覚悟、よろしく
無理だと呟いたのは、隣の席の男だった。
「もう無理。無理無理」
「……えっと」
クラス替えをして、まだ一週間。
全く面識のない彼にそんなことを言われるような覚えはない。
だけど、その視線は私に向けられていて。
「だから、無理」
だからって、何。
私、何か言ったっけ?
誰もいない教室に、再び沈黙が訪れる。
さっきと違うのは、彼の視線だけ。
「……帰ってもいいですか?」
「ダメ」
即答されたけど、もちろん私たちはこの間知り合ったばかりで、そんなに仲良くはない。
ていうか、全く仲良くないはず。
帰宅を阻まれて、早三十分。
窓の外では野球部かサッカー部の掛け声が響き渡っている。
早く帰りたいのに、振り切る勇気がない。
ただひたすら、私は彼の許可を待つ。
何してるんだろう、私。
「なぁ、目閉じて」
「はぁ?」
「あ、やっぱ口開けて」
突然思い立ったように口を開いたかと思えば、意味がわからない要求を突き付けられた。
目は閉じなかったが、思わず口は開けてしまう。
その瞬間だった。
「きゃっ……、っ!」
強く引かれた腕。
バランスを崩した体を支えるように、近付いて引き寄せた彼。
重なったそれに気付くのに、たっぷり数秒を要した。
「んなあっ」
「無理無理、無理」
何が無理なのよっ!
まだ感触が残る唇を手で隠しながら、私は慌てて彼から離れる。
だけど、掴まれた腕に阻まれて、あまり距離を取れない。
「なんで、逃げんの?」
「ななな、何するんですかっ」
「何って、キス」
事故じゃない。
故意にやったんだ、この人は。
そんなことを思って、体を震わせる。
それが彼にも伝わったのか、掴む力が少しだけ緩んだ。
「だから、言ったじゃん」
当然のようにそう言った彼は、不敵な笑みを浮かべる。
何もかも計画通り。
今までも、これからも。
そんな表情は、たぶん一生忘れられない。
「もう、我慢の限界だから」
覚悟、よろしく
(順番が違わなくないですか!?)
(んなもん知るかよ)
♯プラチナ様/09.03.28 提出
03月お題『もう、我慢の限界。』より。




