↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/55

ブルーデイズ

 またあの季節がやってきた。

 今はもう、鬱陶しいだけの季節。数年前まであんなに楽しみにしていたのに、今はもう嘘にしか思えない。何が楽しくて、あんなに待っていたのだろう。何が面白くて、あんなに笑っていたのだろう。

 今のあたしには、全く分からない。もう十年も二十年も昔の話にしか、聞こえない。

 そんな無駄なことを思いつつ、退屈な時間を持て余していた。本当はそんな暇なんてないんだけど。隣に積み上げられた宿題の山がそれを物語っている。でも、手に付かないモノは付かないんだから、仕方ない。夏休み最後の一週間、死に物狂いで課題を仕上げるのが目に見えているが、今は放置しておく。……楽しく無くても、貴重な休みだもの。そんな苦労しか見えないモノに手を伸ばせるほど、あたしはやる気を持っていない。要は仕上がればいいのだから。仕上がれば。


「にしても、暑いわ」

「さっきから、それしか言ってないよ?」


 あたしが寝転ぶ隣で、せっせと課題を仕上げていたアイツが可笑しそうに言った。あたしはそれを無視して、起き上がる。アイツはシャーペンを動かす手を止めない。また一つ、また一つ空白が黒く埋まっていく。


「……良く出来るね、それ」

「そりゃ早く仕上げて、遊びたいし。一緒にやる?」

「うん……ちょっとだけ」


 あたしはアイツの正面に座って、宿題の山から一冊の問題集を引き出した。なるべく簡単な課題が出るよう祈りつつ。でも、そんな甘いことを許して貰える訳も無く。


「うわっ、数学だよ」


 見事に地獄の入口に来てしまった。よりによって一番分からない数学とは……確実にあたしに喧嘩を売っている。


「そういや数学苦手だったよな。教えてやるから、頑張れ」


 何でも知っているような口を叩いて、何だか苛ついてくる。確かに苦手だけど、そうはっきり言われたらやる気が削がれるじゃん。てか、何でそんな偉そうなのよ。


「手、全く動いてないよ?」

「……っ!今考えてるのっ」

「へぇ……ってそれ、去年やったヤツじゃん。もう忘れた?」

「先週の授業さえ覚えてないヤツに聞かないでよ」

「あっそ。そこはさ……」


 アイツはご丁寧にあたしの隣まで移動してきて、その問題の解説を始めた。結構分かりやすく説明してくれるから、この時間は好きなんだけど。……近い。近過ぎて、暑苦しい。もうちょっと離れてくれないかな、と思ってしまう。


「……って聞いてる?」

「聞いてない」

「折角説明してるのに、聞けよ」


 んー、とやる気のない返事をすると、可笑しそうにアイツは笑った。そして、手が伸びてくる。


「……勉強できないんだけど」

「いいじゃん、少しくらい」


 アイツはあたしの肩口に顔を埋めた。アイツの髪が首筋に振れて、痛い。その上、そこだけ無駄に暑くなる。


「暑いんだけど」

「大丈夫、大丈夫」


 そう言って、腕に力を込めた。必然的にあたしはアイツの体と引っ付く。冬なら大歓迎だけど、今は鬱陶しい。暑い、溶けそうなくらい暑い。だけど。後少しと願ってしまう。でも、その願いは儚く消えていき。アイツはあたしを解放した。二人の間に、涼しい風が流れる。


「さて、課題さっさと終わらせよっか」

「ん」


 あたしとアイツの距離は元通り。机の向こう側にアイツがいて、こちら側にあたしがいる。そんな微妙な距離が切なくて。手を止めたまま、アイツの後ろに見える青空を見つめた。


 またあの季節が少しずつ過ぎていく。

 鬱陶しくて、暑くて、蒸されそうで、地獄のような宿題が現れるこの季節があたしは嫌い。でも、思っているよりは好きかもしれない。

 ……アイツが甘えるような仕草を見せるから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。