はつこい。
初彼氏は、隣の隣のクラスの誰か。
初デートは、よく知らない先輩。
初キスは、2つ向こうの駅の高校生。
……経験だけはある。
でも、それだけ。
「ね、俺と付き合おうよ」
「は? なんで」
「好きだから?」
疑問形になる意味がわからない。
明らかにからかわれているんだなと思い、私は彼を無視して止めていた足を動かし始める。
彼が伸ばした手を上手くすり抜け、心の中でガッツポーズ。
が、しかし。
「今日は逃がさないよ? 茅姫」
ちゅ、と音を立てて、首筋にキスを落とされた。
回された腕がいつもより強い。
いつもなら逃げ出せるのに、今日は出来なかった。
「ちょっと、離してよ」
「やーだね。そろそろいい返事を聞かせてほしいし」
顔、赤いよ。
耳元で囁かれ、背筋がゾッとした。
一気に体中が冷えた気がする。
「……汚い」
「朝シャンしてきたから、きれいですー」
「違う、私が汚いから」
爪を食い込ませるようにして、彼を引き剥がす。
うっすらと血が滲む爪に、少しだけ後悔してみる。
彼は少し驚いたように傷跡を見つめ、そして微笑んだ。
「……ふーん。罰ゲームのアレ、気にしてんだ?」
「次の人、待ってるから。……あなたとは無理だから。もう関わらないで」
代わりを出さないためにはこうするしかない。
もう、他の人を巻き込みたくないから。
1度犯してしまった失敗を思い出して、胸が苦しくなる。
「次の人ねぇ」
走って彼から離れたはずなのに、また長い腕に絡めとられる。
顔に触れる髪が痛い。
「……だけど」
「え?」
「次、俺だから。安心して、あの子みたいに終わらせてあげるよ」
だから、俺を好きになれ。
そう言って、彼は笑った。
誰よりも、きれいに。
その瞬間、あぁダメだなと思った。
最初からこの人に敵う訳がなかった。
……ずっと知らなかった初恋の味を教えてくれた人だから。
はつこい。
(初恋は、この人)
♯透明プリズム様/08.12.25 提出
12月お題『初恋』より。




