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夏心、ちょっぴり憂鬱

 暑い。

 そう呟いて、すぐに後悔した。

 無駄口なんて叩かない方がいい。

 無駄なモノは本当に無駄であって、現に今も気温が一度ぐらい上がった気がする。

 耐えきれず扇風機の風量を二段階上げる。

 風音が増すと同時に、慌ただしい足音が聞こえてきた。


「おい、あったぞ」


 騒々しく開け放たれた障子の向こう、額に汗を滲ませた彼が何処か嬉しそうに仁王立ちしていた。

 その片腕には紺色の布が垂れている。


「……ちっ。見つけてくれなくてよかったのに」

「何言ってんだよ? 約束だから、ちゃんと着ろよ」

「なんで浴衣なんか」

「夏と言えば浴衣に決まってんだろ、ほら」


 差し出された浴衣には運び方に問題がありすぎて、小さな皺が浮かんでいる。

 呉服屋の息子のくせに、彼の扱いは酷かった。

 私の方が数倍上手く運べるに違いない。


「約束なんだから、ちゃんと守れよ?」

「ハイハイ」


 今日は地元で唯一の夏祭りの日。

 行く気なんて更々なかったのに、何故かこんなことになっている。

 彼と私がいわゆる男女関係にあったなら、少しは気分も違ったのかもしれない。

 でも生憎ただの腐れ縁。

 友達以上恋人未満な関係だ。

 それが息苦しくなることもないし、むしろ友達でよかった。

 それ以上なんかいらなかった。

 なのに、どうしてだろう。

 周囲はそれ以上を望んで、いつも通りを奪おうとする。

 変わらないはずだった私たちの間もだんだん変な感じになっていた。

 だから、終わりにした。

 一方的に別れを告げて、もう関わらないと決めていたのに。


「今日こそ貰うからな?」

「……あげません」


 逃げるように離れた地元に帰らなければよかった。

 そしたら、会わなくて済んだのに。

 こんな小さな町、入ったら逃れられない。

 密かに帰省、なんて夢の話。


「取り敢えず浴衣着て。それから俺の部屋で俺に襲われろ」

「……っ、はぁ!?」

「忘れられないようにしてやる。今度こそ、な」

「ちょっ、祭に行くんじゃ」


 てっきりそう思っていた。

 ちょっといい雰囲気を作ってそれから甘く、なんてならないように計画していたのに。

 予想外の彼の計画。

 嵌まる訳にはいかなくて、私は浴衣を彼に投げ付けた。

夏心、ちょっぴり憂鬱

(早くしろよ)

(する訳ないでしょっ!)

♯透明プリズム様/09.07.16 提出

07月お題『「夏と言えば~だよね!」』より。

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