キミの知らない私
ずっと好きな人がいた。
叶わないと知りながら、想い続けていた。
「そんなにソイツが好きなんだ?」
「んー、今は違うよ?」
「心ん中はどーやら」
拗ねたように言う彼に背中を預ける。
それを甘えと採ったのか、彼はすぐにギュッと抱き締めてくれた。
彼に言っていないことはたくさんある。
出会う少し前の私でさえ、少しも予想できないだろう。
私がそこまで隠し続けてきたこと。
大した理由かどうかは人次第といったところか。
少なくとも私と彼の間では未来に関わる重要なことだった。
「妬けるな」
「そうかな?」
「俺もそれくらい愛してもらえてるか心配だよ」
抱き締める腕に力が入る。
少し苦しいけれど、心地よいそれが私のお気に入りだ。
無くしたくない大切なモノ。
「そういや。もっと酷い奴を知ってる」
「私より?」
「あぁ。何かと物は無くなるし、常に視線は感じるし大変だった」
お前と付き合いだしてからは無くなったけど、と彼は苦笑いした。
もう懲り懲りだとでも言いたいような表情だ。
余程酷い思いをしたらしい。
「ストーカーとか、マジ意味分かんねぇ」
「……そうかな」
「大丈夫、お前のはまだ初歩だから可愛いもんだよ」
ストーカーに代わりはないのに、私のほんの一部の過去は彼の許容範囲内らしい。
可愛いものだなんて、ちょっと笑えた。
「ありがとな」
「私、何もしてないよ?」
「ストーカー撃退してくれただろ? ホント病みそうだったから助かったんだ」
もう一度感謝の言葉を繰り返し、彼はそっと触れるだけのキスを落とした。
彼は昔の私を知らない。
たぶん聞こうとはしないだろう。
過去に何があってもいい。
それがあったからこそ、今こうして一緒にいられるのだから。
そう彼は言う。
何も知らないままでいいのか、少し不安になる。
彼は私に感謝する。
ストーカーを撃退したからと言って。
でもそのストーカーは撃退された訳ではない。
彼が受け入れたから、ストーカーじゃなくなっただけ。
それを彼はまだ知らない。




