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誰も知らない勇者紀行。  作者: c/1-0@斜の廃塔。
0:勇者の選別。
2/40

0-2:最深層までの闘い。

=2836字=

 

 扉を抜けた先は、天井が視認出来ない程広々とした、しかし空気の重い大広間だった。

 壁や柱にはこと細かく紋様が彫られているのがその要因の一つだろうか。


 しかし、理由はそれだけではないのだ。


 

「…………来るぞ、準備しろ。」

「りょーかい!」



[ズドォォォォォォォォォォォォンン!!]



 超重量の物体が広間の中心に落下した。

 それにより床の埃と砕けた瓦礫が落下物の周囲を舞い、物体を彼らの視界から遮る。

 にも拘らず。

 


「……最初から人型とは、中々難易度の高い設定だなこれは。」



 このゲームに於いて人型の魔物は、攻撃力防御力俊敏性全てに優れ、基本的に強い事が多い。



「……ヤバくない、これ。レベル1で勝てる人型っていたっけ……!?」


「ふん、この程度のステータスか。」

「え?」

「こいつ、雑魚だな。」


 そう呟きながら、彼はスキルを発動させる。

 彼の足元に円形の波が起こり、周りを包む様に風が廻る。

 足元の波は光を反射しキラキラと輝き、風は彼を護る結界の如く包み込む。


「何それ……、結界術師っぽくないんですけど。」

「結界術師のスキルじゃないからな。」

「……え?」

「先に行く。」



 彼はそう呟くと、敵に向かい駆け出す。





 一歩目は床の強度を確かめる様に軽く。

 二歩目は脚を力強く叩きつけ、髪をはためかせながら身体を前に押し出す。

 三歩目までに速度は最高点に達し、人型に接近する。

 次に足が床に付くよりも先に、虚空より彼の右手に剣が現れる。

 四歩目で彼は自身に掛かっていた前向きのエネルギーを上に向け、凡そ3mはあるかと思われる人型より更に高く跳び上がる。


 人型は彼の速度に追いつけず、目の前から消えた敵を捜し、見当違いの方向に首を向ける。


 彼はその隙に2m程の剣を上に掲げ力を溜める。


 人型はその数瞬後、頭上に彼の存在を確認する。


 彼はその鈍重な動きを見て反抗は不可能だと判断し、重力と共に剣を振り下ろす。

 剣は防御をさせる暇もなく、人型の脳天に到達する。

 衝撃は人型全体に及び、脚は落下時より更に沈む。

 しかし圧倒的エネルギーを蓄積した剣は未だ止まらない。

 剣は残された力で人型の頭、首、そして胴体を通過した。


 剣戟が消える頃には、人型はゆっくりと真ん中から左右に開き床に倒れる。



[ズドォォォォォォォォン!]



 人型は彼の一撃を受け、もう立つ事はない。


 彼のアバターの髪は、キラキラと輝きながら今漸く背に降りてくる。









「……え、あれ?」


 彼女は戸惑っている。

 それも仕方ないだろう。

 彼が飛び出して人型が倒れるまで、僅か3秒強。

 それも倒せないと思っていた敵が、だ。


 今その人型の残骸は構成していた魔力が分解され、光を放ち輝きながら空気中に解けていく。


「……おい、何してるんだ。お前も戦えよ。」

「え、あ、うん。次から頑張る。」


 彼は振り返りながら不満を言う。


 しかし彼女も呆けていた訳ではない。

 寧ろ彼女の方が此処の攻略に熱心だったのだ。

 只、一層目に強敵の人型が居るとは思わず面食らっていただけで。

 その一瞬に彼が一閃してしまったと言う訳だ。

 彼女に非は無い。


「って言うかその剣って片手剣じゃないよね。

 なんで片手で持ててるの?」

「スキルだ、『片手不要』って言う。…………まさか知らないのか?」

「いや、知ってるけど………、それって『狂戦士』のスキルじゃなかった?」

「そうだ。」

「…………? じゃあ何で使えてるん?」


 このゲーム、職業毎に一定Lv.で開放される専用スキルがある。

 それはその職業に就いていないと基本的に使えない。


「って言うかさっきのスキルも違うって言ってたし…………

 もしかしてアレ? チート?」

「元々ゲーム内にある設定だが…………何を言ってるんだお前は?」

「私の知ってる設定にそんなの無いんだけど……。」

「そうか、知らないか。」

「うん、だから教えて?」

「断る。」

「何でよ!?」

「話が長くなりそう、且つ面倒だから。ほら次の層行くぞ。」

「あ、ちょっと!


 …………もう、教えてくれてもイイじゃん……。」



 彼女はショボンと項垂れながら、先に階段を下りていく彼を追いかけていった。




 



 その後、彼女は彼に手柄を取られまいと第二層に着いた途端走り出し、狼の姿をした敵を見事打ち倒した。

 しかし彼は彼女に特に声を掛ける事も無く次の層へ向かってしまう。

 そしてまた彼女は

 『むー!』

 と頬を膨らましつつ追いかける。


 その様な事が度々起こりつつも、仲の良い彼らは最深層の一歩手前、九十九層へ辿り着いた



「此処が九十九層だな。ボスが現れるのは他のエリアの傾向からして次の百層目だろう。」

「百層で終わりのエリアって多いよね。」


 エリアの多くは彼女の言った通り百層、もしくは百部屋で終わるものが多い。

 所によってはその十倍の千層であったり、敵はボス含め数体だが其処までの道筋がまるで迷路の様になっているものもある。

 

「途中からは敵のレベルも高かったからな、後九百一層って事は無いだろう。」

「もしそうだったら私此処の攻略諦める………。」


 彼女は疲れ果てた様に呟く。

 対照的に彼の顔には疲労の色一つ見えない。


「なんでそんな平気そうなの…………。」

「……そんな事よりさっきから何か感じないか?」

「何も感じないけど……? 疲れだけは克明に感じるけどね!」

「それならいいんだが……。」



 彼らが話している内に、今までより更に大きな広間の中心に光の粒子が集まり、多数の魔物となって具現化する。


[ゴアアアアアアアアアアアアアアア!!]

[グオオオオオオオオオオオオオ!!]

「キシャアアアアアアアアアアアアアッ!!!!!」



 魔物の種類は多岐にわたり、第一階の人型や第二階の狼型などもその中には含まれていた。


 魔物等の咆哮は空気を振動させ彼等を威圧する。



「…………やはり何かおかしい。何だこの違和感は……?」

「なんかさ、さっきより魔物が強そうな気がするけど。……それの事?」

「それは如何でも良いんだが…………いや、そうか、そう言う事か。」



 彼は小刀を装備一覧から手に出し、それを自らの指に当てる。


「え、なに?」

「俺の予想が正しければ……。」


 彼は徐に小刀を引く。




「……っ……やはりな。」


 彼の指の切り傷から血が滴り落ちる。



「うわ、なんで血が出るの? もしかしてコレも裏技かなんかなの?」

「違う、そうじゃない。

 お前も顔でも叩いてみろ。この違和感に気付くぞ。」


 彼は自らの服の袖を破り、包帯の様に手際良く指に巻いていく。


「服も破れるとか益々知りたくなってきたんだけど、その技。」

「…………今のお前も出来るぞ。」

「え、ホント!?」


 彼は最後に端と端を結び、応急処置を終える。


 彼女はその間に一枚の服を持ち物一覧から取り出す。

 そして両端を持ち、思い切り引っ張る。


[ビリィ!]


「おお!できたぁ!」


「…………一つ良い事を教えてやろう。」

「なにっ?」

「敵がこっちに向かって駆け始めた。」

「あ……。」



 この九十九階層は他の階の数倍の大きさがあるが、流石にそろそろ魔物らも此方へやってきてしまっている。


「……よし、いくぞ。」

「いーえっさぁー!」


 彼らは同時に駆け出し、魔物の群れへと突撃していった。


 








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