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フォーゲットユー

「お前、ほんま変わらんな」


 長い指が碁盤に黒を置く。私は何も考えずにその近くに白を置いた。


「……変わるようなことしてへんもん。てか、あんたは変わったな。なんか変やで」

「何がや。よし、勝った。お前弱すぎ」

「髪型」


 負けたことを掻き消すように並んだオセロを混ぜながら、言った。

 ぎょっとした顔で見てくるけど、知らん。気のせいや、気のせい。てゆーか、なんでオセロで五目並べしてるんやっけ。


「おまっ、す、ストレートやな」

「だってほんまのことやん」

「愛想ないんも、変わらへんね……」


 苦笑いしているだろう彼の顔を見ないように、私はポケットから携帯を取り出す。

 ……マホ、まだ帰ってけぇへんのかな。罰ゲームで買い物行ったけど、帰ってくるん遅すぎる。まさか、逃げてへんやろな。


「……ちょっとは愛想よくしたら?」

「うっさい。あんたに言われたないわ」

「へーへー、すんません。あ、マホ、帰ってきたみたいやわ。ちょっと迎えに行ってくる」

「行ってら。さて、宝探しよかな」

「すんなよ、頼むから」


 携帯を見ながら、部屋を出て行くオウを見送り、私は小さくため息をついた。

 ……今、オウの家に遊びに来ている。十年以上一緒に過ごしてきて、初めて部屋に入れてもらった。しかも、この町を離れた後に。

 もう、会うつもりもなかったんやけど。マホにも……オウにも。何がどうなって、ここにいるのかは忘れた。たぶん、流された。それだけ。

 部屋の主がいなくなって、急に居心地が悪くなる。


 なんでこんなとこ、おるんやろ。


「まだ、忘れてへんのにな」


 そっと疼く胸を押さえて、思う。

 ……こんなとこ、いるべきじゃない。そう、分かってるのに。分かってるのに、な。どうして来てしまったのか。


「もう、あかんな。……ほんま、ごめん、やな」


 階段を上がってくる音が聞こえる。二人が帰ってくるのも、時間の問題。声も鮮明に聞こえてきた。 佇まいを整えて、何事もなかったように携帯を開く。何事も、なかったように。


 ……好きやった。ただ、ただ、それだけ。

 ほんまに、好きやっただけ。きっとオウには迷惑やったんやろうけど。でも、伝えたかった。こんな想い、抱けるのはこのときだけやと、思てたから。

 ……ごめん、な。今すぐ忘れた方が、オウのためやって、分かっとる。でも、もう少しだけ、このまま。


「ちょー、こいつ、変なもん買ってきた!」

「だってそれしかなかったんやもんー。文句あるんやったら、やらんで」

「おま、それ、罰ゲームなってへんよ……」


 楽しそうに笑いながら戻ってきた二人を見上げて、私も笑った。



 ……いつか、絶対に忘れるから。だから、あとちょっとだけ、この痛みを感じさせて。

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