懐かしレター
そこに映るのは、誰だったのだろう。
俺が映ったときは一瞬でもあったのだろうか。
歪む度に思う。
俺がいなければ、こんな表情をさせなかったのに。
俺がいなければ、俺がいなければ。
貴女はあの優しい笑顔で、俺じゃない誰かと……。
それでも手放せないのは、俺のわがまま。
欲しいものは全部手に入る。
そんな甘やかされた世界で育った、俺の最低な執着心。
切り捨てられたら、どんなに楽だろう。
押さえられたら、もっと貴女の幸せが見れるのに。
貴女の幸せを奪うのは、紛れもなく俺だ。
俺がその笑顔も優しい瞳も甘い声も全部奪った。
ねぇ。
俺が貴女の世界にいた時間は、貴女にとって苦痛でしかなかった?
こんな奴、さっさと死んでしまえと思ったことは何回あった?
頷かれるのが怖い俺は、最後までそれを尋ねることは出来なかった。
弱虫な俺は、ただ現実から逃げ出した。
貴女に嫌われている現実から、貴女に思われている幻想へその身を隠した。
ごめんなさい。
直接謝ることも出来なくて、ごめんなさい。
嫌われていく自分を受け止める勇気さえ持てない。
そんな情けない俺に、貴女のような人を好きになる資格なんてない。
身の程知らずで、ごめんなさい。
もう全部終わりにするから。
二度と貴女の世界には入らない。
だから、どうか遠くから見つめることだけは許して。
貴女の幸せを見届けるチャンスをちょうだい。
ずっと、好きだった。
恥ずかしいけど、一目ぼれだった。
貴女を好きになれたことは、決して後悔しない。
だから、どうかお幸せに……───
「ふふっ」
「……何、笑ってんの」
段ボールに詰める手を止めて、俺は部屋の真ん中で肩を震わせる彼女を振り返る。
人に手伝わせておいて、彼女は荷造りをサボっていたらしい。
「ごっめーん。懐かしいもの、発見しちゃって」
「ふーん」
「ストーカーからの手紙なんだけどね」
ストーカー、って。
突っ込みそうになって、慌てて視線を外した。
心当たりはある。
俺も、それ紛いのことをしていた。
だからと言って、ストーカーからの手紙を懐かしむ彼女はどこかおかしいと思う。
というか、絶対おかしい。
普通、すぐに捨てるだろ。
「愛されてるね、この頃の私は」
「……う、嬉しそうだね」
「嬉しいに決まってるじゃない」
さて、さっさと荷造りを終わらせちゃおう、なんて続けた彼女を心配して見つめる。
精神科で診てもらった方がいいんじゃないかと、正直本気で思った。
その懐かしい手紙の差出人であるストーカー。
それが俺のことだと気付いたのは、もう少し後のこと。
懐かしレター
(私、幸せだよ)
(……いきなり、何)
♯透明プリズム様/09.05.04 提出
05月お題『男の子目線』より。




