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カラフル関係。

 ず―っとこのまま、四人で笑っていられるって、思ってた。

 友達以上恋人未満、なんて言葉が、私たちにはぴったりで。

 これ以上の進展なんて、いらなかった。

 ……それなのに、こんなことになるなんて。


「俺、お前が好きだっ」


 二日前、何かと笑わせてくれる山吹くんに。


「私、山吹が好きなの」


 昨日、何かと引っ付き回る一番の親友のスイに。

 ……そして、今日。


「俺、スイちゃんが好きなんだよね」


 私が密かに思っていた人……蒼平くんに。

 気付いてしまった、私たちの単純なようで、単純じゃない関係。

 絶対に交わることのない、三角関係ならぬ、四角関係だなんてっ!

 神様、少し非情過ぎませんか?


 *


「聞いてくれてるの、紅花ちゃん」

「聞いてます―っ」


 呆れたようにため息をつく蒼平くんに、私は顔を引きつらせた。

 本当にため息をつきたいのは、そっちじゃなくてこっちだ。

 ただでさえ、ショックで挫けそうなのに。


「俺、泣いていい?」


 泣きたいのもこっちです。

 涙が思わず零れそうになる。

 色んな意味で、辛い。

 涙を堪えつつ、私は蒼平くんに尋ねた。


「で、なんで私に言うのかな」

「協力してよ。スイちゃんと仲良いじゃん」

「蒼平くんも仲良いじゃない。山吹くんもいるし……わざわざ私に」

「男に相談しても、仕方ないだろ。特に山吹なんて、恋愛疎いし」


 その疎い山吹くんが、一昨日私に告白してきたことを、蒼平くんに教えてもいいでしょうか。

 少なくとも蒼平くんよりは、山吹くんの方が上にいる気がするけど。

 相談とかしなかったようだし。

 言っちゃ……いけないんだろうなぁ。

 うん。


「本当に俺を泣かせたいんだね、紅花ちゃんは」

「……もういい。蒼平くんなんて、一人で寂しく泣いてればいいんだ」

「何、拗ねてんの」


 蒼平くんは困ったように笑うと、ポケットから飴を取り出した。

 いちごミルク味。

 差し出してくるけど、受け取りにくい。

 だって味が味なんだもん。

 私より、スイが好きそう……って、スイが好きだから、か。

 渡せなかった分が、私に回ってきた……と。


「どーぞ」

「何」

「あげるから、機嫌直して?」


 目の前で、薄桃の包みがゆらゆらと揺れる。

 その奥で、大好きな人の笑顔がちらちらと映る。


「……―っ! いらないっ」

「え―、おいしいのに」


 ちょっとだけ寂しそうな顔をして、蒼平くんは飴をポケットにしまった。

 私から目を離したかと思うと、突然立ち上がる。

 蒼平くんの視線の先には、呼び出しから戻ってきたスイと山吹くんの姿があった。


「用事、終わった?」

「蒼平、聞いてよ―。山吹ったらね……」

「はぁ? 俺は何もしてないだろ―が」


 離れた場所で湧き上がる笑い声に、胸が苦しくなる。

 三人の恋。

 私はどの恋を応援して、どの恋に協力すればいいんだろう。


「紅花、帰ろっ」


 スイの笑顔を見て、私は渋々重たい腰を持ち上げた。

 仕方ない、か。

 取り敢えず、今日はスイが幸せそうだから、よしとしよう。


 *


 明日、また考え直せばいいや。

 丁度休みで、予定も入ってないし。

 そんなことを考えながら、前を歩く三人の背中を見つめていた。

 背の高い蒼平くんと山吹くんの間に、小さなスイ。

 そして、スイは当然のように、山吹くんの腕に自分のを絡めている。

 山吹くんは、心配そうに何時かこちらを振り返っていたけど、その度にスイが遮っていた。

 ……こっちに来ようとしてる努力は、ちゃんと認めてます。

 にしても、面白いなぁ。

 そんなことを考えていると、今度はスイと蒼平くんまで振り返った。


「紅花、明日暇だよね?」

「遊園地行こうよ。四人分のタダ券貰ったんだ」


 ……協力してくれるよね?

 つ―か、するよね?

 友達だもんね?

 言外にそう言われたような気がするのは、気のせいだろうか。

 ははは、二人の笑顔が怖いや。


「行くよね?」

「紅花ちゃん?」

「行かないとか、言うなよ」

「行きます、行けばいいんでしょっ」


 なんでこんなに苛々しなきゃいけないのよ。

 どうして、この三人は私の気持ちに気付かないのかな。

 自分たちの微妙な関係にすら気付けてないから、仕方ないと言えば、仕方ないかもしれないけど。

 私も気付けないかもしれないけど……でも。


「スイちゃん。この前、紅花ちゃんと一緒に買ってた、白のワンピース着てきなよ」

「え―、どうしよっかな。山吹はどう思う? 可愛いかな」

「紅花もそれ着て来いよ!」


 この会話が噛み合ってない気がするのは、私だけでしょうか。

 前から、こんな違和感たっぷりだったっけなぁ……。

 私も結構疎いらしいから、気付けなかった。

 今思うと、本当に謎だ。


「紅花、どうかしたか?」


 黙り込んでしまった私を、心配そうに見てくる山吹くん。


「山吹、聞いてくれてる?」


 なかなか返事をくれない山吹の袖を、不機嫌そうに引っ張るスイ。


「可愛いと思うよ? 山吹に聞いても、疎過ぎるからダメだって」


 山吹くんの代わりに答えて、しれっと嫌味も言ってる蒼平くん。


「蒼平の方が疎いだろ―がっ」

「山吹っ! 可愛いの、可愛くないの!?」

「あ―もうっ。私、こっちに用事あるから、じゃ―ねっ!」


 さすがにもう、仲良いとか、好きな人とか、告白とか、協力とか、どうでもよくなって、私は逃げるように、近くにあった曲がり角を曲がった。

 ……ちゃんと帰れるのかな、私。


 予想通りというか何というか。

 家に着いた頃には、日も沈み切っていた。

 道に迷わなかっただけ、よかったかも。

 思い切り遠回りだった。あの道は二度と曲がりたくない。

 今頃、スイも蒼平くんも明日の服を選んでるんだろうな。

 いつもより遅い時を指す時計を見ながら、ふと思った。

 山吹くんも、私なんかのために、おしゃれ……しないよね。

 されても困る……と思うのは、失礼かもしれないけど。

 重たいじゃん、なんか。

 ただでさえ、三つも荷物を背負わされてるのに。


「ワンピースねぇ……」


 山吹くんにあぁは言われたものの、着て行くつもりはなかった。

 というか、着たくない。

 ……だって、蒼平くんはスイに言ったんだよ。

 似合ってるって、可愛いって。


「……諦めた方が、いいのかなぁ」


 大きくついたため息は、誰にも届かない。


 *


 いっそのこと、雨が降ったらよかったのに。

 そんな思いも叶わず、頭上に真っ青な空が広がっている。

 天気まで、私を見放したらしい。

 ……もう、どうでもいいけど。

 集合場所、遊園地前。

 私は例のワンピースに身を包んで、三人を待っていた。

 本日何度目かのため息をつく。

 ……重過ぎるのよ、今日一日が。

 幸い三人はまだ来る気配がないので、心置きなくため息をつきまくっていた。

 端から見たら、結構痛い子だよな、私。

 遊園地の入口にある時計は、十時半を指そうとしている。

 メ―ルで十時集合って回ってきたのに、誰も来ない。

 ……遊園地、間違えたかな。

 でも、ここしか近場はないし。

 違うなら、駅前集合だろうし。


「あ、紅花ちゃん」


 顔を上げると、蒼平くんが手を振りながら、駆け寄ってくるのが見えた。

 見慣れたはずの蒼平くんの私服。

 なのに、やっぱりドキドキしてしまう。

 諦めるなんて、出来ないのかも。


「ごめん、待ったよね?」

「ううん。まだ二人も来てないし」

「あぁ、二人には十一時に来てって言ったから」


 へぇ、だからいくら待っても、来なかったんだ……って。


「な、ちょ、へっ!?」

「俺だけじゃ、ダメだろ」

「な、何が?」

「恋愛相談。お互いにしなくちゃなって」


 照れたように笑う蒼平くん。

 それが蒼平くんの優しさなんだろうけど。

 やっぱり痛過ぎるよ、うん。


「紅花ちゃんは、好きな奴いるの?」


 普通に聞かれた。

 だから、普通に答えなきゃ。

 そう思うけど、言葉が出てこない。

 言うべきことは一つなのに、それがなかなか言えない。


「紅花ちゃん?」

「あ、うん。好きな人は……いないよ。うん、いない」

「……そっか」


 嘘じゃない。

 好きじゃなくなる予定だもん。

 嘘、なんかじゃない。

 そう自分に言い聞かせて、ごめんね、と謝った。


「いや、いないんなら仕方ないよ。出来たら、教えて? ちゃんと協力するから」

「うん……ありがと。そろそろスイたちも来るかなぁ」


 時計を見ると、もう少しで十一時。

 遠くに、二人の姿が見えたような気がした。


「着いたんだから、離せよっ」

「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」

「減るっ、色んなもんが減りまくる!」


 べったり引っ付くスイに、山吹くんはタジタジだった。

 視線で必死に助けを求めてくる。

 助けてあげたいけど、スイの気持ちを考えると、下手に出ていけない。

 そこが難しいとこだよね……この関係って。

 山吹くんには悪いけど、ここは見捨てることに決めた。


「仲良いよな、あいつら」

「……だね―」


 仲が良いにしては、ちょっと度が過ぎてる気がするんですが。

 気付いていないフリをしてるだけだろうけど。


「辛い? やっぱ」

「ん? ……あ―、まぁちょっとだけ」


 少しだけ落ちた声のトーンに、胸が苦しくなる。

 聞かなきゃよかった。

 あんなこと。

 なんてこと、言っていられる立場でもないんだけど。


「お化け屋敷行こ―っ」

「はぁ? お前、一人で行けよ」

「何言ってんの。アンタに拒否権なんかありませ―ん。ほら、さっさと歩くっ」

「ちょっ、紅花―!」

「紅花に迷惑掛けないの―」

「お前が一番迷惑だよっ」


 無惨に引き摺られていく山吹くんを哀れに思いながら、私と蒼平くんもゆっくり歩き出した。


 県内一怖いお化け屋敷。

 範囲狭いな、と突っ込みながら、私たちは古びた建物に入った。

 薄暗い建物の奥から、叫び声が響く。

 こことぞばかりに密着するスイに、山吹くんもとうとう諦めたようで、大人しく引っ付かれている。


「じゃ、先に行ってるね」

「え、四人で行かないの?」


 協力してくれるよね? とスイの顔に書いてある。

 きょとん、としたように蒼平くんが見てくる。

 疲れ切った山吹くんの背中が、何故か痛々しく見える。


「あぁ、俺ら、後から行くから。お先にど―ぞ」

「ありがとっ。山吹、行こっ」

「……」


 返事する余力もないらしい。

 やっぱり可哀相だけど、山吹くんの犠牲って結構大きいんだよな。

 ……うん、ごめんね。

 後でちゃんと謝っとこ。



 二人の姿が闇に消えてから暫くした後、私たちも出発することにした。


「なんか、ごめんなさい」

「何が?」

「協力、出来なくて」


 スイの協力は出来ていると思う。

 でもそうなると、蒼平くんの協力は、出来てないことになる。

 それがちょっぴり苦しかった。


「仕方ないでしょ。紅花ちゃんに、そこまで求めてないし」

「でも、全然」

「ほら、行こ? ……もしかして、怖い?」

「怖くないですっ」


 からかわれて、一気に顔が熱くなる。

 ほてった顔を見られないように、私は早足で、奥へと進んだ。



「遅かったね、紅花たち」

「あ―、紅花ちゃん、途中で腰抜かしちゃったから」

「抜かしてないもんっ」


 十五分で出れるはずのお化け屋敷を、倍の三十分掛けて、私たちは出てきた。

 出口には、待ちくたびれた二人の姿。

 相変わらず二人の距離は、無いに等しい。


「なぁ、疲れたし、先に昼飯食わねぇ?」

「うん、いいね! と、その前に、紅花」

「な、何」

「話があるから、ちょっと来て」


 スイは私の手を取って、二人から離れようとした。

 離れられなかったけど。

 ……山吹くんの手が、私の腕を掴んだから。


「俺も話がある」

「じゃ、俺も―」


 蒼平くんには、肩に提げてた鞄を掴まれた。

 ……はい、今どんな状況?


「私が先に言ったんだから、アンタたちは後でしょ」

「譲れよ。お化け屋敷、付き合ってやったんだから」

「間を取って、俺とか」

「……ここで、一度に言ってくれた方が楽なんだけど」


 大体言われそうなことは、検討ついてるし。

 蒼平くんの話は、全く分からないけど。

 話すようなことは……ないはずだし。

 あったらあったで、お化け屋敷の中で言っただろうし。


「言えないような話なの?」

「そんなんじゃないけど」

「せ―の、で言うか!」

「……その『一度』じゃないでしょ」

「いいじゃん、それで。ね、紅花」


 頷くと、三人は一斉に私から手を離した。

 一呼吸置いてから、視線が集まってくる。

 何というか、聖徳太子の気分だよね、これ。


「どうぞ?」

「じゃ、せ―のっ」


 顔まで近付けてきた三人に、私は身を堅くしながら、耳を澄ませた。


「告白するっ」

「返事しろっ」

「協力してっ」


 ……見事にバラバラ、か。

 予想通りといえば、予想通りだけど。

 返事って……すっかり忘れてたし。

 仮に覚えてたとしても、そんな場合じゃなかった。

 ……断った方がいいかなって、スイから相談受けた時は思ったけど。

 ちょこっと。


「返事って、何の返事? 紅花に何かしたの?」

「な、何もしてねぇよっ。蒼平こそ、協力って何だよ」

「山吹には関係ない。それより、スイは誰に告白するの?」

「誰でもいいでしょ。蒼平に言うほどじゃない」

「あの―……ねぇ」


 ちょっと失敗だった?

 完全に蚊帳の外の私は、その光景を見ているだけしか出来なかった。

 三人が三人とも、私のこと忘れてる気がする。

 ……今帰ってもバレなさそう、と思った瞬間、再び三人の視線が私に集まった。


「どういうことっ!?」


 ……泣いていいですか、神様。


 *


 気まずい雰囲気の中、昼食を取った後、乗り物も乗らずに歩き回っていた。

 デートを目論んでた三人は、後ろで何やら話し込んでいる。

 ……昨日の帰りと、正反対だ。


「これから、どうする?」

「どうするって、スイが決めろよ」

「私が? なんで?」


 明らかに嫌そうな声。

 それもそうだろう。

 デート失敗だもん。

 機嫌がいい訳もない。

 一番スイが楽しみにしてたし。


「俺、慰めてくる」

「山吹が慰めても、逆に怒らせるだけ」

「そうよ。これ以上、紅花を怒らせてどうすんのよ」


 誰も怒ってないし、慰められる必要もないんだけどな。

 どうして、こうなったんだろう。



 あの後、私は何も答えなかった。

 答えたら、何かが終わりそうな気がして。

 四人が離れてしまいそうで、言えなかった。

 あれから何も話さない私に、三人ともが怒ったと判断したのだろう。

 それで、今に至る。

 後ろであ―だこ―だ言い合っているのを暫く聞いている内に、人通りの少ない場所に出た。

 結構奥地まで来てしまったようだ。

 足を止めて振り返ると、三人ともビクッとして、体を強張らせた。

 距離は、数メ―トル。

 恋を諦めようとした私と、頑張っていた三人との距離も、もしかしたらこんな感じだったのかもしれない。


「一つ、提案があるんだけど」


 そう言って、微笑んでみる。

 三人それぞれが不思議そうな、かつ複雑な表情を浮かべた。


「告白大会、なんてしてみない?」


 私もするから。

 心の中で小さく付け加えた。

 私にとっても、三人の微妙な雰囲気にとっても、それが一番最適だと思う。

 もし、四人が強い関係なら、私たちはここで終わらない。

 それぞれの恋が叶わないのは、知ってる。

 失恋に耐えられないなら、それだけの関係だったってこと。


「俺は、いいよ」


 蒼平くんが一番に言ってくれた。

 でも、後がなかなか続かない。

 暫く沈黙が流れて、私は戸惑いが出てきた。

 ……結局は怖いんだ、四人が四人じゃなくなることが。

 失恋なんかよりも。


「私も……するつもりだったし」

「俺だって、何回でもやるし!」


 表情を堅くしたまま、二人も頷いた。

 内心ほっとしながら、私も頷いた。

 深呼吸を一つして、口を開く。


「じゃ、せ―の、で行くよ? ……せ―のっ」


「俺、スイが好きだよ」

「私、山吹が好き」

「俺、紅花が好きだ!」

「私は……蒼平くんが好きです」


 一瞬の間が空いて、突然スイが笑い始めた。

 それを見て、抑え切れなくなったかのように、蒼平くんも笑い出す。

 遅れて、私と山吹くんも苦い笑いを浮かべた。


「ちょっと、それどうなのっ?」

「協力なんて、出来ないじゃん」

「うっわ―……蒼平に負けたし!」


 山吹くんは、頭を抱えて座り込んでしまった。


「残念だね、山吹」

「うるせ―、黙れ。バカ蒼平」


 何がおかしかったのか、蒼平くんは腹を抱えて笑っている。

 スイと目が合って、二人で苦笑いした。


「四角関係って、ホントついてないね、私たち。……ごめんね、色々と」

「ううん。私こそ、何も出来なかったし……言わなかったから」

「よ―しっ、今から入口にあったゲ―センではしゃぎますか」

「賛成っ! ほら、山吹、さっさと立てよ」

「俺、そんな気分じゃないよ……」

「私……行きたいな、四人で」


 ちょっとしおらしく言ってみたら、蒼平くんが思い切り吹き出した。

 隣でスイも笑いを堪えている。

 ……なんか傷付くな、これ。


「紅花ちゃんが行きたいって言ってんのに、行かないの?」

「行くよっ! お前に言われなくても」


 山吹くんは勢いよく立ち上がると、先に歩いていってしまった。

 その後をスイが慌てて追いかける。

 私は一瞬蒼平くんと目が合った後、何故か気恥ずかしくなって、逃げるようにその場を離れた。


 *


「あ―、あれ欲しい! 山吹、私のために取ってきて?」

「なんで、スイのために取らなきゃなんね―んだよっ」

「紅花ちゃんもいる? 取ってあげるよ」

「本当? 欲しいっ」

「おいっ。紅花のは俺が取るんだよ! 蒼平はスイの分を取れっ」

「紅花は蒼平のがいいの。諦めなさい」

「ちょ、おいっ」


 端から見れば、おかしな四人だろう。

 ゲ―ムセンタ―の音に負けないように、声を張り上げて話すのは、まるで漫才のような会話。

 私は蒼平くんの言葉に驚きつつも、嬉しくてはしゃいでいた。

 それがショックだったんだろう。

 山吹くんはそれから、終始落ち込んでいた。

 スイに連れ回される姿は、何とも言えなかった。


「蒼平はスイが好きなんじゃなかったっけ」

「あ―うん」

「じゃあ、俺の邪魔すんなよ!」


 ゲ―ムセンタ―を出た途端、山吹くんは蒼平くんに文句をつけ始めた。

 スイはというと、山吹くんが仕方なく取ったぬいぐるみを抱き締めて、プリクラが出来るのを待っている。

 私の手にも、蒼平くんと山吹くんが取ったぬいぐるみが二体ある。


「紅花ちゃんは、お前じゃなくて、俺が好きなんだし」

「お前はスイが好きなんだろ―がっ。紅花じゃなくて、スイと一緒にいろよ!」

「紅花ちゃんは俺といた方が楽しいもんな―」

「え、あ、どうだろ……あ、あはは」


 それを私に聞かないでください。

 そりゃ、楽しいかもしれないけど……山吹くんと一緒にいるのも楽しいし。

 四人でいることに慣れてるから、特別これといって楽しいって訳でもない。

 逆に四人でいるから、楽しい気もする。


「ちょっと紅花―、見て見て!」


 出来上がったプリクラを片手に、スイが駆け寄ってくる。

 取り敢えず助かったと思って、私はその場から逃げた。

 蒼平くんまで複雑な表情を見せていたけど。


「どうしたの?」

「紅花もやるじゃんっ」


 スイの言葉に首を傾げながら、プリクラを覗き込む。

 一見普通のプリクラ。

 何が『やる』のかよく分からない。


「お―、綺麗に出来たね」


 蒼平くんも近付いてきて、プリクラを覗き込んだ。

 渋々といった感じで、山吹くんも覗き込む。


「うぎゃ―っ!!」


 覗き込んだ瞬間、山吹くんが叫んで、スイの手からプリクラを引っ手繰った。

 スイと蒼平くんは顔を見合わせて、笑っている。


「何か変なのあった?」

「蒼平、お前……絶対許さねぇっ!」

「ちょっと、山吹くん?」

「紅花、アイツはやめとけ。俺と付き合えとは言わないから、アイツだけはやめとけ」


 いきなり肩を掴まれて、言い聞かせるように揺すられた。

 何がなんだか分からない私は、ただ首を傾げるしか出来ない。


「はいはい、スト―ップ」


 暫く揺すられた後、後ろに引っ張られて、山吹くんの手から逃れられた。

 頭がフラフラする。

 ぼうっとなってると、後ろから首に腕を回された。


「たかが抱き締めたくらいで、ギャ―ギャ―叫ぶことないでしょ」

「叫ぶわっ」

「私もあれくらいして欲しかったなぁ」

「誰がするか―っ!」


 ……抱き締める?

 あぁそう言えば、確かにそんなプリクラも撮った気がする。

 でもそれは、プリクラならではのおふざけで、普通なんじゃ……。


「普通じゃね―よっ」

「う、ごめん……」

「あ―、山吹が紅花いじめてる―」

「ひっど」

「わ―っ! って、蒼平のせいだろうが―っ」


 夕方の遊園地に、山吹くんの叫び声が虚しく響き渡っていた。


 *


 遊園地デ―トもどき兼告白大会から、一日置いて、月曜日。

 私は複雑な想いを持ちつつ、集合場所に向かっていた。


「紅花ちゃんっ」

「きゃあっ」


 突然後ろに引っ張られたかと思うと、私は背中を何かにぶつけてしまった。

 何に、と分かる前に、腕が伸びてくる。

 それはしっかりと、私の体を縛り付けた。


「おはよ、紅花ちゃん」

「……おはようございます、蒼平くん……」

「蒼平―っ! てめぇ、ふざけんなよっ」

「ちょっと、置いていかないでよぉ」


 後ろの問題を解決する前に、前からも問題発生。

 山吹くんが、怖い。

 ごめんだけど。

 蒼平くんは何とも思っていないのか、ますます私を引き寄せていく。


「おはよ、山吹にスイちゃん」

「おはよ、じゃねぇよ! さっさと離れやがれ……っ」

「やだね」

「そそそ蒼平くんっ!?」


 顔が最高に熱い。

 端から見れば、本当に真っ赤になっているかもしれない。

 対称的に目の前の山吹くんは、顔を真っ青にしている。


「さ、遅れるから、行こっか」


 やっと解放されて、私も山吹くんもほっと息を吐いた。

 でも、その安心も束の間。

 今度は手を握られた。

 しかも普通じゃなくて、恋人繋ぎとかいう、そういう繋ぎ方。

 再び青くなった山吹くんを嘲笑うかのように、鼻歌まで歌い出す。

 私の顔も思わず青くなった……気がした。


「……蒼平って、私に告白してたよね」

「スイ、お前、取り返して来いっ!」

「紅花ちゃん、鞄持とうか?」

「け、結構ですっ」


 蒼平くんの変化に、私も山吹くんもついていけない。

 スイでさえ、首を傾げている。


「山吹―。スイとゆっくり来なよ」

「誰がっ」

「え、山吹って……そんなに私のこと嫌いなの……?」


 スイが顔を手で覆って、泣き出した。

 ……正確には、嘘泣きだと思うけど。

 こんなことで泣くほど、スイは柔じゃない。

 それにも気付かないくらい余裕がなかったのか、山吹くんはオロオロし始めた。


「ちょっと、スイ? 俺は別にそういう意味で言ったんじゃ」

「先に行ってようか」

「おい、蒼平、先に行くなよっ」

「うわ―ん」

「スイ―っ!?」


 蒼平くんは吹き出しそうなのを、必死に堪えている。

 スイも口許が微かに笑っていた。

 ……頑張れ、山吹くん。

 私は蚊帳の外から……。


「紅花―、山吹がぁ」

「えぇっ? ちょ、ちょっと」


 ……応援しているはずだったんだけど。

 スイに抱き付かれて、私の願いは虚しく散っていった。

 うぅ……やっぱり、私って巻き込まれる運命なの?

 私は戸惑っていた。

 もしかしたら、先週よりも大変な状況かもしれない。


 *


 時は過ぎて、やっと放課後。

 いつもなら、これから遊びに行けるくらい元気なんだけど……私と山吹くんは疲れ切っていた。

 それはもう、うなだれたくなるほどに。

 実際、山吹くんはうなだれていた。

 何度確認しても、今日は月曜日。

 あと四日間は学校に来なきゃいけない。

 この調子だと、絶対一週間持たない。


「スイ、どうしよ」

「さぁねぇ。日曜日に何かあったのかも」

「何があったら、あんなに変わるんだよ……」


 先週と違って、今日は蒼平くんが職員室に呼ばれていた。

 この調子だと、明日は私かもしれない。

 どうでもいいけど……なんか嫌だ。


「……帰らね?」

「今の蒼平に喧嘩売るの?」

「んなんじゃねーけど」


 待ってて、と言われて、断れなかった三人は、教室で頭を抱えていた。

 四角関係の次はこれだと思うと、疲れが増すような気がする。


「蒼平、実は紅花狙いだったとか」

「それは絶対にないっ」


 スイの予想に、私じゃなくて山吹くんが食いついた。

 何気に酷くないかな、それ。

 確かにそうかもしれないけど……そんなはっきり言わなくても。

 結構堪えるんだよ。

 うん。


「でも、そうしか考えられないことない?」

「恋愛相談受けてたんだけど」

「気を引くため、とか。それは何とでも言えるでしょ」


 スイの言葉に、ちょっとだけ期待が生まれる。

 両想いかもしれないってこと?

 思わず笑みが浮かんでしまった。

 山吹くんは拗ねたように、私たちから目を逸らす。


「どっちにしろ、山吹は諦めなきゃね」

「はぁ? なんでだよ」

「完全に、じゃなくても、明らかに蒼平の矢印は、私から紅花に移ったじゃない。紅花の矢印は、蒼平に向いてる。……さて、何処に山吹の勝ち目があるの?」

「……あるかもしんね―じゃん」

「ないね。てか、山吹が紅花を見てる限り、私も報われないんだけど」

「俺に言うなよ、それ」


 はぁ、と大きなため息二つ。

 私は苦笑いを浮かべながら、二人を見ていた。

 なんだかんだ言って、お似合いだと思うんだけどな。


「な―に、話してんの?」


 視界の隅から、腕が伸びてきたことに気付いた時には、もう遅かった。

 例の如く、すっぽり。

 今日はず―っと、この調子で捕まっている。

 悲しいけど、慣れちゃいました。

 慣れたくなかったけど。


「……早かったな、蒼平」

「事務処理は得意だから、俺」

「んなこと、どうでもいいよ」


 苛々の最高潮っぽい。

 コツコツ……とリズムよく立てている音が、段々速度を増してきた。

 遊園地の時みたいに、叫びそうだ。


「蒼平、一つ聞いてもいい?」


 意を決したように、スイは切り出した。

 教室の空気が少し重たく感じる。

 多分スイも山吹くんも感じているだろう。


「一つと言わず、何個でもど―ぞ」

「……蒼平の好きな人は、誰?」

「……言わなきゃダメ?」

「言えよ。俺らの好きな奴知っといて、お前だけ言わないのは、不公平じゃね?」


 私も小さく頷く。

 顔は見えないけど、蒼平くんは迷ってた。

 腕の力が少しだけ強くなる。


「蒼平くん?」

「俺が好きなのは……スイだよ」


 震えているのは、声だけじゃない。

 腕も背中に触れる体も、小さく震えている。

 ……何に震えてる?

 何が蒼平くんを。


「じゃあ、紅花から離れろよ」

「……なんで」

「好きじゃないくせに、紅花に変な期待持たせんなよっ!」

「ふ―ん……分かったよ。……ごめんね、紅花ちゃん」

「だ、だめっ」


 離れていく手を、思わず掴んでしまった。

 誰もが驚いている。

 私も自分で驚いていた。

 ……何してるんだろ、私。

 き、聞かれたら、どうしよ……っ。


「紅花ちゃん?」

「紅花?」

「……ごめん、何でもない」


 手を離して、代わりにスカ―トを握り締めた。

 顔が熱い。

 恥ずかしい。


「……あ―っ、無理」

「ひゃあっ」

「蒼平!?」


 髪をグシャグシャっと撫でられて、また腕の中に収められた。

 ……な、何があったんでしょう?


「やっぱ、山吹には勿体ない」

「はぁっ?」

「紅花ちゃん、可愛過ぎ」

「えぇっ!」


 スイが呆れたように、ため息をついた。

 私と山吹くんは、訳が分からないと顔を見合わせる。

 蒼平くんは、乱れた私の髪を直してくれていた。


「山吹くん、何これ」

「知らね―よ」

「……私、大丈夫なの?」

「分かんね……」


 ……神様、私、どうなっちゃうんでしょう?

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