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誰も知らない勇者紀行。  作者: c/1-0@斜の廃塔。
0:勇者の選別。
3/40

0-3:異世界へは光の間より。

=2084字=

「これで、らすとぉぉぉーっ!」


 彼女の持つ火を纏った剣がドラゴン型の魔物を穿ち、遂に九十九階層の魔物が全て倒された。



「おわったぁぁぁぁ!」


 彼女はやっと終わった闘いに勝利の叫び声を挙げる。


 戦闘開始から終了まで、大凡30分程だっただろうか、今迄のどの階以上に時間が掛かった。



「数が多いと時間が掛かるな。

 でも雑魚ばかりだから無傷でいけたな。」

「無傷でいけたねそうだね! 何で疲れないのよケンは………!」

「……お前、気が付いてないのか?」

「え?」


 彼女はゼーゼー息を吐きながら彼の言葉に疑問を呈する。


「この階に入った時……いや、恐らくこのエリアに入った時からか。

 何か変わった所に気付かないか? と言うか気付いてくれ。」

「うーん……なんかあるかなぁ?」


 彼女は顎に手を当て今までの行動を振り返る。


「あっそうだ! 服が破れる様になってた!」

「他は?」

「やたら疲れる!」

「次。」

「ケンが裏技しまくってた!」

「……それは関係ない。俺は何時もこんな感じだ。」


 彼は呆れた様に呟く。


「じゃあなに?」

「このエリアに入ってから感覚が鋭敏になっている様なんだ。

 簡単に言えば仮想世界がより現実らしくなっている。

 判らないか?」

「…………?」

「……はぁ。」


 彼女は何を言っているのか判らないと言った表情を見せる。



「……仕方ない、ちょっと目を瞑れ。」

「ん、はい。」


 彼女は言われた通りに目を瞑っている。

 血行の良い唇が視線を惹き付ける。


 しかし彼はそんな事には気にも留めず、輪を作った右手を彼女の額に近付ける。


 [べしっ!]


「痛ったぁぁぁ!」


 彼は躊躇無く全力のデコピンを放った。


「なんなの!」


 彼女は赤くなった額に手を当て抗議する。


「痛いか?」

「痛いよ!」

「つまりそう言う事だ。」

「と言いますと?」

「……よし、諦めた。俺はもう何も言わん。」


 彼はヤレヤレと首を振り、百階層への階段に向け歩き出す。


「え、なんだったの結局!」


 



 |

 □□□

 |






 彼らは灯りの無い暗い階段を下りていく。



「お、光が見えたぞ。もう直ぐだ。」


 暗い道の先に出口が見えた。


「ねぇ、さっきの質問ってもしかして、色々な感覚が強くなってる事だったりする?」

「さっきからずっとそう言ってるんだが……。」


 彼は呆れた様な声で言う。


「これってアップデートの影響でしょ?

 感覚リンクかなんかの問題で徐々に慣らしていくからと私は思ってたんだけど。」

「運営の報告にそんな事書いてなかったぞ。

 …………でもそうかも知れないな。」

「じゃあさっきのデコピンされ損じゃん!」

「お前が変な顔するのが悪い。」

「変な顔なんてしてないよ!」






 |

 □□□

 |





 彼らは光の扉、第百層目へと通じる扉の前まで到達した。


 二人は戸惑うことなくその光の中に入っていく。




「わぁ、なんか綺麗な場所だね。」

「さっきまでの階と随分違うな。」


 彼らはそれぞれの感想を述べる。


 この階は、他の階と比べ余りにも狭く、如何見ても戦闘などを想定していない造りであった。

 部屋には六本の光の柱が立っている。

 壁にも多くの光の線が奔っており、まるで部屋全体が光で出来ている様な印象を与える。

 しかしネオン街の様な冷たさではなく、寧ろ心を包む様な温かさを持っている。


 そして中央の椅子に、誰かが座っている。




「…………よくぞ到達しましたね、闘いに身を置く者達よ。」


 その誰かは話し始める、確かな意思を持って。


「あれ、このエリアはボス居ないんだね。」

「そうみたいだな。じゃあイベントは飛ばすか。」


 彼はメニューを開いて話を終わらせようとする。

 だが、


「…………ん? このイベントは飛ばせないのか。」

「本編じゃないのに飛ばせないって珍しいね。」


 本編のストーリーは製作者が如何しても観て貰いたかったのか、一度目は絶対に飛ばせない様になっている。


「貴女方が此処に着た初めての方です。」

「ねぇ初めてなんだって私達!」

「らしいな。」 


 その情報を聞いてとても嬉しそうにする彼女に対し、彼は興味が無さそうに返答する。


「私が望むものは只一つ、貴女方に『勇者』になって貰いたいのです。」

「勇者だと?」


 今度は彼が椅子に座る誰かの話に惹き付けられる。


「選択肢は二つです、YesかNo。」


 椅子に座る誰かは立ち上がって彼らに近付き、両手を前に伸ばし彼らを迎える。


「Yesならこの手を、Noなら後の扉へ。」


 彼らは一縷の迷いも見せず、


「俺は勇者になる。」

「勇者って強そうだし私も!」


 同じ返答をした。


「貴女方は異世界に行く事になります。それでも良いですか。」


 二人は共に頷き、そのままその手をとった。





 その手は確かに温かかった。

 その誰かは確かに存在していた。

 なのに何故だろうか、彼らがその手に触れられたのは一瞬であった。

 その一瞬で彼らの存在はこの部屋から微塵も残さず消え去り、部屋はまるで最初から誰も居なかったかのように静寂となった。




「……有り難う、そして済みませんでした。

 しかし彼らには英雄となる者が必要だったのです。

 私のこの傲慢をどうか、御赦し下さい。」


 何処かから声が響き、部屋の光が揺らぐ。


「彼ら、そして彼女らに幸福のあらんことを。」


 その言葉をきっかけとして、部屋中の光がまるで息を引き取ったかの様に輝きを失った。







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