2-3:食卓会議。
WとRを押し間違えて『を→ろ』になる件について。
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二人は宿の近くにあった食事処にいた。
キラキラした瞳でメニューを眺めるカエデ、それをボンヤリ眺めるアリア。
「何食べる?私はもう決めたよ!」
「…………私もそれでいい。」
「それじゃあ面白くないじゃん、一種類しか食べられないし。」
「…………じゃあメニュー貸してくれ、何があるか判らない。」
「あ、そっか。」
メニューを渡されたアリアは、パラパラと適当にめくり即決した。
カエデはトマトのパスタ、アリアは味付けの異なる茸パスタを頼んだ。
「…………でさぁ、これからどうするの?」
「どうするって?」
「色々あるじゃん、ほら冒険者学校行くかとか。」
「そりゃあ行くだろ、冒険者になるんだから。」
『何を言っているんだ?』と言わんばかりの口振りである。
「別に冒険者ならなくても良いじゃん、素材売るだけでも生活できそうだし。」
「それはそうなんだがな…………。」
カエデは冒険者になる必要性を感じないらしい。
確かに、宿代食事代を差し引いても換金した分は未だ残っている。
贅沢しなければ週一で狩に行けば生活に支障は出ないだろう。
「でもな、お金だけあっても生活できないだろ。
なんせ私たちには『常識』がない。」
「『常識』?」
「ああ。未だ数日しかこの世界を渡り歩いてない訳だからな、知らない事の方が多いだろ?」
「そういうことね。でもそれがどうしたの?少しずつ知っていくしかないじゃん。」
「それを短縮する為に、冒険者学校に行くんだよ。」
「…………うん?どういうこと?」
「学校は『社会』だ、常識を知るには良いと思う。」
「成程、現実社会でヘマやらかして捕まるより校則で裁いてもらった方が軽いってことか!」
得意気にとんでもない事を口走るカエデ。
「そこまで言ってない。ただ知り合いや友人を作りやすいと言いたいだけだ。」
勿論アリアに呆れられる。
「なんだ面白くない。」
「もう捕まってしまえ。」
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「あー美味しかった! やっぱり料理ってのは偉大だね!」
「それなら練習してみればどうだ?
お前味噌汁作るのも怪しかっただろ。」
「私は食べ専なので、作るのはアリアに任せた!」
「そんな奴には金輪際なにも作ってやらんぞ。
そもそも一人暮らしする時が来たらどうするんだ?」
「その時はアリアを料理長として雇おう!」
「時給十万な。」
「…………一時間以内に作れるからタダってことかな?」
「とろとろのビーフシチューを作ってやろう。」
「え!いいの!やったぁ!」
「…………はぁ。」
ビーフシチューを真剣に作ると一体何時間かかるか、皆様はご存じであろうか?
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二人はギルド二階の宿屋に帰ってきた。
部屋に入るとすぐ、アリアは何かの準備に取りかかった。
「何してるの?」
「さっき言っていた武器の強化だ。
別段することもないしな、今終わらせておこうと思う。」
「……見てていい?」
「邪魔はするなよ。」
アリアは準備を進める。
「【術式開始】【錬金】【均一化】【特有魔力付加】【脱色】【黒地染色】【分離】【特性強化】【硬度強化】。」
床に置いた『Vary』に掌を向け、複数のスキルを同時に発動させる。
スキルを口ずさむ毎に『Vary』に変化が起きる。
初めの幾つかで『Vary』と『エンセン鉱の脊椎』が融合、かつ原型を留めない程に丸く膨れ上がる。
【特有魔力付加】と口ずさめば、黒い球体は突然白色の薄い膜に覆われる。
そして【脱色】され、すぐさま黒地に染色される。
その後一度黒くなった球体を幾つもの球に【分離】する。
その一つ一つの球個々に強化を施す。
「【融合】【術式終了】。」
「……結構大変なんだね、『錬金術師』も。」
尊敬の眼差しでアリアを見つめる。
「ん、ああ。『錬金術師』だけならもっと簡単なことしかできないぞ。
他の物と組み合わせているから矢鱈と面倒になる。」
「生産系はやってないからどれがどのスキルか判らないや。」
「…………一個もか?」
「『鍛冶屋』はやろうと思ったんだけど……。」
「けど?」
「職業取得の条件見て諦めた。」
「『ハンマー系統の職を五つ取得』、比較的楽だろ。」
「ハンマー使用回数安定のゼロです。私にハンマーは向いてないね。」
「お前まさか未だに剣一筋でやっていたのか……。ある意味尊敬してしまう。」
「ヘヘ♪」
カエデはアリアに誉められて嬉しそうだ。実際は貶してる訳だが。
一週間後4/3[2-4]公開予定。
そろそろ脳内のネタを補完しないと書けなくなりそう。




