↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/55

紙ヒコーキ

 誰に宛てた訳でもない、手紙を書こう。空を突破る紙ヒコ―キに、小さな旅を。いつか見た、あの映画に似せて。


 夕暮れ時の教室。誰もいないここで、私はせっせと手を動かしていた。作り出すのは、小さな紙ヒコ―キ。引き契ったノ―トの最後のペ―ジに、新しい命を吹き込む。


「で―きた」


 完成したそれに小さく微笑んで、私は窓を開け放った。冷たい風が、髪を揺らす。その先には、綺麗な赤。これから見えるだろう景色を思い浮かべて、紙ヒコ―キを構えた。


「それっ」


 思い切り飛ばした紙ヒコ―キは、空をまっすぐ……。


「……って、ちょっと待って―っ!」


 空を突破るはずの紙ヒコ―キは、空に浮かぶことさえなく、地面に直行。私は慌てて鞄を引っ掴むと、教室を出た。


 *


 裏庭に急いで行くと、丁度教室の窓の下辺りに、見慣れた姿を見つけた。何を、しているのだろう。帰宅部のそいつは、もう既に家に帰ってるはずなのに。

 こちらに背を向けているそいつは、小さく肩を震わせて笑っていた。


「……何笑ってんのよ、坂井」

「あれ、佐歩、まだ帰ってなかったの?」


 坂井は顔だけこちらに向けて、可笑しそうに笑った。ちらりと見えた坂井の手に、私は思わず叫んでしまった。


「あ―っ!」


 その手に握られていたのは、白い紙。紙ヒコ―キだったはずのそれは、綺麗に解体されていて。坂井の笑みの意味が分かって、私は顔を赤くする。

 最悪だ。よりによって、坂井なんかに拾われるなんて。一番見られたくなかったヤツなのに。


「これ、佐歩の?」


 坂井は尚も笑みを浮かべたまま、手にしている紙をひらひらと揺らした。私は心で、泣き叫ぶ。恥ずかしい。それしか、言葉は出ない。


「アイツが私を見てくれますように?」

「わ―っ! 声出して読むな、バカっ」

「アイツって、誰だよ?」

「知るかっ!」


 私は坂井の手から紙を引っ手繰ると、それを鞄の中に突っ込んだ。坂井はつまらなさそうな顔をして、空を見上げる。私も吊られて、顔を上げた。


「……夕焼け、綺麗だね」

「で、アイツって誰なの」


 おいおい、ム―ドぶち壊し?

 私は心の中で突っ込んで、呆れたようにため息をついた。


「教えろよ。俺とお前の仲だろ」

「どんな仲だよ」


 すかさず突っ込んで、また虚しくなった。そう……何の仲でもない。同じクラスというだけで、他に接点は無いし。時々一緒に馬鹿言って、笑ってるけど。……ただ、それだけだし。


「大体私の好きな人なんて、あんたに関係無いでしょ?」

「大アリだね」


 え、と顔を上げると、額に鋭い痛みが走った。突然の出来事に、一瞬時が止まったかのように感じた。


「な、な、何すんのよっ!」


 額を片手で押さえながら、涙目で坂井を睨んだ。威力があるとは思ってない。

 だけど。坂井の表情を見て、私は目を丸くした。


「いい加減気付け、バ―カ」


 坂井はそれだけ言うと、私の隣を通り過ぎて行った。状況が上手く掴めなかった私は、暫しそのままの格好で固まる。

 ……えっと。何がどうなったのでしょう。……。


「って、えぇ―っ!?」


 慌てて後ろを振り返るも、そこにはもう坂井の姿は無かった。私はどうしていいのか分からず、口を押さえてその場に座り込む。


 夕焼けに染まったのは、きっと私だけじゃない。……と思う。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。