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そのセリフの意味は

 ピアノの音が止み、盛大に鳴り渡っていた拍手も止んだ。

 しんとしていたその空間に、ざわめきが戻る。

 時々鼻を啜る音が聞こえるのは、この時間の最も象徴的な要素なのかもしれない。


「先輩、卒業しちゃったよぉ」

「ハイハイ。なんでそこまで泣くのかな」

「わーんっ」


 大泣きしている親友を慰めながら、私は体育館の外に出る。

 今日は卒業式。

 クラス代表で出た一年の私たちには、まだ程遠い行事だ。


「好きな先輩でもいたっけ?」

「いないけどー」


 冷めてる。

 それは私も自分で思う。

 けれど、全く関わりのない今回の卒業生に、寂しさを感じるなんて無茶な話だ。

 涙なんか出せない。

 彼女のような緩い涙腺だったら、少しは流せたのかもしれないけど。

 

「なんで泣かないのーっ」

「……知らないわよ。ほら、片付けがあるんだから、早く泣きやんで」

「無理だからぁ」


 とうとうしゃがみ込んでしまった彼女を見て、小さくため息が漏れた。

 確かに、蛍の光とか仰げば尊しとか、送辞や答辞を聞いていれば、うるっとはくるけど。

 そこまで泣けるかなぁ、なんて呆れていた。

 ……あぁ、もちろん彼女も私同様、関わりのある卒業生はいない。

 でも、これだ。


「もー、先行くからね」

「いってらっひゃい」


 顔を伏せたまま手を振る彼女に背を向けて、体育館に入ろうとすると、ふと視界に知らない男子が入った。

 何故か気になって、そちらに体を向ける。

 じっと目を凝らすと、胸に赤い飾りが見えた。


「卒業生、か」


 そりゃ知らないのも当たり前だ、と踵を返そうとしたとき、彼がこちらに気付いて手を振った。

 呼び寄せているようなそれに、私は辺りを見渡す。

 誰もいないのを確認して、自分を指差せば、彼は満足そうに頷いた。

 ……私に何の用だろう。

 知らない先輩から呼ばれる理由はない。

 首を傾げながら彼に駆け寄る。


「よかった。気付いてくれて」

「私に何か用ですか?」

「君に会えるのを楽しみにしてる」

「……は?」


 楽しみも何も、今この場所で会ってる。

 楽しみにしてた、の言い間違いだろうか。

 でも、彼は言い直すことなく、私に手を振りながら、校舎の中に消えていった。


「なんだ、ありゃ」


 ……私がその意味を理解したのは、一ヵ月と少し経った頃。

 そして、その日から"隠れんぼ"が始まった。


「せんぱーい、見っけ」

「なんでっ!」

「先輩のいるとこなんて、俺にかかればすぐです」

「……っ、追いかけてこないでよ、ストーカー!」

「無理でーす」


 そんな生活はまだ始まったばかり。

そのセリフの意味は

(ストーカー弟からの伝言)

♯透明プリズム様/09.03.11 提出

03月お題『別れと出会い』より。

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