流行先取りしちゃいます
よし、と気合いを込めて、小さな箱を手にする。
もう何個目かわからないそれを今年で最後にしようと決めたから。
「頑張れ、私っ」
世間の甘い雰囲気に乗っかって、数年越しの片思いに決着をつける。
思いの詰まった手作りチョコに、バレンタインカード。
準備万端、忘れ物はなし。
……だったのに。
「これ、やるよ。バーカ」
そう言って、机に放り出されたのは私が包んだ小箱と同じ箱。
……いや、同じような、だ。
だって彼に渡す予定のモノはまだ私の鞄の中にある。
じゃあ誰のモノ?
……彼が他の誰かからもらったモノ。
そう考えるのが妥当じゃないか。
「……いい」
「チョコ、嫌いだったっけ」
「好きだけど」
人からもらったモノをもらう訳にはいかないよ。
そうはっきり言ったのに、残された小箱。
ぽつんと机に佇むそれはなんだか寂しく見える。
同時に悲しくなった。
……今まであげてたチョコ、食べてくれてないのかもしれない。
いや、たぶん食べてないんだ。
「ヘコむよぉ……」
はぁ、とため息をつき、小箱を手にとった。
軽い。
差出人の名前がないか、箱を1周させると、カードを見つけた。
う……手紙くらい抜き取っといてよ……。
せめてこれだけでも返しておこうと、カードを引っ張る。
そのデザインも私のモノと同じだった。
「……あれ?」
抜き取ったことで見えた宛名に思わず目を疑う。
女子にしてはすっごく汚い字……じゃなくって。
「私宛……?」
自分の名前が書かれたそれに疑問を抱く。
見たことがあるような字体だけど、誰からかはわからない。
その前に、今日は女の子が男の子にプレゼントする日だったはず。
女である自分宛の贈り物。
……言っちゃ悪いけど、気味が悪い。
だからと言って、すぐに捨てる訳にもいかず、取り敢えずカードだけ見てみることにした。
そっと開くと、宛名と同じ字が遠慮がちに並んでいる。
その内容を目で追って、私は思わず叫んでしまった。
「うえぇえっ」
「ど、どーしたの」
ちょうどお手洗いから帰って来た友達にギョッとされるが、そんなこと気にしてられなかった。
何度も何度もそれを読み返し、目を疑う。
やっと目の前の現実を信じれたときには、引きつった笑いしか出なかった。
そこに書かれていたのは彼からの秘密のメッセージ。
"好きだ、バーカ"
汚い字が今日だけは温かく感じた。
流行先取りしちゃいます
(なんかムカつくっ)
♯透明プリズム様/09.01.28 提出
02月お題『バレンタインデー』より。
おまけ→
あの顔、一生忘れらんねぇ。
教室の一角に視線を振り、込み上げる笑みを少しだけ浮かべる。
作戦は成功したらしい。
予想通りの反応が見れて嬉しい。
「何、きもい顔」
「うるせーな」
「で? お前の収穫は?」
昼休み。
フリーの男子が集まり、チョコの数を中間報告。
毎年のことだが、今年はちょっと……いや、全く違う。
「どーせお前がトップなんだろうけど」
「……マイナス1個だ」
「ほーら、ってえぇっ?」
「あ、放課後には0個かな」
きょとん、とした友達たちに笑顔で答えると、皆が皆顔を青くした。
頭がイカれた! なんて失礼極まりないことを抜かす奴もいる。
……確かに、イカれたかもな。
放課後の返事……たぶんOKなんだろうけど……を期待しつつ、俺はざわめく男の集団から抜け出した。
明日には夢にまで見た彼女との新しい関係が待っている。
「逆チョコ様々?」
溢れ出る笑みを手で隠しながら、心の中で大きく叫んだ。
流行先取りしちゃいます・おまけ
(ホワイトデーも計画済)




