カラフル関係。
ず―っとこのまま、四人で笑っていられるって、思ってた。
友達以上恋人未満、なんて言葉が、私たちにはぴったりで。
これ以上の進展なんて、いらなかった。
……それなのに、こんなことになるなんて。
「俺、お前が好きだっ」
二日前、何かと笑わせてくれる山吹くんに。
「私、山吹が好きなの」
昨日、何かと引っ付き回る一番の親友のスイに。
……そして、今日。
「俺、スイちゃんが好きなんだよね」
私が密かに思っていた人……蒼平くんに。
気付いてしまった、私たちの単純なようで、単純じゃない関係。
絶対に交わることのない、三角関係ならぬ、四角関係だなんてっ!
神様、少し非情過ぎませんか?
*
「聞いてくれてるの、紅花ちゃん」
「聞いてます―っ」
呆れたようにため息をつく蒼平くんに、私は顔を引きつらせた。
本当にため息をつきたいのは、そっちじゃなくてこっちだ。
ただでさえ、ショックで挫けそうなのに。
「俺、泣いていい?」
泣きたいのもこっちです。
涙が思わず零れそうになる。
色んな意味で、辛い。
涙を堪えつつ、私は蒼平くんに尋ねた。
「で、なんで私に言うのかな」
「協力してよ。スイちゃんと仲良いじゃん」
「蒼平くんも仲良いじゃない。山吹くんもいるし……わざわざ私に」
「男に相談しても、仕方ないだろ。特に山吹なんて、恋愛疎いし」
その疎い山吹くんが、一昨日私に告白してきたことを、蒼平くんに教えてもいいでしょうか。
少なくとも蒼平くんよりは、山吹くんの方が上にいる気がするけど。
相談とかしなかったようだし。
言っちゃ……いけないんだろうなぁ。
うん。
「本当に俺を泣かせたいんだね、紅花ちゃんは」
「……もういい。蒼平くんなんて、一人で寂しく泣いてればいいんだ」
「何、拗ねてんの」
蒼平くんは困ったように笑うと、ポケットから飴を取り出した。
いちごミルク味。
差し出してくるけど、受け取りにくい。
だって味が味なんだもん。
私より、スイが好きそう……って、スイが好きだから、か。
渡せなかった分が、私に回ってきた……と。
「どーぞ」
「何」
「あげるから、機嫌直して?」
目の前で、薄桃の包みがゆらゆらと揺れる。
その奥で、大好きな人の笑顔がちらちらと映る。
「……―っ! いらないっ」
「え―、おいしいのに」
ちょっとだけ寂しそうな顔をして、蒼平くんは飴をポケットにしまった。
私から目を離したかと思うと、突然立ち上がる。
蒼平くんの視線の先には、呼び出しから戻ってきたスイと山吹くんの姿があった。
「用事、終わった?」
「蒼平、聞いてよ―。山吹ったらね……」
「はぁ? 俺は何もしてないだろ―が」
離れた場所で湧き上がる笑い声に、胸が苦しくなる。
三人の恋。
私はどの恋を応援して、どの恋に協力すればいいんだろう。
「紅花、帰ろっ」
スイの笑顔を見て、私は渋々重たい腰を持ち上げた。
仕方ない、か。
取り敢えず、今日はスイが幸せそうだから、よしとしよう。
*
明日、また考え直せばいいや。
丁度休みで、予定も入ってないし。
そんなことを考えながら、前を歩く三人の背中を見つめていた。
背の高い蒼平くんと山吹くんの間に、小さなスイ。
そして、スイは当然のように、山吹くんの腕に自分のを絡めている。
山吹くんは、心配そうに何時かこちらを振り返っていたけど、その度にスイが遮っていた。
……こっちに来ようとしてる努力は、ちゃんと認めてます。
にしても、面白いなぁ。
そんなことを考えていると、今度はスイと蒼平くんまで振り返った。
「紅花、明日暇だよね?」
「遊園地行こうよ。四人分のタダ券貰ったんだ」
……協力してくれるよね?
つ―か、するよね?
友達だもんね?
言外にそう言われたような気がするのは、気のせいだろうか。
ははは、二人の笑顔が怖いや。
「行くよね?」
「紅花ちゃん?」
「行かないとか、言うなよ」
「行きます、行けばいいんでしょっ」
なんでこんなに苛々しなきゃいけないのよ。
どうして、この三人は私の気持ちに気付かないのかな。
自分たちの微妙な関係にすら気付けてないから、仕方ないと言えば、仕方ないかもしれないけど。
私も気付けないかもしれないけど……でも。
「スイちゃん。この前、紅花ちゃんと一緒に買ってた、白のワンピース着てきなよ」
「え―、どうしよっかな。山吹はどう思う? 可愛いかな」
「紅花もそれ着て来いよ!」
この会話が噛み合ってない気がするのは、私だけでしょうか。
前から、こんな違和感たっぷりだったっけなぁ……。
私も結構疎いらしいから、気付けなかった。
今思うと、本当に謎だ。
「紅花、どうかしたか?」
黙り込んでしまった私を、心配そうに見てくる山吹くん。
「山吹、聞いてくれてる?」
なかなか返事をくれない山吹の袖を、不機嫌そうに引っ張るスイ。
「可愛いと思うよ? 山吹に聞いても、疎過ぎるからダメだって」
山吹くんの代わりに答えて、しれっと嫌味も言ってる蒼平くん。
「蒼平の方が疎いだろ―がっ」
「山吹っ! 可愛いの、可愛くないの!?」
「あ―もうっ。私、こっちに用事あるから、じゃ―ねっ!」
さすがにもう、仲良いとか、好きな人とか、告白とか、協力とか、どうでもよくなって、私は逃げるように、近くにあった曲がり角を曲がった。
……ちゃんと帰れるのかな、私。
予想通りというか何というか。
家に着いた頃には、日も沈み切っていた。
道に迷わなかっただけ、よかったかも。
思い切り遠回りだった。あの道は二度と曲がりたくない。
今頃、スイも蒼平くんも明日の服を選んでるんだろうな。
いつもより遅い時を指す時計を見ながら、ふと思った。
山吹くんも、私なんかのために、おしゃれ……しないよね。
されても困る……と思うのは、失礼かもしれないけど。
重たいじゃん、なんか。
ただでさえ、三つも荷物を背負わされてるのに。
「ワンピースねぇ……」
山吹くんにあぁは言われたものの、着て行くつもりはなかった。
というか、着たくない。
……だって、蒼平くんはスイに言ったんだよ。
似合ってるって、可愛いって。
「……諦めた方が、いいのかなぁ」
大きくついたため息は、誰にも届かない。
*
いっそのこと、雨が降ったらよかったのに。
そんな思いも叶わず、頭上に真っ青な空が広がっている。
天気まで、私を見放したらしい。
……もう、どうでもいいけど。
集合場所、遊園地前。
私は例のワンピースに身を包んで、三人を待っていた。
本日何度目かのため息をつく。
……重過ぎるのよ、今日一日が。
幸い三人はまだ来る気配がないので、心置きなくため息をつきまくっていた。
端から見たら、結構痛い子だよな、私。
遊園地の入口にある時計は、十時半を指そうとしている。
メ―ルで十時集合って回ってきたのに、誰も来ない。
……遊園地、間違えたかな。
でも、ここしか近場はないし。
違うなら、駅前集合だろうし。
「あ、紅花ちゃん」
顔を上げると、蒼平くんが手を振りながら、駆け寄ってくるのが見えた。
見慣れたはずの蒼平くんの私服。
なのに、やっぱりドキドキしてしまう。
諦めるなんて、出来ないのかも。
「ごめん、待ったよね?」
「ううん。まだ二人も来てないし」
「あぁ、二人には十一時に来てって言ったから」
へぇ、だからいくら待っても、来なかったんだ……って。
「な、ちょ、へっ!?」
「俺だけじゃ、ダメだろ」
「な、何が?」
「恋愛相談。お互いにしなくちゃなって」
照れたように笑う蒼平くん。
それが蒼平くんの優しさなんだろうけど。
やっぱり痛過ぎるよ、うん。
「紅花ちゃんは、好きな奴いるの?」
普通に聞かれた。
だから、普通に答えなきゃ。
そう思うけど、言葉が出てこない。
言うべきことは一つなのに、それがなかなか言えない。
「紅花ちゃん?」
「あ、うん。好きな人は……いないよ。うん、いない」
「……そっか」
嘘じゃない。
好きじゃなくなる予定だもん。
嘘、なんかじゃない。
そう自分に言い聞かせて、ごめんね、と謝った。
「いや、いないんなら仕方ないよ。出来たら、教えて? ちゃんと協力するから」
「うん……ありがと。そろそろスイたちも来るかなぁ」
時計を見ると、もう少しで十一時。
遠くに、二人の姿が見えたような気がした。
「着いたんだから、離せよっ」
「別にいいじゃん。減るもんじゃないし」
「減るっ、色んなもんが減りまくる!」
べったり引っ付くスイに、山吹くんはタジタジだった。
視線で必死に助けを求めてくる。
助けてあげたいけど、スイの気持ちを考えると、下手に出ていけない。
そこが難しいとこだよね……この関係って。
山吹くんには悪いけど、ここは見捨てることに決めた。
「仲良いよな、あいつら」
「……だね―」
仲が良いにしては、ちょっと度が過ぎてる気がするんですが。
気付いていないフリをしてるだけだろうけど。
「辛い? やっぱ」
「ん? ……あ―、まぁちょっとだけ」
少しだけ落ちた声のトーンに、胸が苦しくなる。
聞かなきゃよかった。
あんなこと。
なんてこと、言っていられる立場でもないんだけど。
「お化け屋敷行こ―っ」
「はぁ? お前、一人で行けよ」
「何言ってんの。アンタに拒否権なんかありませ―ん。ほら、さっさと歩くっ」
「ちょっ、紅花―!」
「紅花に迷惑掛けないの―」
「お前が一番迷惑だよっ」
無惨に引き摺られていく山吹くんを哀れに思いながら、私と蒼平くんもゆっくり歩き出した。
県内一怖いお化け屋敷。
範囲狭いな、と突っ込みながら、私たちは古びた建物に入った。
薄暗い建物の奥から、叫び声が響く。
こことぞばかりに密着するスイに、山吹くんもとうとう諦めたようで、大人しく引っ付かれている。
「じゃ、先に行ってるね」
「え、四人で行かないの?」
協力してくれるよね? とスイの顔に書いてある。
きょとん、としたように蒼平くんが見てくる。
疲れ切った山吹くんの背中が、何故か痛々しく見える。
「あぁ、俺ら、後から行くから。お先にど―ぞ」
「ありがとっ。山吹、行こっ」
「……」
返事する余力もないらしい。
やっぱり可哀相だけど、山吹くんの犠牲って結構大きいんだよな。
……うん、ごめんね。
後でちゃんと謝っとこ。
二人の姿が闇に消えてから暫くした後、私たちも出発することにした。
「なんか、ごめんなさい」
「何が?」
「協力、出来なくて」
スイの協力は出来ていると思う。
でもそうなると、蒼平くんの協力は、出来てないことになる。
それがちょっぴり苦しかった。
「仕方ないでしょ。紅花ちゃんに、そこまで求めてないし」
「でも、全然」
「ほら、行こ? ……もしかして、怖い?」
「怖くないですっ」
からかわれて、一気に顔が熱くなる。
ほてった顔を見られないように、私は早足で、奥へと進んだ。
「遅かったね、紅花たち」
「あ―、紅花ちゃん、途中で腰抜かしちゃったから」
「抜かしてないもんっ」
十五分で出れるはずのお化け屋敷を、倍の三十分掛けて、私たちは出てきた。
出口には、待ちくたびれた二人の姿。
相変わらず二人の距離は、無いに等しい。
「なぁ、疲れたし、先に昼飯食わねぇ?」
「うん、いいね! と、その前に、紅花」
「な、何」
「話があるから、ちょっと来て」
スイは私の手を取って、二人から離れようとした。
離れられなかったけど。
……山吹くんの手が、私の腕を掴んだから。
「俺も話がある」
「じゃ、俺も―」
蒼平くんには、肩に提げてた鞄を掴まれた。
……はい、今どんな状況?
「私が先に言ったんだから、アンタたちは後でしょ」
「譲れよ。お化け屋敷、付き合ってやったんだから」
「間を取って、俺とか」
「……ここで、一度に言ってくれた方が楽なんだけど」
大体言われそうなことは、検討ついてるし。
蒼平くんの話は、全く分からないけど。
話すようなことは……ないはずだし。
あったらあったで、お化け屋敷の中で言っただろうし。
「言えないような話なの?」
「そんなんじゃないけど」
「せ―の、で言うか!」
「……その『一度』じゃないでしょ」
「いいじゃん、それで。ね、紅花」
頷くと、三人は一斉に私から手を離した。
一呼吸置いてから、視線が集まってくる。
何というか、聖徳太子の気分だよね、これ。
「どうぞ?」
「じゃ、せ―のっ」
顔まで近付けてきた三人に、私は身を堅くしながら、耳を澄ませた。
「告白するっ」
「返事しろっ」
「協力してっ」
……見事にバラバラ、か。
予想通りといえば、予想通りだけど。
返事って……すっかり忘れてたし。
仮に覚えてたとしても、そんな場合じゃなかった。
……断った方がいいかなって、スイから相談受けた時は思ったけど。
ちょこっと。
「返事って、何の返事? 紅花に何かしたの?」
「な、何もしてねぇよっ。蒼平こそ、協力って何だよ」
「山吹には関係ない。それより、スイは誰に告白するの?」
「誰でもいいでしょ。蒼平に言うほどじゃない」
「あの―……ねぇ」
ちょっと失敗だった?
完全に蚊帳の外の私は、その光景を見ているだけしか出来なかった。
三人が三人とも、私のこと忘れてる気がする。
……今帰ってもバレなさそう、と思った瞬間、再び三人の視線が私に集まった。
「どういうことっ!?」
……泣いていいですか、神様。
*
気まずい雰囲気の中、昼食を取った後、乗り物も乗らずに歩き回っていた。
デートを目論んでた三人は、後ろで何やら話し込んでいる。
……昨日の帰りと、正反対だ。
「これから、どうする?」
「どうするって、スイが決めろよ」
「私が? なんで?」
明らかに嫌そうな声。
それもそうだろう。
デート失敗だもん。
機嫌がいい訳もない。
一番スイが楽しみにしてたし。
「俺、慰めてくる」
「山吹が慰めても、逆に怒らせるだけ」
「そうよ。これ以上、紅花を怒らせてどうすんのよ」
誰も怒ってないし、慰められる必要もないんだけどな。
どうして、こうなったんだろう。
あの後、私は何も答えなかった。
答えたら、何かが終わりそうな気がして。
四人が離れてしまいそうで、言えなかった。
あれから何も話さない私に、三人ともが怒ったと判断したのだろう。
それで、今に至る。
後ろであ―だこ―だ言い合っているのを暫く聞いている内に、人通りの少ない場所に出た。
結構奥地まで来てしまったようだ。
足を止めて振り返ると、三人ともビクッとして、体を強張らせた。
距離は、数メ―トル。
恋を諦めようとした私と、頑張っていた三人との距離も、もしかしたらこんな感じだったのかもしれない。
「一つ、提案があるんだけど」
そう言って、微笑んでみる。
三人それぞれが不思議そうな、かつ複雑な表情を浮かべた。
「告白大会、なんてしてみない?」
私もするから。
心の中で小さく付け加えた。
私にとっても、三人の微妙な雰囲気にとっても、それが一番最適だと思う。
もし、四人が強い関係なら、私たちはここで終わらない。
それぞれの恋が叶わないのは、知ってる。
失恋に耐えられないなら、それだけの関係だったってこと。
「俺は、いいよ」
蒼平くんが一番に言ってくれた。
でも、後がなかなか続かない。
暫く沈黙が流れて、私は戸惑いが出てきた。
……結局は怖いんだ、四人が四人じゃなくなることが。
失恋なんかよりも。
「私も……するつもりだったし」
「俺だって、何回でもやるし!」
表情を堅くしたまま、二人も頷いた。
内心ほっとしながら、私も頷いた。
深呼吸を一つして、口を開く。
「じゃ、せ―の、で行くよ? ……せ―のっ」
「俺、スイが好きだよ」
「私、山吹が好き」
「俺、紅花が好きだ!」
「私は……蒼平くんが好きです」
一瞬の間が空いて、突然スイが笑い始めた。
それを見て、抑え切れなくなったかのように、蒼平くんも笑い出す。
遅れて、私と山吹くんも苦い笑いを浮かべた。
「ちょっと、それどうなのっ?」
「協力なんて、出来ないじゃん」
「うっわ―……蒼平に負けたし!」
山吹くんは、頭を抱えて座り込んでしまった。
「残念だね、山吹」
「うるせ―、黙れ。バカ蒼平」
何がおかしかったのか、蒼平くんは腹を抱えて笑っている。
スイと目が合って、二人で苦笑いした。
「四角関係って、ホントついてないね、私たち。……ごめんね、色々と」
「ううん。私こそ、何も出来なかったし……言わなかったから」
「よ―しっ、今から入口にあったゲ―センではしゃぎますか」
「賛成っ! ほら、山吹、さっさと立てよ」
「俺、そんな気分じゃないよ……」
「私……行きたいな、四人で」
ちょっとしおらしく言ってみたら、蒼平くんが思い切り吹き出した。
隣でスイも笑いを堪えている。
……なんか傷付くな、これ。
「紅花ちゃんが行きたいって言ってんのに、行かないの?」
「行くよっ! お前に言われなくても」
山吹くんは勢いよく立ち上がると、先に歩いていってしまった。
その後をスイが慌てて追いかける。
私は一瞬蒼平くんと目が合った後、何故か気恥ずかしくなって、逃げるようにその場を離れた。
*
「あ―、あれ欲しい! 山吹、私のために取ってきて?」
「なんで、スイのために取らなきゃなんね―んだよっ」
「紅花ちゃんもいる? 取ってあげるよ」
「本当? 欲しいっ」
「おいっ。紅花のは俺が取るんだよ! 蒼平はスイの分を取れっ」
「紅花は蒼平のがいいの。諦めなさい」
「ちょ、おいっ」
端から見れば、おかしな四人だろう。
ゲ―ムセンタ―の音に負けないように、声を張り上げて話すのは、まるで漫才のような会話。
私は蒼平くんの言葉に驚きつつも、嬉しくてはしゃいでいた。
それがショックだったんだろう。
山吹くんはそれから、終始落ち込んでいた。
スイに連れ回される姿は、何とも言えなかった。
「蒼平はスイが好きなんじゃなかったっけ」
「あ―うん」
「じゃあ、俺の邪魔すんなよ!」
ゲ―ムセンタ―を出た途端、山吹くんは蒼平くんに文句をつけ始めた。
スイはというと、山吹くんが仕方なく取ったぬいぐるみを抱き締めて、プリクラが出来るのを待っている。
私の手にも、蒼平くんと山吹くんが取ったぬいぐるみが二体ある。
「紅花ちゃんは、お前じゃなくて、俺が好きなんだし」
「お前はスイが好きなんだろ―がっ。紅花じゃなくて、スイと一緒にいろよ!」
「紅花ちゃんは俺といた方が楽しいもんな―」
「え、あ、どうだろ……あ、あはは」
それを私に聞かないでください。
そりゃ、楽しいかもしれないけど……山吹くんと一緒にいるのも楽しいし。
四人でいることに慣れてるから、特別これといって楽しいって訳でもない。
逆に四人でいるから、楽しい気もする。
「ちょっと紅花―、見て見て!」
出来上がったプリクラを片手に、スイが駆け寄ってくる。
取り敢えず助かったと思って、私はその場から逃げた。
蒼平くんまで複雑な表情を見せていたけど。
「どうしたの?」
「紅花もやるじゃんっ」
スイの言葉に首を傾げながら、プリクラを覗き込む。
一見普通のプリクラ。
何が『やる』のかよく分からない。
「お―、綺麗に出来たね」
蒼平くんも近付いてきて、プリクラを覗き込んだ。
渋々といった感じで、山吹くんも覗き込む。
「うぎゃ―っ!!」
覗き込んだ瞬間、山吹くんが叫んで、スイの手からプリクラを引っ手繰った。
スイと蒼平くんは顔を見合わせて、笑っている。
「何か変なのあった?」
「蒼平、お前……絶対許さねぇっ!」
「ちょっと、山吹くん?」
「紅花、アイツはやめとけ。俺と付き合えとは言わないから、アイツだけはやめとけ」
いきなり肩を掴まれて、言い聞かせるように揺すられた。
何がなんだか分からない私は、ただ首を傾げるしか出来ない。
「はいはい、スト―ップ」
暫く揺すられた後、後ろに引っ張られて、山吹くんの手から逃れられた。
頭がフラフラする。
ぼうっとなってると、後ろから首に腕を回された。
「たかが抱き締めたくらいで、ギャ―ギャ―叫ぶことないでしょ」
「叫ぶわっ」
「私もあれくらいして欲しかったなぁ」
「誰がするか―っ!」
……抱き締める?
あぁそう言えば、確かにそんなプリクラも撮った気がする。
でもそれは、プリクラならではのおふざけで、普通なんじゃ……。
「普通じゃね―よっ」
「う、ごめん……」
「あ―、山吹が紅花いじめてる―」
「ひっど」
「わ―っ! って、蒼平のせいだろうが―っ」
夕方の遊園地に、山吹くんの叫び声が虚しく響き渡っていた。
*
遊園地デ―トもどき兼告白大会から、一日置いて、月曜日。
私は複雑な想いを持ちつつ、集合場所に向かっていた。
「紅花ちゃんっ」
「きゃあっ」
突然後ろに引っ張られたかと思うと、私は背中を何かにぶつけてしまった。
何に、と分かる前に、腕が伸びてくる。
それはしっかりと、私の体を縛り付けた。
「おはよ、紅花ちゃん」
「……おはようございます、蒼平くん……」
「蒼平―っ! てめぇ、ふざけんなよっ」
「ちょっと、置いていかないでよぉ」
後ろの問題を解決する前に、前からも問題発生。
山吹くんが、怖い。
ごめんだけど。
蒼平くんは何とも思っていないのか、ますます私を引き寄せていく。
「おはよ、山吹にスイちゃん」
「おはよ、じゃねぇよ! さっさと離れやがれ……っ」
「やだね」
「そそそ蒼平くんっ!?」
顔が最高に熱い。
端から見れば、本当に真っ赤になっているかもしれない。
対称的に目の前の山吹くんは、顔を真っ青にしている。
「さ、遅れるから、行こっか」
やっと解放されて、私も山吹くんもほっと息を吐いた。
でも、その安心も束の間。
今度は手を握られた。
しかも普通じゃなくて、恋人繋ぎとかいう、そういう繋ぎ方。
再び青くなった山吹くんを嘲笑うかのように、鼻歌まで歌い出す。
私の顔も思わず青くなった……気がした。
「……蒼平って、私に告白してたよね」
「スイ、お前、取り返して来いっ!」
「紅花ちゃん、鞄持とうか?」
「け、結構ですっ」
蒼平くんの変化に、私も山吹くんもついていけない。
スイでさえ、首を傾げている。
「山吹―。スイとゆっくり来なよ」
「誰がっ」
「え、山吹って……そんなに私のこと嫌いなの……?」
スイが顔を手で覆って、泣き出した。
……正確には、嘘泣きだと思うけど。
こんなことで泣くほど、スイは柔じゃない。
それにも気付かないくらい余裕がなかったのか、山吹くんはオロオロし始めた。
「ちょっと、スイ? 俺は別にそういう意味で言ったんじゃ」
「先に行ってようか」
「おい、蒼平、先に行くなよっ」
「うわ―ん」
「スイ―っ!?」
蒼平くんは吹き出しそうなのを、必死に堪えている。
スイも口許が微かに笑っていた。
……頑張れ、山吹くん。
私は蚊帳の外から……。
「紅花―、山吹がぁ」
「えぇっ? ちょ、ちょっと」
……応援しているはずだったんだけど。
スイに抱き付かれて、私の願いは虚しく散っていった。
うぅ……やっぱり、私って巻き込まれる運命なの?
私は戸惑っていた。
もしかしたら、先週よりも大変な状況かもしれない。
*
時は過ぎて、やっと放課後。
いつもなら、これから遊びに行けるくらい元気なんだけど……私と山吹くんは疲れ切っていた。
それはもう、うなだれたくなるほどに。
実際、山吹くんはうなだれていた。
何度確認しても、今日は月曜日。
あと四日間は学校に来なきゃいけない。
この調子だと、絶対一週間持たない。
「スイ、どうしよ」
「さぁねぇ。日曜日に何かあったのかも」
「何があったら、あんなに変わるんだよ……」
先週と違って、今日は蒼平くんが職員室に呼ばれていた。
この調子だと、明日は私かもしれない。
どうでもいいけど……なんか嫌だ。
「……帰らね?」
「今の蒼平に喧嘩売るの?」
「んなんじゃねーけど」
待ってて、と言われて、断れなかった三人は、教室で頭を抱えていた。
四角関係の次はこれだと思うと、疲れが増すような気がする。
「蒼平、実は紅花狙いだったとか」
「それは絶対にないっ」
スイの予想に、私じゃなくて山吹くんが食いついた。
何気に酷くないかな、それ。
確かにそうかもしれないけど……そんなはっきり言わなくても。
結構堪えるんだよ。
うん。
「でも、そうしか考えられないことない?」
「恋愛相談受けてたんだけど」
「気を引くため、とか。それは何とでも言えるでしょ」
スイの言葉に、ちょっとだけ期待が生まれる。
両想いかもしれないってこと?
思わず笑みが浮かんでしまった。
山吹くんは拗ねたように、私たちから目を逸らす。
「どっちにしろ、山吹は諦めなきゃね」
「はぁ? なんでだよ」
「完全に、じゃなくても、明らかに蒼平の矢印は、私から紅花に移ったじゃない。紅花の矢印は、蒼平に向いてる。……さて、何処に山吹の勝ち目があるの?」
「……あるかもしんね―じゃん」
「ないね。てか、山吹が紅花を見てる限り、私も報われないんだけど」
「俺に言うなよ、それ」
はぁ、と大きなため息二つ。
私は苦笑いを浮かべながら、二人を見ていた。
なんだかんだ言って、お似合いだと思うんだけどな。
「な―に、話してんの?」
視界の隅から、腕が伸びてきたことに気付いた時には、もう遅かった。
例の如く、すっぽり。
今日はず―っと、この調子で捕まっている。
悲しいけど、慣れちゃいました。
慣れたくなかったけど。
「……早かったな、蒼平」
「事務処理は得意だから、俺」
「んなこと、どうでもいいよ」
苛々の最高潮っぽい。
コツコツ……とリズムよく立てている音が、段々速度を増してきた。
遊園地の時みたいに、叫びそうだ。
「蒼平、一つ聞いてもいい?」
意を決したように、スイは切り出した。
教室の空気が少し重たく感じる。
多分スイも山吹くんも感じているだろう。
「一つと言わず、何個でもど―ぞ」
「……蒼平の好きな人は、誰?」
「……言わなきゃダメ?」
「言えよ。俺らの好きな奴知っといて、お前だけ言わないのは、不公平じゃね?」
私も小さく頷く。
顔は見えないけど、蒼平くんは迷ってた。
腕の力が少しだけ強くなる。
「蒼平くん?」
「俺が好きなのは……スイだよ」
震えているのは、声だけじゃない。
腕も背中に触れる体も、小さく震えている。
……何に震えてる?
何が蒼平くんを。
「じゃあ、紅花から離れろよ」
「……なんで」
「好きじゃないくせに、紅花に変な期待持たせんなよっ!」
「ふ―ん……分かったよ。……ごめんね、紅花ちゃん」
「だ、だめっ」
離れていく手を、思わず掴んでしまった。
誰もが驚いている。
私も自分で驚いていた。
……何してるんだろ、私。
き、聞かれたら、どうしよ……っ。
「紅花ちゃん?」
「紅花?」
「……ごめん、何でもない」
手を離して、代わりにスカ―トを握り締めた。
顔が熱い。
恥ずかしい。
「……あ―っ、無理」
「ひゃあっ」
「蒼平!?」
髪をグシャグシャっと撫でられて、また腕の中に収められた。
……な、何があったんでしょう?
「やっぱ、山吹には勿体ない」
「はぁっ?」
「紅花ちゃん、可愛過ぎ」
「えぇっ!」
スイが呆れたように、ため息をついた。
私と山吹くんは、訳が分からないと顔を見合わせる。
蒼平くんは、乱れた私の髪を直してくれていた。
「山吹くん、何これ」
「知らね―よ」
「……私、大丈夫なの?」
「分かんね……」
……神様、私、どうなっちゃうんでしょう?




