表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

節句シリーズ

雨の日の七夕

作者: 雪羅

 今日は7月7日。いわゆる七夕の日だ。織姫と彦星が一年に一度だけ会える、ロマンチックな日。


 わたしはこの日が結構好きだ。星が好きというのもあるけれど、やっぱりロマンを感じるからだと思う。


 だから、わたしは今日の天気が雨であることが不満で、ちょっと大袈裟に嘆いてみせた。


「今日は七夕だというのに、雨とか酷い! 神様ってば、二人をどれだけ会わせたくないんだ!」


「いきなりどうした?」


 答えたのは前の席で本を読んでいたわたしの友達だ。傘を忘れたわたしはともかく、雨の日に教室に居残って本を読むこいつはそうとう物好きだと思う。


「だって、酷いと思わない? 織姫様も彦星様も一年に一度しか会えないんだよ? そんな日にわざわざ雨を降らすこともないじゃない」


「それを言うなら、お前の方が酷いと思うが?」


「なんでよ?」


 思わぬ答えに対して、わたしが素直に疑問符を浮かべ、首を捻ると、友達は読みかけの本をパタンと閉じて、言う。


「考えても見ろ。織姫と彦星が会えるのは一年に一度。で、織姫と彦星、つまりベガとアルタイルは宇宙にあるわけだから、地上の天気は関係ない。つまり、どちらかと言えば、雲に遮られていた方が良いことになる」


「いや、意味わかんないんだけど?」


「じゃあ、質問。お前は恋人と会っているのを誰かに見られたいか?」


 そんなもの答えは決まっている。自慢したがる人もいるかもしれないけど、当然、わたしはそういうタイプではない。


「いや、だけど、それが?」


「出歯亀趣味は良くないってことだよ」


「はい?」


 わたしは意味がわからず、首を傾げる角度を深くする。すると、やつはやれやれとばかりに首を振ってみせる。芝居がかった仕草がちょっとうざい。


「だから、年に一度の逢瀬を俺達が見て邪魔することもないだろ?」


「ふぇ……?」


 わたしは思わず間抜けた声を漏らして、慌てて口を押さえる。これ以上バカにされたくはない。こういうやつであると慣れていても。


「…………」


「なんだよ?」


 口を押さえたまま、じっと見つめると、不思議そうにそんなことを言う。その言葉で驚きから覚めたわたしは、にやける頬を隠さずに言ってやる。


「案外ロマンチストなんだね」


「うるさい」


 短く言って視線を本へと戻したやつの頬はわずかに赤い。どうやら照れているようだ。


「にやにやするな」


 予想もしていなかったやつの新しい一面に、わたしは頬が緩むのを抑えられないのだ。許して欲しい。


「はいはい。わたしが悪かったですー」


 一応謝ってみたが、わたしの頬が緩みっぱなしなのは、やつが不機嫌そうに髪を掻きむしっていることからも間違いない。


「ああ、くそっ。帰るぞ」


「えっ? 傘あるの?」


「どうせ夜まで降ってるんだ。いつ帰ったって一緒だ」


「えー! 濡れるのやなんだけど!」


「なら学校に泊まってろ」


 すげなく言って、教室を出て行くやつの背中をわたしは慌てて追いかけた。


「えっ、ちょ、ちょっと、待っててば!」


 校舎の外に出た辺りでようやく追いついたわたしは、雨降りの空を見上げて、ふと、隣を歩くやつに問いかけた。


「二人は会えたのかな?」


「さあな。伝説だしわからないだろ。だけどーー」


 やつはそこで言葉を切って、わたしと同じように空を見上げた。


「いいんじゃないか? 会ってるってことで。たまには、誰にも見られない雨の日の七夕も悪くないだろ」


「……うん、そうだね。あっ、願い事書いた?」


「書いてない。ガキじゃあるまいし」


 降りしきる雨でびしょ濡れになりながらも、わたしとやつはそんな風に雨の中を歩いて帰った。結果、やつは翌日風を引いて休んだのだけれど。


 その日、家に帰ったわたしは、熱いシャワーを浴びてすぐ、短冊に願い事を書いた。なんとなく、やつと帰っていて思いついたことがあったのだ。


『明日からもあいつと会えますように』


 一年に一度しか会えない二人に何をお願いしているのだと思うし、恥ずかしいけれど、わたしの今年の願い事はこれしかないと思った。


 だから、わたしは書いて、こっそりと隠しておいた。二人は見てくれたらいいな、とは思ったけど。


 毎日は会えない二人だからこそ叶えてくれることを祈って。


 一年に一度しか会えないなんてきっと寂しいと思うから。


 びしょ濡れになったし、星も見えない七夕だったけど、あいつの言うように、雨の日の七夕も悪くない。

後輩とのメールでふと思いついた、単発ネタ。

ぶっちゃけ、日常っぽいものを書いたのは初めて。

突発ネタすぎて、話の流れを考える余裕がなくて、変になった部分多数。

それでも、せっかく七夕なのであげてみた。

まあ、こういう固有名詞なしのキャラを書くのも初めてでいろいろ、至らない部分も多いです。その上、短い。

後、一人称視点も初めて。(笑)

チャレンジのオンパレードですが、30分くらいで仕上げました。(笑)

恋愛っぽい風味を出そうと思ったけど、うまくいかなかった。(´・ω・`)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ