紙ヒコーキ
誰に宛てた訳でもない、手紙を書こう。空を突破る紙ヒコ―キに、小さな旅を。いつか見た、あの映画に似せて。
夕暮れ時の教室。誰もいないここで、私はせっせと手を動かしていた。作り出すのは、小さな紙ヒコ―キ。引き契ったノ―トの最後のペ―ジに、新しい命を吹き込む。
「で―きた」
完成したそれに小さく微笑んで、私は窓を開け放った。冷たい風が、髪を揺らす。その先には、綺麗な赤。これから見えるだろう景色を思い浮かべて、紙ヒコ―キを構えた。
「それっ」
思い切り飛ばした紙ヒコ―キは、空をまっすぐ……。
「……って、ちょっと待って―っ!」
空を突破るはずの紙ヒコ―キは、空に浮かぶことさえなく、地面に直行。私は慌てて鞄を引っ掴むと、教室を出た。
*
裏庭に急いで行くと、丁度教室の窓の下辺りに、見慣れた姿を見つけた。何を、しているのだろう。帰宅部のそいつは、もう既に家に帰ってるはずなのに。
こちらに背を向けているそいつは、小さく肩を震わせて笑っていた。
「……何笑ってんのよ、坂井」
「あれ、佐歩、まだ帰ってなかったの?」
坂井は顔だけこちらに向けて、可笑しそうに笑った。ちらりと見えた坂井の手に、私は思わず叫んでしまった。
「あ―っ!」
その手に握られていたのは、白い紙。紙ヒコ―キだったはずのそれは、綺麗に解体されていて。坂井の笑みの意味が分かって、私は顔を赤くする。
最悪だ。よりによって、坂井なんかに拾われるなんて。一番見られたくなかったヤツなのに。
「これ、佐歩の?」
坂井は尚も笑みを浮かべたまま、手にしている紙をひらひらと揺らした。私は心で、泣き叫ぶ。恥ずかしい。それしか、言葉は出ない。
「アイツが私を見てくれますように?」
「わ―っ! 声出して読むな、バカっ」
「アイツって、誰だよ?」
「知るかっ!」
私は坂井の手から紙を引っ手繰ると、それを鞄の中に突っ込んだ。坂井はつまらなさそうな顔をして、空を見上げる。私も吊られて、顔を上げた。
「……夕焼け、綺麗だね」
「で、アイツって誰なの」
おいおい、ム―ドぶち壊し?
私は心の中で突っ込んで、呆れたようにため息をついた。
「教えろよ。俺とお前の仲だろ」
「どんな仲だよ」
すかさず突っ込んで、また虚しくなった。そう……何の仲でもない。同じクラスというだけで、他に接点は無いし。時々一緒に馬鹿言って、笑ってるけど。……ただ、それだけだし。
「大体私の好きな人なんて、あんたに関係無いでしょ?」
「大アリだね」
え、と顔を上げると、額に鋭い痛みが走った。突然の出来事に、一瞬時が止まったかのように感じた。
「な、な、何すんのよっ!」
額を片手で押さえながら、涙目で坂井を睨んだ。威力があるとは思ってない。
だけど。坂井の表情を見て、私は目を丸くした。
「いい加減気付け、バ―カ」
坂井はそれだけ言うと、私の隣を通り過ぎて行った。状況が上手く掴めなかった私は、暫しそのままの格好で固まる。
……えっと。何がどうなったのでしょう。……。
「って、えぇ―っ!?」
慌てて後ろを振り返るも、そこにはもう坂井の姿は無かった。私はどうしていいのか分からず、口を押さえてその場に座り込む。
夕焼けに染まったのは、きっと私だけじゃない。……と思う。




