て裏になっていることを確認し、脱衣場にいった。
服を全て篭に入れ、お風呂セットだけ持って浴室の引き戸を開けた。
(へぇ、そこそこ広さはあるのか。)
湯気が立ち込める中、先ずは身体を洗おうと言うことで、壁際の鏡の前に座り、お風呂セットからタオルと石鹸を取り出す。
因みにシャンプーはない。
タオルを充分濡らし、泡立てると、それを使いゆっくりと身体を擦り始める。
右腕から洗い始め、左腕、胸ときた所で、はたと気付く。
(……そう言えば今は女だったな。)
女の象徴たる胸まできてアリアは漸く今の現状を理解した。
(大した大きさでないにしても、コレは男として如何なものか。
例え私と言えどもう少し興奮などしても良さそうなものなのに、この平常心ときたら。)
そう気付いた後も変わらず黙々と身体を清めていく。
アリアは今の自分の身体を見て興奮しないのは寧ろ好都合だし、どうでもいいことだ、という結論に至ったようだ。
お手洗いへ行った時にもなんとも思わなかったのだ、そう言うものなのだろう、と言うことらしい。
この調子ではカエデと共に風呂に入ったとしても何も思わないかも知れない。
身体を洗い終え、髪を洗おうとする。
しかし、
(…………む。)
如何せん髪が多い、男だった時とは訳が違う。
水を掛けただけで頭が後ろに引っ張られるほどの重量を感じる。
手でガシガシとしようにも、長すぎる髪が引っかかって動かない。
(確か長い髪の女性が洗う時どうするかを何かの小説で読んだな…………、如何だったか。)
少し考えて思い出せなかったので諦め、取り敢えず手で梳くだけに止める事にした。
風呂から上がってからカエデに聞いてみるつもりだ。
風呂に浸かろうとした時に、思い出した事があった。
(湯に髪を付けるのは良くないだろうな。)
そう思い、髪を纏め上げようとするも、そんな事の経験は無いアリアには方結びや蝶々結びのような方法しか思い浮かばない。
タオルで纏めるには髪が多すぎ、腕で持ち上げ続けるのは現実的ではない。
(…………誰も居ないし、アレでいいか。)
髪を持ったまま風呂に入る。
そのまま奥の方まで行くと、徐に絡まっていた髪から腕を抜く。
しかし、髪は湯の中まで落ちず、空中に留まる。
其処には半透明の白い物体が浮かんでいる。
またもや結界の登場である。
人目が無いからと、腕の代わりに結界を使ったのだ。
アリアは髪を気にせずゆっくりと湯に浸かる。
「ふぅ…………。」
1時間後にカエデが呼びに来るまで、アリアはずっと眼を閉じたままであった。
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「も~、昔からお風呂長いんだがら。
呼びに行かなかったら2時間でも3時間でも入ってるんだから。」
「家の風呂だったら温くなってきたら出るんだがなぁ…………。」
床にぐだぁ~としながらそう呟く。
アリアの風呂上りは何時もこうだ、余り動かずに身体を冷ます。
「…………あ~、そう言えば、1つカエデに聞きたい事があったんだ。」
「何?」
「髪の結び方を教えてくれないか?」
「ああ、髪長いと邪魔になるもんね。
…………お湯に髪つけたりしてないよね?」
「してないよ、結界で持ち上げた。」
「魔力消費量多いんじゃなかったん?」
「小さければそうでもないさ。」
「ふーん…………。
まあいいや、で、髪の結び方が知りたいんだっけ?
初めてならゴムを使うのが簡単なんだけど、買ってないんだよね。
明日買って来る?」
「カエデは要らないのか?」
「必要不可欠って事は無いかな。無くても纏められるし。」
「そうか。」
身体も冷めてきたアリアは、立ち上がるのが億劫なのか、四つん這いの姿勢でベッドに向かう。
ベッドに付くとそのまま布団に潜り込んだ。
「おやすみ、私はもう寝る。」
「そう? おやすみ、電気消すね。」
そう言ってカエデは天井の明かりを消した。
(お風呂上がったらすぐ寝るのも変わらないなぁ…………。)
そう思うカエデであった。




